呪術師、南東へ
とある呪術師の小旅行
ーーーーーアムス・ビショップ・クロウリーJr
魔女領の外に出るのは久しぶりだ。旅用の外套に魔物除けのランタンを腰に下げ明け方に出発。
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アムス・B・クロウリーJr
型 大呪術師
技 結界術 各種呪術 聖人の呼吸 癒しの波動 護符術
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対悪魔党戦争が終結し休みが取れた。今までは聖域の維持のために俺自身が楽園や魔女領から離れることは選択肢として存在していなかった。それが魔女と呪術師の黄金魔防壁『黄昏の世界』の完成を持って変わった。
——黄昏の世界:魔女と呪術師、その他の能力者たちが黄金太陽のエネルギーを元に作り出した世界最強クラスの魔防壁。現存する他円卓の勢力の魔防壁を凌駕する性能を持つ。塔のカードを手に入れた魔女はその力を使用し黄昏の世界の更なる強化を計画中。
『黄昏の世界』はもう俺がいなくとも完全に機能する。そこでかねてより希望していた「もう少し外を自分で見て歩きたい」と言う願いが受け入れられたのだった。
出奔するわけじゃない、要するに一人旅をしたいと言うことで__
仲間探しもある、シンディとカトー。カトーの痕跡はあった、ジョンとか名乗っているみたいだ、……記憶が正しければ、だが。同盟相手であるANKH領に滞在中のはずだが、ANKHに問い合わせても今はどこにいるかわからんとか。色々ほっつき歩いているらしい。会いたいけれど、もう放っておこうという気持ちもある。
シンディの方も、これまたANKHの方から情報提供があった。ANKHの拠点がある街、Qに滞在していたことがあると言うのだ。しかし強制転移、超長距離移動してしまうダイスとかいうアイテムを持っていて忽然と消えてしまったと言う。
そのアイテム…… 持ってて大丈夫なのか? ……心配すぎる。カトーは放っておいていいが、シンディの方はどうにか解呪してやりたい。
因みにANKHはシンディの結成したグループと株を最近分け合ったらしく、マチルダ女史が言うには「シンディという女とは面識はないが無事生存して組織を持っているのは間違いない」といっていた。というか、株を分け合ってるってならなぜ代表のマチルダがそのグループをよく知らないのか。ジョンがどうの、とか多分、とかいっていたが……
……まぁいい。互いに無事ならこれ以上望むこともない。ため息をついて切り替える。みんな生き残ったんだ、俺が一番ぬるいルートだった気もする。いやいいけど。
なにわともあれ、コートの上からリュックを背負って州都南東方面へ。
礫ばかりの高速道路を南下し南東地区へ入ると、石化したエイリアンや、人間の像、それとも石化死体と呼ぶべきか。それらがちらほらと目につくようになってきた。
**
___午前9時半
「丘の上に立つ駅」
なだらかな丘の上に建つ駅は目の前にはビルが並び、開けた場所にガラス張りの小屋、その中には下に降りていくためのエスカレーターだけがある。その小屋を囲むようにして飲食店だった建物がぐるりと並ぶ。
このちょこんと飛び出た小屋のエスカレータがショッピングモールの入り口になっていた。反対に丘の麓の方はごく普通の入り口。
要は麓の入り口がいくつかと駅前のモール4階の入り口が駅前にあるのだが、その屋上入り口と向かいの駅前の通りには濃密な霊気が漂っていた。
腰に下げていた魔除けのランタンを消す。さらに自身にバフ解除をし魔物が嫌がる気配を自身から払う。
より周囲と自然に溶け込むためだ。
駅前を並行に進むように横の歩道を進んでいくと__
小動物の糞ほどの霊気のだまが僅かに漂っていた。
「……ビンゴ」
バジリスクの霊気の残滓だ……
やはりここにはまだバジリスクがいると言う証拠だった。
この南東の土地は前からWitcheryが魔女領に編入できないか狙っていた土地であるのだが。この土地には前から石化された生物の亡骸があって、まず間違いなく能力者か魔物の仕業であると言うのはわかっていた。
霧がある箇所と晴れている箇所があったので、何者かの勢力になっている可能性からWitcheryは慎重に調査していたが優先順位としては魔窟の調査や魔物襲撃への対処が上だった。もちろん主に憎き竜もどきのおかげで!
エデンがWitxheryに編入されてから、楽園と魔女が対等でいられるかの議論がヒートアップし、魔女側は楽園を守る協力を無償でし続けるわけにはいかない、傘下に入るべきと言った。そしてあれよあれよと始まった模擬戦で楽園の全幹部を相手にして魔女が単身で圧勝。「全員本気でかかってこい、これで負けたらあたしがボスだからね」と魔女が言った時は冗談かと思ったが……
防衛隊長のレオン以外はすでに降参ムードでこれは属国か、傘下勢力になりそうだという雰囲気だった。魔女を信用ならない、と言い張るレオンがごねて一時は剣呑な空気が両勢力の間に漂った。
が、竜もどきに対抗するのが難しくなってきていた楽園サイドが魔女に再度協力を要請。Witcheryからはレオンを警備隊長から外すこと、つまり幹部からの降格が条件として伝えられた。その後ヴィクトールによって楽園が小規模勢力として自立を歩むか、魔女領に編入されるかの会議が開かれ魔女の戦力に依存し始めていた我々は魔女の勢力に組み込まれた。幸い属国でもないし、問題は何もなかった。まぁ自力で守れないならそうなるのは仕方ない、魔女がまともな相手で正直助かった。
レオンは降格がかなり堪えたらしく、幹部に戻れそうな成果をあげようと血眼になっていた。そして魔窟を調査していたコナーたちにこっそりと南東の調査を依頼していたらしい。しかしコナーたちは忙しくなって南東の調査は出来ず終いで終わる。
焦ったレオンは自ら部下たちと南東地区を調査しにいって帰らぬ人となった。今は俺と高等人型エイリアン達の長グラムで魔女領、及び楽園の防衛責任者をやっている。レオンの後釜の守備隊長はニルスと言う才能ある男が任された。ちなみに俺が発掘し推薦した。
ニルス:若き楽園の兵士長
今回俺が留守にできるのもグラムとニルスが防衛に必要なことは全て出来るからだった。もほや俺の重要な仕事は魔防壁の構築とメンテナンスがほとんどで基本的には暇。暇は嫌いじゃないので大歓迎ではあったのだが。この時間を使って南東をこの目で見たい。
その後も南東エリアは楽園側でも一応調査していたのだが、悪魔党との戦争が始まり調査はまたもや先送りになっていて……
魔女領に目と鼻の先にもかかわらず、組み込まれずにいつまでも残り続けた喉に引っかかった小骨のような土地、ここにには何かある、そう直感的に思っていたのだ。
***
駅前にオブジェのように立つ石化した女性の像を観察する。触れるとゴツゴツ、ザラザラとしていた。滑らかで滑滑した石になったもとざらついた感じで石化したものが両方ある。この違いはなんだろうか。像によって違うのだが。
黒に緑などが混ざった羽根が歩道に落ちていた。
拾い上げ観察。
「やはり、霊気が宿っている、大分抜け出ているが、強力な魔物のものだとわかる…」
以前から南東エリアに石化系能力を持った魔物の存在が指摘されていた。
調査結果として報告された魔物は通称「バジリスク」
駅前に霧が漂い始めた。霧に囲まれないように動きつつ、ショッピングモール外周の坂を下っていく。
霧が出てきて漂うということは…… やはり領主のいない土地。
「……見つけた」
バジリスクだ。
首の長い雄鶏、蛇の瞳に蜥蜴の尻尾。体調は80センチほどか。
(さて、本当にお前が犯人なのか、観察させてもらう)
しばらくバジリスクをつけ回してから、観察スポットを決めた。
ショッピングモール向かいのホテルの5階。
ホテル内にも石の像はあったが、数は多くない、バジリスクは駅前とモール外周付近の工事現場や瓦礫の山などを好んでいるようだった。
逆に言えば、それ以外の建物にはあまり入ってこない。
其の上他の魔獣やエイリアンと共存する気も無いようで、南東エリアに入ってからはずっとそうであったのだが、この駅前一帯はほぼバジリスク以外の魔物を見ない。
__正午。
何もおこらないまま時は過ぎて、日が快晴の青空の頂点に達した。
昼飯でも食うか……
チェシャ猫のような顔つきの男、レオニールとその相方の男に作ってもらったアイテムから握り飯を取り出す。
ポータルボトル:魔法瓶の形をした簡易人工ポータル。小さめの冷蔵庫ほどの大きさのアイテム倉庫と繋がっていて、離れていても瓶から取り出せる。あまりも大きなもの、霊重量の重いもの、生き物、そして自領土から離れ過ぎている、もしくは他勢力の魔防壁があるなどの場合は機能しない、もしくは異物として認識されかねない。認識されれば壊れる、離れすぎた場所で起動しても壊れる。他勢力の魔防壁が……、まぁそういうことだ。
塩漬けにして焼いたサーモンが具に入っているものを3つと緑茶で頂く。
昔旅行に行ったこともある日本風の昼飯を見様見真似で作ってみたが美味い。ハラペーニョのピクルス入りも作ってみたが悪くなかった。
緑茶で握り飯を胃に流し込みながら、窓辺から通りを伺う。
眼下ではバジリスクが勢いよく飛び出すように路地から出てきて道路を横断していった。
このホテルに入ってくる。
(バジリスクはどこに向かっている?)
非常階段から低層へ。
電気の止まった無人のホテルの中を探索。
気配を殺しながら慎重に廊下をチェックしていく。空いた扉の部屋に入り中を見て周り、廊下に出ようとした時。
ちょうどバジリスクが通り過ぎていった。
懐からランチョンマット程度の大きさのハンカチを取り出して廊下の地面に落とす。
簡易穏行結界が込められたハンカチの上に乗る。
(……これで気づかれる心配は少なくなった)
バジリスクはせっせと一つの部屋に入っては時折小石を口に咥えて出てくる。小石を壊れたエレベーターの隙間に落としては部屋に戻り、とやっていた。
(何をしている?)
呪魚ー見魚ーミミ
耳に人差し指を入れてほじくり、その後こめかみをトントン、とやると耳の穴から目のない魚が這い出てくる。アゴをつまんで引っ張り出して宙に優しく放る。魚の下腹からは霊気の糸がついていてそれがアムスの指に指輪のように巻かれて繋がっていた。
その魚は親指よりも少し大きく、宙に浮いていて、浮遊能力があることは一目瞭然なのだが、鱗はなく肉体の質感はどちらかといえば蛸に近いものがあった。呪術師であるアムスが魔女及びWitxheryのお家芸である使い魔使役の術にインスパイアされ魔女に助力を得て創造した半霊の使い魔。
呪魚が浮遊し体を壁に擬態しながらエレベーターの隙間に入っていく。
指に巻きつけられた糸がググッと引っ張られる。
糸のついている人差し指をこめかみに当てると映像が送られてきた。
(なんだ? 枯葉や木の枝…… 巣か)
バジリスクの巣があるのか。卵はまだ孵っていない。小石をある程度卵の近くに置いておきたい?
どういう効果があるのかはわからんが、バジリスク的にはそういうものなのかもしれない。
再度小石を咥えてきたバジリスクが廊下をちょこちょこと進んでくる。
自身の横を通り過ぎるのを持って背後から近づく。霊気を封じる巾着袋をバジリスクの頭部に被せてきゅっと口を閉めた。
トカゲの尻尾と羽をばたつかせて暴れようとする大きな雄鶏の魔獣をなんとか拘束。
(おい、暴れるなって!)
「くっ、この雄鶏。思った以上に力強い!」
宥めるように傷つけないように拘束し続ける、もう我慢くらべだ。数分以上落ち着かなかったバジリスクだったが、頭部で収束しようとする霊気が不自由になったことでもう何もできることはないと悟ったのか、次第に大人しくなった。一応抱きかかえたまま撫でておく。
魔女の魅了のドッグタグを首輪にかけると従順になった。
バジリスクがせっせと小石を取ってきていた部屋の中に入ると、先ほどの小石がまだいくつかあった。
石化した鼠だ。鼠の魔獣の巣が部屋の壁穴にあったのか。よく見ればあの小石は鼠の魔獣の幼体が石化されたものだった。ちょうどいい大きさや、霊気の含有量などがあるのか?
よくわからないが、ちょうど良いテーブルを発見。
リュックから呪いのチョークを取り出しテーブルの上に魔法陣を描いていき、その上にバジリスクを置く。
頭に巾着袋、首には呪術道具の首紐をつけられた雄鶏を両手で包み、じっくりと俺の霊気に馴染ませていく。バジリスクの足まで霊気が到達したあたりで魔法陣が起動。
「……使い魔契約実行」
返ってくる
霊気の抵抗の感覚から多少の時間がかかるのが予想できた。
>>バジリスクが了承。
>>対価として霊気を要求。
了承。霊気を与える。
要求された霊気はそれなり、時間もかかったが、まぁいい。
==
バジリスク
首の長い雄鶏の姿、瞳は蛇で尻尾は蜥蜴の魔獣
エイリアンでも旧世界の生物でもないこの魔物はのちにWitcheryによりキマイラ類と類型された。
技:邪視(見たものを硬直させる)
石化毒(爪で傷を与えるか、もしくは息を吸い込ませるかして生物を石化させる)
邪毒の息(不可視の毒の息、石化毒も漂わせられる)
==
バジリスクがあと何匹いるのかも不明だが、番いはいるはず。
他にも捕まえて魔女にサンプルとして送ってもいいかもしれない。ホテルの一室でそう考えていた時だった。
……!!
目の前がグラングランに揺れる。
なんだ!? 何が…
その瞬間、喉に何か小骨がつっかえているような感覚に襲われた。息苦しい、空気がうまく取り込めない! 気分が悪くなり、視界にうつる部屋は平行ではなくなっているのにようやく気づく。
グラグラと揺れる世界の中で思わず膝をつく。
酷い酩酊状態に陥ったようだった。まるで荒れ狂う海原に浮かぶ船にいるかのようで、立ちあがろうにもすぐにもんどり打って部屋のベッドに向かってゴロゴロと転がる。
必死にそばのものを掴もうとするが、視界すら固定できず。カメラを振り回しているカメラマンが撮った映像のように画面が動き焦点が定まらない。
左に思いっきり引っ張られるようにして、ゴロンと倒れ込んで、部屋の隅とベッドの角で自身を挟むようにしてなんとか体を固定。
やり過ごそうとするが、冷や汗が吹き出す、ダメ押しとばかりに全身に悪寒が走る。骨の芯まで凍えるような感覚。どこか遠くで良からぬものがやってきたことを告げるようなサイレンの音が幻聴のように聞こえる。
これが俺の呪術師としての力。自らに掛けている呪いの一つ。
探知する呪いの網縄が起動した結果起きる現象だった。
>>探知する呪いの網縄:小型の魔防壁を自身に張り巡らし、持ち歩く。
魔防壁は極小の網を一定間隔で周囲にまき、異物を感知すると所有者に呪いを発動。
あみの糸はマザーに作成を協力してもらった。
この呪いは危険を知らせながらも、こちらを弱体化させてしまうもので、使い勝手は悪いが。遠くまで察知できるのでこの呪いはかけてきていた。これはバジリスク程度の存在には反応しないように設定されている。するとしたら俺よりも霊量が多そうな存在で尚且つ俺に友好的か不確定な存在。
網縄の魔防壁の範囲は最大でも俺の半径200m。
今はこのホテルとその隣接するビルまでが魔防壁の範囲内。ちなみに敵に魔防壁は作動しない、俺に対してのみ。
その代わりに俺と魔防壁そのものが敵に大幅に感知されにくくなり、逆に俺は相手を探知できる。
何者かが、ホテル一階のエントランスにいるのが感じ取れた。
ちょうど入ってきたところか……
どうする? ここは3階……、非常階段から隣にビルに移動するか?
しかしその前にどんな奴なのか見たい。
呪魚をエレベーターの隙間から1階に向かわせる。
俺はホテルの部屋のカーペットをなんとか匍匐前進するように這いながら移動。一度バスルームに不可視の結界を張る。このタイミングで呪魚と離れすぎると気づかれる恐れもあった。
不可視の結界でひたすらに気配を殺し、見魚と視界を接続。
そしてその存在を目にした。
メデューサ。
白い鉱石のような肌の見目麗しい女の怪物。
変異した人間かどうかは疑わしい、頭髪の部分が肌と同じく白い色の鉱石の蛇。服装はローマのトガのような一枚布で表情は凡そ人間らしくない無表情。目を見開いていて瞬きは少ない、が一応するようだ。
第一印象は___
___勝てるか、かなり怪しい、だった。
呪い魚の口の中にあった目玉とメドゥーサの目があった。俺とも目があったような感覚。それは全身が凍てつくような瞳だった。
カァーン、甲高い音。石化した呪魚が床に落下した音。
「……逃げなければ」
さぁ、小旅行に繰り出す前に魔女の土地まで逃げ帰る羽目になりそうだぞ。
Witxheryによる魔物の類型
旧世界生物系
ー人類、動植物類
新世界生物系
ーミュータント類、エイリアン類、キマイラ類、人造類(何者かが創造、または改造したと思われる生物:キマイラ類もここに入る場合もある)




