1-3
片道5時間はかかるはずの帰路を、まだ2時間も経っていないはずなのに、村の教会が目の前に建っている。
「一体どういう事だ? なんで村の教会が?」
馬車から下りて周囲を見回すと、確かにここはオイラが暮らす小さな村だった。
教会の近くには村の老人達が暮らす家が並び、畑や田んぼが広がる中で小さい家が家族と一緒に暮らしているオイラの家だ。
「確かにここは村だ。 でも、なんだか・・・」
静かだった。
小さな村である為、ある程度の畑や田んぼで距離があっても、昼間の時間帯は村人達の話声や笑い声が聞こえてくる。
それなのに、村の中心にある教会の前に立っているのに、村人の声は誰一人聞こえてこない。
「なんだか様子がおかしい・・皆何処に居るんだ?」
「待ってくれ」
今すぐにでも走って家に向かおうとしたオイラに、勇者さまを腕を掴んで止めた。
「すまないが、少しここで待っていてくれ」
「いや・・でもオイラ」
「貴殿が気にかけている事は察している。 しかし今はどうかこのまま私達の近くにいてほしい」
「どういう事スか? 一体村に何が起きて―――」
「その事を知るのは恐らく・・」
勇者が視線を向けたのは教会だった。
ここは建物自体は古い教会だが、数か月前に就任してきた若い男の牧師が1人いるだけだ。
昔ここに長い期間滞在していた老人の牧師は病気を患い、代わりに帝都から就任してきたのが今の牧師だった。
「牧師・・さま?」
人柄も良く、すぐに村に馴染んだ若き牧師に、誰もが心を許して一緒に祈りをささげた事もある。
「あぁ・・キミが一緒だったのか」
しかし、教会の扉からコツコツと足音を鳴らして出てきたのは、いつも笑顔で人柄が良い牧師の顔ではなかった。
他人を見下し、憎悪と嫌悪の視線でオイラを見るその牧師だった男の瞳は、魔族の象徴とも言える紅い瞳をしていた。
「こんな辺境な小さな村へようこそ勇者よ。 神の名の下に、貴様をここで殺す」
牧師はオイラの事などすぐに興味を失せたかのように視線を勇者さまへ移して、いつの間にか真っ黒な聖書を手に持っていた。
「それは穏やかなじゃないな。 私はできれば話し合いをしたいのだけれど」
微笑ながら牧師に顔を向ける勇者だったが、その手にはしっかりと聖剣を握って臨戦態勢をとっていた。