プロローグ
勇者には恋人がいる。
そんな噂が広がったのは、勇者が魔王を打倒す旅に故郷から出発して1年が経った頃だった。
旅を進むにつれて、勇者にまつわる武勇伝は数知れず、人々は誰もが彼の者であれば500年にも続く魔王による魔族との争いを止めてくれると信じた。
そんな時だ。
勇者には恋人がいると何処かから噂が流れた。
勇者の恋人は綺麗な白銀の髪をした少女だ。
勇者の恋人は神の巫女である聖女様だ。
勇者の恋人は誰もが見惚れる美貌を持つ女神のような女性だ。
噂に聞く勇者の恋人は、ありとあらゆる情報が上乗せされ、最終的には女神様本人なのではないかとまで話が広がっていた。
だが、人々にとってそんな噂など建前でもよかった。
悪しきを倒し善を救う。
そんな勇者たらん彼の者が、共に幸せ暮らせる者がいると情報だけで、人々の言葉から祝福の声があがったのだから。
しかし、そんな幸福な噂の中で誰もが聞いて鼻で笑った情報があった。
その噂とは、勇者の恋人は黒髪に紅い瞳を持ち、恐ろしい魔女のような雰囲気を纏った少女である。
その姿は正に――――魔王のような姿だった・・と。