3話
もう訳が分からん。
いきなり、クリスタルから幼馴染が出てきたかと思ったら、私はクリスタル人間だと言い、山賊に襲われ幼馴染を逃がしてから助けてくれと叫んだら、幼馴染が来て、未知なる技で山賊を倒した。
何が何だか、全くわからん。
「……俺は、その、大丈夫だ」
「そ、そう?一応、治しておくね」
そういうと、彼女は俺の右腕に手を重ねた。手から淡い光が放たれ、俺の手を包む。そして、切れたはずの筋を。ボロボロだったはずの体を、見る見るうちに治していった。
「……訳が分からない……」
「どうしたの?」
「……何でもない」
俺はそういうと、真っすぐに家の方向に向かった。後ろからついてくる彼女に、俺は制止をするつもりはなかった。
「お、お邪魔……します……」
彼女は、少し申し訳なさそうに上がってきた。
「……いいかな」
「は、はい!」
「……君は、一体何者で、何のためにその姿で、俺の前に現れたのかを、教えてくれないか」
ここまで来たら一度、冷静にそれを知りたい。何せ、いきなり現れて、いきなり襲われてと、現実味もくそもないことが立て続いたんだ。一度冷静に。まずは彼女の正体を知らなければならない。
「う~んと……私は、クリスタル。でも、名前は覚えてないんだ……それで、えっと……あ、私は、私のクリスタルを媒介に、どんな願いも欲望もかなえられます」
「どんな……確かに、叶えていたな」
普通なら、ここで願いをして本当かどうか確かめるだろうが、必要ない。
なんせ、彼女はさっき、幼女とは思えない技を使ってあの山賊を撃退していた。それに、俺の体をたやすく治して見せた。逆に、どう疑うのかを教えてほしい。
「う~んと、えっと……もうわからないです……」
「そうか……なんで、その姿なのかは?」
「ご、ごめんなさい……でも……」
「でも?」
彼女は少しためらってから、言葉を繋いだ。
「……私は……私は、貴方と、旅をしなければならないです。どうして、と言われれば、少し答えられないですけど、でも……あなたに、助けてもらわなければ、私が生まれた意味が、なされないと思うんです。だから、その……お、お願いします」
「…………」
………。
俺は……どうすれば……。
「……すまん、少しだけ、考えさせてくれないか?」
「……」
彼女は、コクっと頷いて、その場を離れた。
俺も、何も言わずに、彼女を置き、一度外に出た。
自衛用の銛を持ち、俺はあのクリスタルのもとにまたやってきていた。
「……なあ、聞いてくれよクオリア。お前にそっくりな奴が、自分はクリスタルだって言って目の前に現れたよ」
そう。あの日、俺の目の前で死んでいったお前のまんまで。
……思えば、俺はあの記憶に取りつかれている。それは、このままだったらこれからも。
クオリアという美しく残酷な真実を抱えて、生涯を終えることになる。果たして、それはいいのだろうか。
「……もし、お前が成長してたら……なんて言ってたかな……」
「よぉ。獲物がのこのこと、おんなじところに戻ってくるとはなぁ……」
「なっ!?」
後ろには、ボロボロながらも威勢を張っている、山賊たちがいた。
「っくそ……!」
「散々俺らをぼこぼこにしやがって……ただじゃおかねぇ。やっちまえ!問答無用で死刑だ!ひゃははははは!」
「……」
ぼこぼこにしたのは、俺じゃなくて、あのクリスタル。
あの頃のあいつも、俺のことを守ってくれたっていうのに、俺は一体何を守れている?
よせ。俺が一生懸命守ろうとしてるのは、もうすでに跡形もない俺の威厳だ。
気が付いてるだろう?
「…ああ」
変わりたいんだろう??
「……ああ」
俺は……俺は……!
「うああああああああああああああ!」
「っ!?」
「もう俺は迷わねぇ!お前ら、誰に喧嘩売ったと思ってんだお前ら!?」
そうだ。もう、迷わねぇ。吹っ切れた。
俺は……俺は守れる男になる。大事なもんを、二度と失わない男に!たとえ俺が弱くとも、気持ちだけは負けねぇ!俺は…そんな男に!
「俺は…お前らみたいなやつから俺を守る男になる!そのためには、お前らごときは俺が倒す!!!!!!」
銛を構え、俺は彼らを見据える。数は3人。戦闘経験は、相手のほうが明らかに各上だろう。怖い、逃げたい!でも……。
「……だから……こいよ」
「どうやら本当に死にてぇみたいだな………やれ」
その合図とともに、後ろに構えていた男たちが一斉に飛びかかってきた。
「うわっ!」
俺は、とにかく必死になった。手に持っていた銛を振り回し、必死に飛び交う剣を避け、半ば半狂乱のような状態で戦った。
何度も斬られ、何度も刺され。気がつけば、俺は片腕がだらりと力が入らない状態になり、聞き手じゃない左手で銛を握っていた。
「気持っちわりぃ……」
「……俺は、守らなきゃ行けねぇからな……それが、男として……人としての、責任ってもんだ……」
「あっそ。ならその責任すら果たせずに死ね!」
未だ傷一つついていない彼の一振りが俺を目掛けて振り下ろされた。
だめだ、この速度じゃ間に合わ
「ダメェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
ガキっと音を鳴らし、山賊の刀は弾かれた。
思わず振り向くと、そこにはクオリアが立っていた。クオリアが、両手を前に掲げて立っていた。どうやら、そのクリスタルの力とやらでクオリアが刀を弾いたらしい。
「いってぇ!」
「テセウス!!大丈夫!?」
「あ、ああ。大丈夫……」
見ると、山賊はすでに片腕を吹き飛ばされていた。
「クソッガキ、てめぇ……やりやがったなぁ!」
「………クオリア………また………」
「テセウス……大丈夫。助けてあげるから」
クオリアが、手を掲げる。その姿は、あの日のクオリアに、重なったような気がした。
「テセウス、大丈夫!?」
「………」
眼の前に広がるのは、既に意識を失い、戦闘不能になった男たち。そして、あの日のように俺を助けた彼女の勇姿だった。
「今手当してあげるから……」
「……やっぱ、俺は守られてばっかだな……」
「え?」
そうだ。あのときも。あまつさえ、それまでの人生も。俺はいっつも彼女に守られてばっかりだった。
「……なぁ、クオリア」
「なに?」
「俺、お前を守りたい」
「えっ……?」
ずっと守られっぱなしだった俺を。そのせいで失った俺を。きっと神様は見放さなかった。だからこそ、見放さないでくれたこの恩を。このチャンスを、大切に守っていたい。だから……。
「お前が旅をするって言うなら、俺はついていく。お前が、自分が何なのか知りたいって言うなら、全力で協力する。お前が旨いもん食いたいって言うなら金を稼ぐし、助けて欲しいときは死んでも助ける。だから……」
俺は、クオリアの目をまっすぐに見た。クオリアも、治療の手を止めて俺をまっすぐに見た。
「……だから、俺に守らせてくれ」
月光に照らされた俺等は、11年前のあの頃と重なった。