プロローグ
「マジックアップ!」
薄く赤みがかった空の下、ソプラノの澄んだ声が草原の中に、吹き抜けていく風と共に響き渡る。
その直後、彼女の周囲にいる人間が淡く光を放ち始め、その光もほんの1秒程度で収まる。
「全員の出力魔力上昇、確認できました!」
「うっし。雑魚はあーしに任せな」
今度は、自信に満ちた低めの女の声。
言うが早いか、彼女は長いポニーテールを壮大に靡かせながら、手に持つナイフを握り締め、勢いよく駆け出した。
「じゃあ私たちはこっちだね。サファイア、アクアスクリュー!」
中性的な格好が特徴の男が言う。
サファイア、と呼ばれた青いタツノオトシゴのような生き物の目の前に、その小さな体に反して巨大な水の塊が形成され始める。
やがてそれは素早く回転し始め、回転速度が頂点に達した瞬間、恐ろしいほどの威力となった一本のジェットを噴出した。
「打つよ! ウィンドアロー!」
少年のような見た目をした男が叫ぶ。
彼が引き絞った矢を放つと、それは通常の弓ではありえない速度で飛んでいき、寸分違わぬ精度で目標を射抜いた。
「アイスプリズン!」
黒いローブを身に纏った女が、手に持つ杖をかざす。
その瞬間、凍てつく氷の牢獄が形成され、目標の身動きを封じた。
「動きを止めたわ! ──アラン!」
彼女がこちらを振り返る。
「うん! これで決めるよ!」
両手に握った剣に魔力を込め、それと同時に力強く地を踏み締めて走り出す。
剣の刀身が輝きだし、その光がひときわ強くなった瞬間、目標に到達する。
禍々しい存在感を放つ、全長50メートル近いほどの大木の魔物、キングウッド。
その目の前で、剣を大きく振りかざす。
「流星斬!」
神々しく輝くそれを、一思いに振り下ろした。