ロボヲタ令嬢〜スーパーロボットが存在する世界で「お前はパートナーとしてふさわしくない」と婚約破棄されたので隣国の皇太子と最凶合体を編みだしガッチャンガッチャンします〜
本当は……『スパ■ボ令嬢』ってタイトルにしたかったんだよおおおおおお!
「どけ! エリナ!」
そう言って、青空の広がる、広大な訓練場で。
衆目の前で私を『神機』から引き摺り下ろしたのは。
婚約者であり、私の所属するレグナント王国の王子であるガレス様だった。
「来い、セリーヌ!」
「はぁい、ガレス様♪」
ガレス様の呼びかけに、私の妹のセリーヌが颯爽と歩み出て、引き摺り下ろされた私の代わりに『神機』に搭乗する。
――『神機』は二人乗りだ。
コックピットが複座式になっていて、前に乗るのがメインパイロット、後ろに座するのが動力源と決まっている。
なので、ガレス様に前に座り、彼に名を呼ばれたセリーヌは後部座席へとひらりと飛び乗った。
――あの場所は、本当は私の場所であるはずだったのに。
そんな、私の悲しい気持ちをかき消すように、ヴン……、と『神機』の動力が起動し、瞳に模している部分に灯がともる。
そうして、そのまま――ばあっ――と、訓練場の彼方にある的に、力強く電磁砲が発射された。
『見たか、エリナ・クレアヴォイア侯爵令嬢。これが、無能のお前とセリーナの差だ』
そう言うとガレス様は、再び『神機』を私の方に向け、コックピットを大きく開けたのち、私に向けて見下すようにこう言った。
「だから、神機の能力も存分に発揮できないお前との婚約は、破棄だ」
と。
◇
「……はぁ……」
あの後「言いたいことはそれだけだ。わかったらさっさと王宮を出ていくんだな」とガレス様に言われ。
妹のセレーナからは「ざぁんねんね、お姉さま。婚約者もパートナーも、私が立派に務めて見せますわ」と嘲笑され、二人はそのまま仲睦まじく手を取り合い、私を置いて去って行った。
セレーナは『神機』のメンテナンス方法を知らないから、せめてそれだけは伝えさせてくれないか、と。
ちゃんとしたメンテナンスがされなくなってしまっては『神機』がかわいそうだと、二人に縋ったのだが、
「そんなもの、いちいちお前に聞かなくてもできる」
「やぁだ! 捨てられたくないからって取り縋っちゃって、みっともなあい!」
と軽くあしらわれて終わってしまった……。
「――レグナントきっての優等生と言われていたエリナ・クレアヴォイアが。寂しい佇まいだね」
そう言って、訓練場で呆然と佇んでいた私に声をかけてきたのは。
現在の連合国の筆頭国である、ヴァレオール帝国の皇太子――レオンハルト・ヴァレオール様だ。
「……レオンハルト様も見ていらしたでしょう。婚約破棄をされたのです。私」
レオンハルト様はこの度、筆頭国代表として各国の『神機』と、そのパイロットたちを視察するためにこの国を訪れたのだ。
その視察者の前で、無様にもお役御免を言い渡され、無能と言われた私は、悲しい気持ちを堪えて微笑む。
連合国、というのは7つの国からなる連合関係を結んでいる国々だ。
かつて国々は、泥沼の戦争を繰り広げつづけた結果、愚かな人間に呆れた神が、各国に一機ずつ『神機』という人を模した巨像のようなものを与えた。
――今後、争いを起こす際には、人を使って戦争してはならない。
どうしても問題が発生した場合は『神機』をつかって国家間で戦い、勝者となった国が敗者となった国を支配する権利を持つ――つまりは、指導権を持つ国とすべし、と。
ここ数年、ヴァレオール帝国は筆頭国――主導権を持つ国として揺るがぬ権威を保ち続けており。
そうして、目の前のレオンハルト様は、ヴァレオール国が誇る、『神機』の優秀なパイロットだった。
「君のような優秀な女性が、どうして婚約破棄なんてことになったんだい?」
そう尋ねられたところで、私にだってわからない。
ある日突然――、魔力が忽然と消えてしまったのだ。
先にも少し説明したが、『神機』におけるパイロットの役割は文字通り操縦者で。
そして、パートナーの役割は動力源である。
『神機』を動かすために必要な魔力のエネルギーソースとなること。
それがパートナーの役割なのだ。
生まれつき、莫大な魔力を持って生まれた私は、12歳の時の魔力測定の結果ガレス様の婚約者となった。
それから、魔力を増加させる鍛錬、安定させる鍛錬、強くする鍛錬と、あらゆる努力を惜しまずに続けてきた。
結果、周囲からはレグナント国の『神機』の優秀なパートナーとして、認められてきていたのだ。
それなのに。
莫大にあった私の魔力はある日忽然と消え失せ。
代わりに私の実の妹が、膨大な魔力を得た。
先ほど見た、『神機』から出た電磁法の威力は、以前私がガレス様とパートナーを組んでいた時に出していたものよりも大きく強く見えた。
それもまた、一つの衝撃だった。
――これでは、仮に私が力を取り戻したところで。
妹には到底叶わない。
無表情で少し冷たい印象のあるガレス様の。
少しでも役に立ちたくて。
笑ってくれるといいなと思って、日々頑張ってきたけど。
私がいくら頑張ったところで、結果を出せなければ意味がないのだ。
そうして。
あの美しいフォルムを持つ『神機』に乗ることも、もうない。
そう思って、ぐずぐずした思いで『神機』を見上げていると。
「――僕の『神機』に乗ってみない?」
と。
突然レオンハルト様がそんなことを言い出した。
「――え?」
「ずっと気になっていたんだ。きみのこと」
以前。
初めて君が『神機』に乗るのを見た時から。
ずっと綺麗だなって思っていたんだ、と。
「で、でも。レオンハルト様のパートナーが」
「いないよ。僕はもうずっと、パートナーなしで乗ってるし」
「え――、そんなこと、できるんですか?」
あれだけ強くて?
パートナー不在?
「ずっと、僕に合うパートナーが見つからなくてね。実妹に仮のパートナーとしてずっと代役をやってもらっていたんだ」
だから、正式なパートナーをずっと探していてね。と。
「試しにだけれども、よかったらちょっと乗ってみない?」
そう、ものすごく気軽な感じで言われてしまい。
「……お試しでいいなら」
と、答えてしまったのが、私の運命の分岐点だった。
◇
「あー、ちがうちがう。後ろじゃなくて前」
「えっ?」
あれから。
レオンハルト様に誘われるままについていき、うっかりヴァレオールの『神機』を格納している格納庫についてきてしまった私は。
というか、視察なのに『神機』を持ってきていたんですね……。
私がレオンハルト様にそう聞くと「だって、手合わせすることもあるかもしれないと思って」とサラリと答えられた。
そうして、レオンハルト様が開けたコックピッドに乗り込もうとした私は、レオンハルト様から『後ろじゃなくて前に乗れ』と指摘されたのだった。
「え、あの、私前ですか?」
「うん。なんかいま。直感的にそう思った」
えぇ……?
帝国の皇太子を差し置いて前?
だって、前――パイロット席は普通、王室男性が乗るものだ。
後部座席は、動力源であり前席の婚約者となる魔力の強い女性が乗るのが常なのに。
正直、抵抗感強いけど、そんなこと考えている間にレオンハルト様がさっさと後ろに乗ってしまい。
えい、ままよ!
と思いながら、パイロット席である前方席に乗った瞬間。
ぱあん――! と。
私の脳裏に、フラッシュバックが起こった。
◇◇
私の名前は暮井えりな。
――いや、これは、今の私の名前じゃない。
前世の私の名前だ。
かつて私は、日本という国に産まれ生きていた。
ロボットアニメが大好きで、来る日も来る日もゲーセンで、コックピッド型ゲーム機にのめり込んでいた――懐かしい私。
あの――、大好きなアニメのロボットの、パイロットになりたかった。
かっこいいロボットを、操縦したかった。
しかし大人になるにつれ、現実にはそれは叶わないということを知り、じゃあ現実に無理なら声優でもやってみるか? と思ったけど、道が険しすぎて挫折し。
最終的に、コックピッド型ゲームが一番性に合っていて。
死ぬほどやった結果、上位ランカーにまでなった。
お金だけゲーム機に吸い込まれ、何の実りも生み出さない活動ではあったが、それでも、それをプレイすることを楽しみに生きてきて。
そのゲームがサ終になり。
わあああああああああ!
海にでも行くか!
流そう!
この悲しい気持ちを海で流そう!
と、バイクに乗り。(バイクはとあるロボットアニメの主人公に憧れて免許をとった)
道に飛び出してきた子供を避けようとして、死んだ。
そうして今の私は。
エリナ・クレアヴォイアとなって。
念願のロボットの――コックピッドに入っている。
◇
パイロット席に乗った瞬間、かつての――、前世の私の記憶が溢れんばかりにばあっと流れ込んできた。
「っぁん……っ!」
それと同時に『神機』が起動し、さぁっと視界が開けた瞬間、ものすごい快感が背中を走る。
「あ……っ……。すごい……、どうやら僕達、相性抜群みたいじゃないか」
「え?」
「あれ、知らない? パイロットとパートナーは、相性がいいほど起動時と接続時に強い快感が走るんだ」
は?
え?
初耳です……!
それに、ガレス様の時はそんなのなかったですよ!?
「その様子だと、よっぽど君たち相性が悪かったみたいだね」
驚いたように振り返ると、レオンハルト様がくすりと苦笑する。
「あと『神機』はね、処女性を求めるんだ」
貫通したパイロットとパートナーが乗ると、途端に性能が落ちる。
純粋さを求めるのだかなんだかわからないが、それ故に王や王妃になったものが乗ることができない。
いや、乗れなくはない。
ただし、性能が十分に出せず、サンドバッグになるしかないから。
「さあ、試運転だ」
そう言って、レオンハルト様が後部座席から『神機』に魔力を注ぐ。
そうして私は、ぐっとスロットルを握り――、 格納庫から『神機』を発進させた。
◇
――体が、軽い。
懐かしい感覚――、いやそれ以上の爽快感が、私の体を駆け抜けていく。
かつて憧れていたパイロット席での操縦が。
ゲームで体感していた以上のリアル感を持って、私の気持ちを高揚させる。
「――すごいな」
後部座席から、レオンハルト様がつぶやく。
「君、操縦訓練を受けたことがあるの?」
私はそれには答えずに、訓練場に出て、流れるように、踊るように的を正確に射抜いていく。
――気持ちいい――!
同時に、腕が鈍っていないことに安堵する。
『神機』と、かつてプレイしていたゲームの操作性に違いがあるため、最初からこんなにスムーズに操縦できるとは思っていなかったが、なぜかコックピット席に座りスロットルを握った瞬間、自然と『神機』の操縦の仕方が”わかった”。
そうして、私が嬉々として『神機』の操縦を試していたところに。
『レオンハルト殿下! なぜ勝手に『神機』を起動させているのです!?』
よく聞きなれた――、ガレス様の声が聞こえてきた。
振り向くと、レグナントの『神機』が訓練場に立ちはだかっており。
「ちょうどいい」
そう言って、レオンハルト様が、カチ、とスイッチを入れ外部通信を繋ぐ。
『演習試合だよ。お相手は、君が今日婚約破棄した相手の、エリナ嬢と僕だ。僕らが勝ったら、エリナ嬢は僕がもらう』
「えっ!?」
どういうことですか!?
私をレオンハルト様がもらう!?
驚いて私が振り向くと、かちりと通信を切ったばかりのレオンハルト様と目が合い。
「さて、正念場だよエリナ。頑張ってね」
と、にこりと笑った。
◇
――一方その頃、ガレスたちは――
「どういうことだ? レオンハルト殿下がエリナを……?」
前方座席で困惑するガレス様を見ながら、私はぎり、と歯噛みする。
――どういうことなの?
お姉様の魔力は、間違いなく私が全部奪い取ったのに。
あんなに、俊敏に動かせるだけの力なんてあるわけないのに!
小さい頃から、優秀なお姉さまが大嫌いだった。
ただでさえ優秀なのに、さらに努力を重ねて、私を嘲笑うかのように高みに登っていくのが、耐えられなかった。
だから、奪ったのに。
魔力も。
『神機』も。
ガレス様も――!
ぎっ、と鋭い視線を、表示窓に映るヴァレオールの『神機』に向ける。
「大丈夫ですわガレス様。所詮、動力源はお姉様ですもの。すぐに動力切れで動かなくなりますわ」
ですから、それを機に。
ヴァレオールの『神機』を私たちで打倒してしまいましょう。
と。
演習試合だとはいえ、連合国最強のヴァレオールの『神機』を下したとあっては、周囲の国々からの目も変わってくる。
そうして、自分の優秀さを周りに見せつけ、代わりに姉の無能さを露呈させることができたなら。
一石二鳥ではないか。
「私たちで彼らを圧倒して、お姉さまには罰を与えませんと」
自国に叛き、よりにもよって帝国の皇太子に加担するなど、罰を受けて然るべきだ。
そう言うと、前方のガレス様もそれに同調し。
「そうだな。あのエリナが、僕と君のペアに叶うわけがない」
そう言って。
戦いの火蓋が切って落とされた。
◇
速い。――そして遅い。
ヴァレオールの『神機』を操りながら。
自分の乗る機体の起動速度の速さに内心で感嘆する。
自分がガレス様の後部座席から見ていた時は、こんなスピード感を体感したことはなかった。
これは、機種の特性によるものなのか、それとも後ろのレオンハルト様の動力の質によるものなのだろうか。
そんなことを考えながら。
それと同時に、相対するレグナントの『神機』の反応速度の遅さに違和感を覚える。
遅い。遅すぎる。
ガレス様は、あんなに反応が鈍かっただろうか?
それとも今、私の感覚が冴えているだけ?
そう思いながら、私の動きについてこれていないレグナントの『神機』の腕を、レーザーソードで切り落とす。
最初っから利き腕はあんまりだと思ったので、左腕を。
「お見事」
ヒューゥと口笛を鳴らしながら、レオンハルト様が感嘆の声を上げる。
さて、どうしよう?
模擬刀や模擬弾のようなものはないから、実装備で相手を制圧させなければいけない。
つまりは「まいった」と言わせる状態まで持っていくことだ。
仕留めるのは簡単だが、殺さずにその状態に持っていく方が実は厄介で。
あんまりレグナントの『神機』を破損させすぎて、自国の恨みを買うのも嫌だ。
そう思ったところで、ぱっと降りてきたアイデアがあったので、そのままそれを実行に移すことにした。
「行きます」
背後のレオンハルト様に向かってそう呟き、再びヴァレオールの『神機』を走らせる。
こちらに向けて放たれる電磁砲を軽く交わし、私は何なく、レグナントの『神機』の真正面にたどり着く。
「ゔううううううううっ!」
そうして、残された右腕でこちらに斬りかかろうとする『神機』に全力で足払いをかけ。
右腕を上げて背中から地面に倒れた『神機』の右腕を、動かせないように左足で踏みつける。
そのまま、無傷の私は、レーザーソードをレグナントの『神機』のコックピッドにまっすぐ向けた。
『終わりだな。命が惜しければ、参ったと言うといい』
かちりとスイッチを入れ、外部通信を繋いだレオンハルト様が、ガレス様とセリーヌに向けてそう言った。
『――参りました』
と。
悔しそうな声色を滲ませ、そう告げたガレス様は。
降参の意を認め、コックピッドを開ける。
それを見た私がレーザーソードを収めると、レオンハルト様も相手に倣ってコックピッドを開いた。
「――はっ……!?」
そうして、コックピッドが開き。
こちらに目を向けたガレス様が、私たちの姿を見て驚愕の表情を浮かべた。
「なぜ……、エリナが前なのだ? これは、殿下が操縦されていたのではないのか?」
「いや? 残念ながら今回の僕の役割はパートナーだ。貴殿を圧倒したのは、間違いなくこのエリナ嬢さ」
そう言って、レオンハルト様は二人に向かってにこりと笑い。
「さあ、勝負に勝ったことだし。約束通りエリナ嬢は僕がいただいていこう。この――、歴代稀に見る、天才パイロットをね」
これが、私のパイロットとしての運命の幕開けであり。
その後、後1000年以上続く大帝国を興すこととなる、始まりのカップル誕生の瞬間であった。