2話
ここは、クリサリア国。
風と水の国とされ、4大国の一国として築かれた由緒正しき国。
クリスタルが商売道具として使われることも多く、この国では、クリスタルを持つものが正義、などとでも言いそうな風習がある。
そこらかしこに建てられた風車や水車がここに住む彼らの主な動力源。
そんな平和でピースフルなこの国の中で。
「終わった……死刑だ、死罪だ、死ぬんだ俺……」
と、ピースフルどころかハードモードな人生を悔やんでいる青年がいた。
「終わったよ……しかも、クリスタルを幼馴染を生き返らせるために使ったなんて言ったら……」
あの後、彼女について聞いてみると、次のことが分かった。
まず彼女の正体は、クリスタルによってかたどられ、クリスタルを動力としたいわばクリスタル人形のようなものらしい。クリスタルの謎パワーで動いているという話だが、一向に理解が出来ん。俺がおかしいわけじゃないと思う。本当に。
そこで、俺は一瞬「なんだ、クリスタルの力で生き返ったわけじゃないんだ」とも思った。だが、クリスタルの力はさっきも言ったように謎パワー。つまり、どんな力でどんな恩恵をもたらすのかは俺ら庶民にはわからない。で、あるならば。クリスタルはその謎パワーをあくまでエネルギーとして使うことしかできないため、仕方なくクリスタルの力で作ったなんちゃってクオリアを創ったのかもしれない。
じゃあ、これ俺の願い叶えちゃってね?
「はぁぁぁぁぁ……知らぬ間に犯罪者になるって、こういうことなんだろうなぁ……」
「犯罪?お兄さんダメだよ罪犯しちゃ」
「誰のせいだ誰の。あと俺はテセウス。呼び捨てろって言ったぞ」
「テセウスだめでしょ」
「はぁ……」
どうしよう……気が付けば、周りは真っ暗。もしかしたら、村の人たちも心配してるだろう。しかしどう説明すればいいんだ。だって俺は大罪人。下手したら国に捕まって見せしめにされながら死罪だ。そんなの冗談じゃない。未練しかないんだぞこちとら。
「どうしようかなぁ……」
と、俺がそう考えていると。
「おいおい、こ~んな夜更けに、商人が何してんだぁ?」
「ん?」
「おい選べ。商材と有り金全部置いてくか、俺らに身包みごと剥がされるか」
なんと、山賊さんたち御一行と出会ってしまった。
月光に照らされる彼らの刀は、その月光を反射していた。
まずいな……今日の稼ぎはそのまま、俺の生活に支障をきたす。今までこういうのを相手したことがないからわからない……。
「え…っと、あ、生憎今何の手持ちもなくてさ。君たちに渡せるものは何にも……」
「おい、聞いたかお前ら。こいつ、しら切るつもりだぜ?」
「い、いやしらなんて……」
ずんずんと近付いてくる彼らにそう言ってなだめようとしていたら。
突如。彼はその刀を振り下ろした。
「ゑ?」
脊髄反射で後ろにはねたが、同時に防御しようとした腕の筋に沿って刃が通った。
「いっ!」
「へっへへ。どうだ?命が惜しけりゃ、今の内にどっか逃げるのを進めるぜぇ?」
まずい、まずいまずい!痛い、痛すぎる。それに、もろに喰らった右腕の筋がやられたせいでまともに動かせない!
「っく……」
怖い辛い逃げたい。今すぐにでも走って逃げだしたいのに……
「おに…テセウス!」
「クオリア⁉な、なんで……」
「だ、だって、その傷……見過ごせないよ!」
「そんなの構わず逃げろよ……くそっ!」
今は、ダメだ。逃げられない。逃げたらいけない。なんせ、彼女がいる。彼女だけは、なんとしても守らなければ。
「いいから、逃げてくれ……」
「だからそれは!」
「いいから!頼む……」
そう。頼む。お願いだ。
せっかく、偽物だとしても。罪から生まれた幼馴染だとしても。せっかく生き返った彼女を、二度も失いたくない。
「だから、頼む……。お願いだ!逃げてくれ!」
「!」
彼女は、徐々に立ち上がり始めた。
「何…?なんで、足が……」
「?」
彼女は、歩き始めた。走り始めた。しかし、彼女はその行動とは到底結びつかない顔色をしていた。
「いや!なんで!勝手に動かないでよ!!!」
何か、不思議な力が動かしているらしいが、俺にとっては好都合だ。
何故ならこれで……
これで情けなく逃げ出すことが出来る。
「……じゃ俺も」
俺は大きく息を吸い、それをすべて声に捧げ、一叫び。
「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!ギャーーーーーーーーーーーーーーーー!」
と、俺は一目散に走り逃げた。
「待ちやがれこの野郎!」
「誰が死に際を待つかばーか!逃げるが勝ちなんだよくそったれ!」
複雑な森だが、どこを下ればふもとまで行けるかは幾度もなくここを通ってきた俺ならわかる。対して彼らは俺を追うので精いっぱい。きっとここら辺の地形までは理解してないだろう。
右手がズキズキを通り越して千切れそうな痛みを発している。もしかしたら、商売に関わるかもしれないが、それでもいい。命よりも大切なものなんてないってこと、俺が一番知ってるんだから。
正直、あのクオリアに似た少女と一緒にいたかった。欲を言えば、もう一度、彼女と一緒に生きているというその実感が欲しかった。たとえそれが、自分の奥底に秘めていた欲望の模倣人形だとしても、それでもそんな偽りの幸せな日々を、過ごしたかった。
走って走って。しかし、逃げている途中、木の根に躓き、数メートル転がり落ちた。
「ってぇ……」
「やっと追いついたぞ……!てめぇこんなに逃げ込みやがって、ただじゃおかねぇぞ!身包み剥がして終わってやろうと思ったけど、気が変わった。お前のその肉も金に換えてやるよ!」
「はぁっ……はぁっ……」
こりゃ、ちとダメっぽいな……二十三年、俺は特に何も残さず、天寿を全うもせず、こうして死んでいくのか……?
ああっ!くそっ、怖え!死にたくない!なんでこんな感情が瀬戸際で湧いてくるんだよ!もう無理なのに!
「あー!もう!この際何でもいい!俺はまだ死ねねぇ!だから誰か!誰か、助けてくれー!」
「ぎゃはははは!そんな願い叶う訳ねーだろうがようぁ!」
山賊の刀が、やけにスローに見える。ああ、これダメだ。スローには見えるけど、どうよけりゃいいのかわかんねぇ。
二十三年の幕引きは、こうして終わっていった___。
と、思っていたその瞬間だった。
「………ぁぁぁぁぁぁああああああああ!テセウスーーーーーーーーーーー!」
と、突如声がしたかと思った瞬間。俺の髪の毛を掠め、何かが山賊に直撃した。
「ぐっふぉぇ!」
勢いよく吹き飛ばされた山賊は岩にめり込み、そのまま気絶した。
見ると、あの少女がこちらにありえないスピードで向かってきていた。
「足が!足が勝手にうわっとととっ!きゅ、急に止まらないでよぉ……」
「お、お前⁉なんで、てか、今の……」
「な、なんか急に足が旋回して、気が付いたら君の元へ全力で走り始めて……」
彼女はそう言った後、「あ!」という顔をしたのち、またこちらを向いた。
「でも、私聞こえたの。テセウスの『助けてくれ~!』っていう欲望」
「欲……望……?」
「うん!」
どうして……。どうして彼女は、俺のこの思いが欲望だといったのか。一体、どういう……
「チィ……こうなったら!お前らどっちもぶっ殺してやんよぉぉぉ!」
そう言って、彼は腰の刀を持ち、襲い掛かってくる。しかし、
「んん~~~~……は!」
と、両手を前に掲げると、その手の先からは、光線が出た。
そう、光線。あいて、からだ、あなあいた。
「……?」
え、俺が逃がそうとしてたこの子、ナニモン?何もかっこつけて先逃がさずにこの子に戦ってもらえりゃよかったやん。
「だ、大丈夫テセウス!い、今直してあげる……」
「いや、これちゃんと処置しないと……」
「お願い……私の願い、叶えて!」
と、彼女がそういうと、俺の腕は見る見るうちに傷口が治っていった。
「……………………?」
「えへへ……そ、それよりも、大丈夫なの?心配だよ……」
「?」
俺は、脳がショートした。