1話
こちら木天蓼ららこさんの配信にてお話しされていたPF仮のプロットをもとに独自解釈と独自設定もりもりで書いたものです。当プロットはご本人様よりフリー素材とされており、また木天蓼ららこさんの認知もございます。完全ファンメイドですが、気が向いたら最後まで書きます。とりあえず試しに、2番目の国までは書こうと思っております。
エメラルドグリーンの視界の先。目線の先には素早く動く獲物が一匹。
右に、左に。急停止と急発進を繰り返すそれを注意深く観察する。
そしてそれは一瞬。壁に詰まった瞬間だ。手に持っていた銛を勢いよく放った。銛は見事その獲物を突き、一発で仕留めた。
「……ぶはっ!ふぅ~。身ののり方最高だな!」
これは売れるぞ~などと考えていた。
「テセウス~!魚はどんな感じだ~?」
「おう!いい感じだぞ!」
と言いながら突いた魚をクーラーボックスに入れた。
俺、テセウスはこの地域で生まれ育った23歳の青年だ。
銛を主とした漁で生計を立てている。ここら辺は小さな集落的な村だから、いろんな人と面識がある。故に、ここでの商売というのは、まあ間違いなく外でやれば通用しないだろう。野菜の無人販売とか、あんなのすぐに盗まれて終わりだろうしな。
「いや~テセウスがいっぱい魚を取ってくれるおかげで、クリスタルに頼らなくてもご飯が食べられて幸せだよ」
「それは良かったです。あ、そうだ。これ、今週分のお魚です。いっぱいありますけど、ほどほどずつにしてくださいね」
「わかってるわよ。おかわりは原則受け付けない。でしょ?」
「はい。不便かと思いますが。どうぞよろしくお願いします」
俺はそれだけ言うと、街で売る分の魚をクーラーボックスにいれ、街へと向かった。
今日の収穫は中々なものだから、これから町で売ってくるつもりだ。
「はい、シャルトレーズ・ユシェルドが十匹で3000Gね。毎度アリ」
ようやく最後の魚も売れ、そのタイミングで日が徐々に傾き始めた
「さて、帰るか。にしても、結構売れたな」
ここは町。ここら一体でも特に大きい街で、こうして露店販売するだけでもかなり稼ぐことが出来る。また、様々な露店があるから、俺もちょくちょく必要な買い物をしたりしてる。
「まあ、最近クリスタルの恩恵が徐々に弱くなってるっていう噂だしな」
クリスタル、というのは別名「万能鉱石」と呼ばれるもので、俺らが生まれるずっと前。何なら、この世界が出来た時からその存在はあったとされ、人々が水を望めば水が。火を望めば火が出るという性質がある。クリスタルは基本的に国によって管理されている。
ただ、最近は天候の乱れだったり、土壌の質の低下だったりで、飢饉に陥りかけている地区がちょくちょく現れるようになった。基本そういった自然由来はクリスタルによるものなので、そういう噂がまことしやかにささやかれているのだ。
「あ……これ、買ってくか」
俺は、とある場所によったのち、家へと足を進めた。
閑散とした森をくぐり、俺は
帰り道の途中。俺はデカいクリスタルの前に立っていた。
基本、国に管理されているクリスタルだが、稀にこうして知られないクリスタル資源というものがあったりもするが、基本的に使用をした場合は極刑を執行されることもある。
そんなクリスタルの前に立つ理由。それは、クリスタルの不正使用とか、そんなものじゃない。俺は、たった一人の為に、ここまで会いに来たのだ。
「……会いに来たよ。クオリア」
クオリア。彼女は、俺の幼馴染であり、俺の命の恩人。そして、そのせいで命を落としてしまった人。
「ほら、お前が好きだったトラビスの花だぞ」
森のじめっとしたところにしか生えない姿が、強そうで好きとか言ってたっけかな。
未だに後悔の念に取りつかれている俺は、こうして彼女の命日になると毎年、花束を持って供えて言ってる。
今年で11年目。周りはいい加減吹っ切れとか、諦めろとか。ろくに探さなかったような連中はそう口をそろえていった。
「……いや、わかってる。わかってるんだ、クオリア」
そう、わかってる。俺がおかしいことも。いい加減にやめなければないないことも。ましてや、十一年前の記憶だ。普通は、いつまでも縛られるわけがない。
でも、なぜか。俺はもう一度会いたい。なんか話したいことがあるわけではいけど、ただ…。
俺は、クリスタルに触れながら
「でもさ……もう一度だけ……会いたいよ……」
と願った。
たったもう一度だけでもいい。あって、ごめんって、言いたい。あの時。俺に力が、勇気がなくて、ごめんねって、言ってあげたい。
「……なんて、もう無理な願いか……」
クリスタルが人を生き返らせたなんて話は聞いたことがない。ならば、期待するだけ無駄だろう。
帰ろう。今年も、彼女に会いにこれた。それだけで満足だ。いつ会いにこれなくなるかなんてわからないんだから。
そう思って手を離した瞬間。突如目を潰さんとばかりの光が漏れだした。
「うわっ⁉な、なんだ⁉」
そういえば、聞いたことがある。確か、クリスタルが謎の暴発をしたっていう話。も、もしや、爆発⁉
いやだ!死にたくないしその前に生きててもこれ不正利用疑われない⁉
「うわーーーーーーーーーーー!」
しかし、そう思っていたのだが、爆発することはなく、光は収束していった。
「い、一体何の……」
そして目を開けて、俺は固まった。
だって、そのクリスタルから人が出てきてて。それは……いや、間違いない。間違う訳がない。
ストレートで降ろした長い黒髪。幼いながらも大人びた顔立ち。しかしその表情は触れたら壊れてしまいそうな儚さを纏っていた。
「クオ……リア……?」
十一年前。俺の目の前で死んでいったその姿そのままに。彼女は、帰ってきたのだ。
ありえない。俺は、倒れそうになる彼女を反射的に受け止めた。
「暖かい……生きてる……?」
死んだはずの彼女は暖かくて、やさしくて。俺は思わず、声をあげて泣いた。
「クオリア……!クオリア!よかった……よかったよぉ……死んだって……もう会えないって、ずっと…ずっと……ほんとに……ほんどによがっだぁ!うぅ……」
まるで、子供のように。それはきっと、あの頃の彼女に会ったからなのだろう。
そうしていたら、彼女は目を覚ました。
「……ぅ」
「っ!クオリア?クオリア‼」
彼女は目を覚まし、あたりを見渡した。
「……?ここは……?」
その仕草は、少し不自然だった。ここは、彼女と幾度もなく遊んだ場所。ましてや、彼女は十一年前と全く同じ身なり。おそらくあれから成長していないだろう。にもかかわらず、なぜ覚えていないのか。
きっと錯乱してどこに今いるのかわかっていないだけだと思ったのだが、時間が経っても理解していない様子を見ると、本当にわかっていないらしい。
「クオリア…?どうしたんだ?」
しかし、呼びかけても彼女は、見向きもしなかった。
おかしい。まるで、何もかも忘れたような。
「なあ……」
「ん?何?」
「お前……お前の名前は?」
彼女は顎に手を当てて、考えるふりを一瞬してから、こちらを向いて
「わかんない!」
と言って見せた。
それだけじゃない。彼女は、ここでのすべての記憶。両親、友達。俺のことでさえ忘れていた。
彼女は、一切の記憶を失っていた。
仕草、性格はあの頃のまま。だけど、記憶が一切なく、俺と遊んだ記憶も、みんなと遊んだ記憶もすべてなく、まるでまっさらな彼女が現れたような気がした。
「でも……」
きっと、俺の会いたいっていう願いが、叶ったのかな。
……ん、願い……?クリスタル……
そこで、気が付いた。そして、全身から冷や汗が滝のように流れ、自分がもしや大罪を犯してしまったのではと、気が付いてしまった。
俺、クリスタルで願い叶えちゃったくね、と。
「あああああああああああああああああああ!やらかしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
クオリアと思わしき彼女は、その大声にびっくりしたような顔をしていた。
やった、やらかした。極刑だよちくしょう!
どうして俺は、クリスタルに触りながら願ったりしたのだろうか。全然意図していないのに、いつの間にか無断でクリスタルを使ってしまった……。
「どっ、どどどどどどうしよう……」
クリスタルに何にも変化さえなければいいのに、きっと俺が願ったせいでこのクリスタルも変色して……
絶望しながら、クリスタルを見ると変なとこに気が付いた。
「あれ?色が、ついてない?」
クリスタルは、普通願いや欲望によって色が変わるって聞いたんだけど…。それに、資源クリスタルだって赤だったり、青だったりするし……それなのに、どうして……?
クリスタルは、まだ無色透明で、願いをかなえようと発光しているように見えた。
「一体どういう……これは、クリスタルの力じゃ……」
「ん?私?私は、クリスタルの……あれ?名前忘れちった」
「クリスタル?クリスタルのって、お前まさか……」
もしやクオリア、というかクオリアの姿をしたこれは……
「うん!私はクリスタルのなんか!どんな願いでも私が叶えてあげる!」