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第三話 幽霊は深く後悔している


 とりあえず状況を整理しよう。

 ここは村で一番でっかいお金持ちの屋敷の部屋だ。窓はない小さな部屋であり、少年の目の前では見張りが一人で暇そうに棚を漁っている。

 ついさっきこの屋敷から出て行ったやつを見た限り、正面玄関以外に裏口がある。裏口には人がいないし、すぐそこが森なのでそこから逃げたいと思う。少年は手を縛られ、目隠しされてはいるものの、見張りが漁っていた棚にナイフがあったのは確認済みだし、俺は目隠しされてないのでなんとかなる......はずだ。


 ただ問題なのはこの見張りだ。見張りはまだ少年が起きたことに気づいていないようだが、あまり金目のものがでないからか、かなり苛ついているようだ。まあ、他の盗賊は楽しく酒盛りしたりしている中で見張りはいやだろう。でも、この調子なら一押しすれば......


(おい悪魔、どうするんだ?)


『はーい、悪魔でーす。作戦が思いついたので説明しまーす』


 こいつは俺のことを悪魔だと思ってたらしい...うん、俺のどこにそんな要素があるんだよっ!


『―という作戦よ、どう?』


 なかなかいい作戦を思いついた気がする。

 ありがとう、頭脳系バトル漫画、ストラテジーゲーム!


(この年でそんなことをするのか...)


『いやあ、そうは言っても君まだ11才じゃん』


(しかし、リナ、そうリナのためだ。そのくらいはやってやろうじゃないか)


 悲壮な覚悟を決めたように少年は言う。俺はそれを聞きつつ、周りを見渡す。近くに見張り以外の盗賊は......いないな。よし。


『では、おっねがいしまーす』


 そう俺が言うのと同時に少年は音を立ててもがき、倒れ込む。そして、


「だjkcんhyああああああああああああああ!」


 泣き叫んだ。見張りは驚いたように見る。


「んjhbgvfcrtghええええええええええええ!」


 とにかく少年を怯えきっているか弱い子供に見せ、侮らせることが重要なのだ。

 だから、だからこそ、少年は泣き叫びながらズボンを思い切り濡らした。


 そう、失禁である!


 排泄という行為は極めてプライベートなものだ。

 故に、たくさんの小便器がある中でわざわざ隣に来るやつは嫌われるし、巷では女の子がお漏らしするだけの同人誌があふれている。

 排泄をコントロールすることは自律性の確立を意味し、赤子はオムツを外してトイレで用を足すことを覚えてこそ「赤子」から一人の人間へと成長する。そう、排泄とは一種の社会的意味を持った概念なのである。

 だからこそ、人前での排泄というのはインパクト抜群であり、少年が本当に怯えていることを印象づけることができるのだ。


 事実、見張りも「うわぁ」という顔をしている。


『あ、大便をしてみてもいいよー!』


(この、悪魔があああああああああああああああ)


 少年の心の叫びが放たれる中、見張りはため息をして、面倒くさそうに少年の髪を掴む。

 それと同時に少年が叫ぶ。


「gfrtfhがあ!gfrtっtfhがああ!んhぶgyvfgbんhjbgvふぃいい!」


 意味がわからなかった言葉も今度ばかりは理解できる。

 ”すみません!すみません!お金の場所教えるから助けてください!”である。

 まあ、俺が指示した以上当たり前なんだが。


 見張りはそれを聞いた瞬間、目の色が変わる。

 少年は泣きながら話す。自分はここの使用人の息子で、玄関すぐの右の部屋の床下にこの家の金が入っていることを知っているといったことだ。

 なかなかな名演技だったと思う。

 見張りはそれをしっかりとそれ聞き、少年の首を掴んで何か脅しのようなことをしてから、足早にその場所へと行ったのだから。


 見張りが部屋を出ると俺は即座に次の指示を出す。


『2メートルくらい前に棚があるはずだからその1番下の段を開けてくれ』


『あ、メートルっていうのは』


(なんとなくわかるから大丈夫だ)


 少年は言葉通り棚を開ける。


『その中の右...そう、そこにナイフがある』


 少年は器用に縛られた手でナイフを手に取り、縄に当てる。

 ただ、上手く縄を切れないようだ。

 それに見張りの探索が思ったより早い。このままだと、すぐに少年が嘘を言ったことがわかるかもしれない。


『少年、手を縛られたままでも走れる?』


(ああ)


『じゃあ、左へ行って』


『そこら辺に扉がある』


(ああ、あるな)


ずしゃっ


 廊下へと少年が倒れ込んだが、これで部屋からの脱出は成功だ。

 おっとしかし、倒れた音のせいで見張りのやつが気づいたっぽいぞ。


『そのまま左へ走れ、全速力で』


 少年って基本、走らせると速い。めっちゃ速い。身体能力が高いんだろう。難点があるとすればその反動で


『左へ』


ズズーン


 うん、曲がることが難しいことですね。


 ちょっとだけやばいかもな。見張りが最初の部屋のところまできた。

 でも、外はもうすぐそこだ。


 そのときにはもう少年は扉のことなど気にせず全速力で走っていた。そしてそのまま大きな音を立てて扉を蹴破った。


(気持ちいい)


 外に出られたときのあの開放感といったら!

 俺が感じられたのは少年が感じた分の半分にも及ばないだろうがすごいものだった。


『あ、やばい。そのまま森へ』


 今の音でかなりの人が気づいた。

 でも正直森に入った以上追いつかれることはないだろう。

 この森は小さい頃から少年が駆け回っていたところだ。当然、少年も、そして俺も余所者の100倍は知っている。


『追っ手を振り切ったみたいだよ』


 それを聞くと少年は止まり、目隠しや手の縄を屋敷から取ってきたナイフを使って外した。


(じゃあ、戻る)


『え、なんで?』


(妹を助けなくちゃいけないだろう)


『ん?妹ちゃん?妹ちゃんは...無事だよ。少年の家で隠れてる。それにこのままいっても返り討ちにされるだけだよ。大人の援軍とか呼べないの?』


(町に行けばなんとかなると思うが)


『なら町に助けを呼びに行こうよ』


(その間に妹は、リナはあんな奴らの中で震えながら過ごすんだぞ!)


『このまま助けに行って助けられず、死んでしまったらそれこそどうするんだよ!』


(...わかったよ)


 そうとだけつぶやくと少年は走り始めた。基本無言だった。



 脱出も終えて少し落ち着くと俺に降り注いだのは後悔の念だった。


 俺は知っていた。あいつらがこの村に来ていたことを。旅芸人だと思っていたが、考えてみれば変なこともあった。道ではなく森を通ってきたこと、大人数で来ていたこと、他にもきっと何か手がかりはあったはずだ。


 ただ俺はここのことを何も知らなかった。仮にも11年いたのに。

 でも、少年は話してくれなかったんで仕方ない?

 うん、確かにそうだ。俺は...

 いや、でもそれについても俺が悪いんだ。

 だって、小さい頃から話しかけていれば、当然仲良くできたはずだ。


 ただ、俺はここ数年しかあいつに積極的に話しかけていない。

 その前は...正直こんなやつと話したくないって思ってた。


 だって、ずるいじゃないか。

 なんであいつは家族や友人に囲まれて幸せそうに生活してるんだ?

 なんで俺はあいつから自由に離れられないのにあいつは走れるんだ?

 なんで俺はこんなやつに憑いて、縛られなきゃいけないんだ?

 なんで俺は死んで、あいつは生きているんだ?


 ずっとずっとそんなことを考えていた。


 だから意地でも話しかけたくなかった。結局のところ自分がやりたいことをたくさん残して若くして死んだことに対する整理が全然できていなかった。ある程度整理がついて、意地よりも誰かと話したいという欲が強くなったときにはあいつは俺のことを悪いものだと思うようになっていた。

 そう、うだうだと考えているうちに人型の光、オーラを目で捉えた。


『人がいる。結構たくさんだから多分町じゃないかな』


 少年がほっと息をついたのがわかる。

 ...とにかく後悔は後でじっくりやろう。今、少年についているのは俺だけなんだ。少年を不幸にするわけには、死なせるわけにはいかない。

 まだこどもでやりたいこととか夢とか色々なことを持っているうちに死ぬのはすごくつらいことだから。




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