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ダブルサイココライド2 ―Saga Of Hermitー  作者: KJK
14章 Scare Crow 行進する案山子の軍団
94/111

Scare Crow VS New World ー2ー 英雄、煙人、死神、__衝突



巨獣を煙が包みこみ、その姿が見えなくなった。

巨獣だけでない、ビルも広場も、精霊が住む風も全てが分厚い煙に包まれた。


獣に落ちた騎士が2本の腕を十字に交差させ煙を突っ切るように逃れようと大地を蹴る。煙から頭と肩がつき抜け出たところで身を翻し反転。


血が滴り落ちる禍々しい顎を開け__


___咆哮を放った。



獣の喉奥から鮮血の花吹雪と共に強烈な竜巻のような衝撃波が放たれた。竜の息吹にも引けを取らないほどの威力の血と音と大気が合唱する暴風。それは巨大な破城槌のように自身を飲み込もうとした煙幕を吹き飛ばし、首を横に振りながら暴風を横に薙ぐとビルを8軒以上も巻き込んで、その全てをスクラップへと変えた。


荒ぶる狂獣止まらず。


頬と腹が膨れるほど息を吸い込み、再度鮮血の混じる暴風を放つ。二回目でさらに煙を吹き飛ばすために。血まみれの口から放たれる破壊のビックバンドは放たれる際に巨獣の牙ごともぎ取っていくほどに荒れ狂ったもので、放たれるハリケーンは災害そのものを発生させる災厄の獣の存在をディストピア中に知らせた。


獣の顔つきはさらに禍々しくなる。

目鼻からはおどろおどろしいくらいに血が流れていた。

牙は折れては口から溢れ落ちた、放たれたハリケーンが通り過ぎた後には鮮血の雨が時間差で降り注ぎ、雨に打たれたものは酸性の獣の血と唾液に焼かれるような痛みに悲鳴をあげる。


騎士達の鎧だけが、雨から身を守る手段でありその特性の鎧ですら雨に触れた箇所は煙を上げる始末であった。











***



ーーーーーーーReuben Knightley Side



__人間管理局前 午後4時



英雄と煙人、そして死神が対峙していた。


傍にはボロボロの状態でうつ伏せに倒れているウィル。


ウィリアム・プライス率いる獣心騎士の部隊は壊滅。選りすぐりの騎士たちだったはずだが、戦争は敵城の一歩手前まで。ここで終わった。巨獣と化したウィリアムは城の前で倒れ伏した。どちらかといえば騎士よりも死物が善戦したところもあった。堕天使ゾンビはもう引かせたが残った死物は今も罪人たちと戦闘を継続。


悪竜どもはいつまでも決着がつかないどころか、ウィルを倒した新世界を警戒して帰ってしまった。騎士からすればそんなにすぐに逃げるな! と言いたいところだが、総大将のウィルが倒されたとあっては強くは言えない。竜は命を大切にする生き物なのだから。旗色悪ければこうなる。



「ルーベン・ナイトレイ」



はぁ、めんどくさい。


それが正直な感想だ。

名前すら覚えていない一番弟子がやられているし…… 面倒すぎて今からでも昼寝に行きたい。そもそも、こいつはちゃんと変身しなかったの? いやしてたっけ。獣心解放すればもう少しやれると思うんだけれど。いやした上でやられたのかも知れない。


にわかには信じ難いことだが、円卓の当主なら倒せてもおかしくないか。


それにしても死神と煙人ね。随分強いし、面倒臭い能力を持っているようだ。円卓では何度か見かけていたが、どうせ大したことないのだろうと思っていたのだがハズレだった。


正直帰りたいな、そもそも私は司令官じゃなくて、今回はトミーとかそんなやつに任せたはずなのだから。人というのは仕事は早々に一目散に家目掛けて帰りたい生き物であって…… 御多分に洩れず私もその人間だ。


つまり本当に帰ってしまっても……



ーテメエ、今の内に尻尾巻いて帰らねぇとヤベェんじゃねぇか? みんな撤退しているぜ?


煙人が話しかけてくる。


気が合うようだし、ちょうど撤退について考えていたのでさらに感情が動いた。返事代わりに欠伸をすると、何か怒鳴ってきた気がするが、あまり聞いていなかったので気のせいかもしれなかった。


この都市、ディストピアも中々興味深いけれど、私は眠たいので人の話を聞くのは難しい。それに何か喉の調子も良くない気がする。だから返事をしないのだけどもしかしたらそれで怒っているのかもしれない。人は何度も話しかけたくない生き物で、無視されれば怒りたくなる気持ちもわかる。


面倒臭いけれど、なんとか返事をしないと。


「わかってくれると助かるのは人は皆眠たいと言うこ、」


喋っている途中であくびをしてそのまま意識が落ちそうになると声が聞こえた。


ーぶっ殺すぞ、欠伸野郎!


煙人が何か言ってすぐ足元の影が変化した。慌てて目覚めなければならないことを理解する。重すぎる瞼をなんとか開けて__


ええと、足元の影がなんだっけ……。


いや、背後の頭上に死神が出現したのだ。瞬間移動した? 多分できるんだろう。陽を遮って影ができたようで、鎌を振り下ろそうとしている影が地面に映っていた。影絵をぼうと眺めるように影の動きをスローモーションのように見ていた。


避けないと首を刈られてしまうので、面倒でもそろそろ動かないといけない。

あまりにも面倒くさいので腰の刀の柄を手で地に向けて押す。

シーソーの様に鞘先が腰から背の方へ持ち上がり、背後の死神へ向く。



とんと鞘を射出するように押し出し、死神の顎先に向かわせた。死神が手で振り払おうとして、異変に察知。空を蹴るように動きその場から飛び退いた。


私自身も前方へ。その場から距離を取る。


死神が、マスク越しに口と鼻を押さえ咳き込む、街灯越しにでもわかる、やつの肉体から癒しの霊気が湧いている。

回復術を使用したようだ。瞬間移動だけでなく、そんな技も使えるか、死神のくせに回復魔法なんて、どうなの?自分の命を刈り取って引退すればいいのに。そうすれば私の仕事も楽になる、少なくとも今日の仕事は。


特製の透明な毒ガスが鞘先から放出され、先ほどまで私がいた場所に漂っていることを理解した煙人が煙を含んだ突風を起こし、毒ガスを霧散させようとする。

その風に粉末が入った紙を放り込む。


煙人が固まる。風をすぐに止ませた、吹き飛ばすべきか、わからずという感じか。別に吹けば半径1キロ以内の全生物は死ぬだろうけど。しないなら彼らがまずいコトになる。そのままでいいのかな? 


では甘えさせて頂くことにして。


距離を詰めに駆ける。相手がその場を離れようとするそぶりを見せた。

面倒くさくなった、距離は20mほど足りないが、斬りつける。


走り出した慣性を殺さずに刀身に乗せ、同時に走るのをやめて半身になり一歩踏み込む。とほぼ同時にさらに体を捻り抜刀。何もない空間を斬る。


煙人が真っ二つになった。



一帯を覆っていた煙も一斉に二手に分かれては外へと逃げ出し__


___煙の海が割れた。



ついでに先ほど撒いた毒粉を回収。左手の紙包に戻るように念じると一人でに素直に戻っていく。


……危なかった、ふぅ。


軍は撤退させたし、私も大丈夫だけど。あと一瞬でも遅れていたらウィルが毒で死ぬところだった。この毒粉は強いけど、今回は使えないな。咄嗟に気がついて弟子の命を救ったのだが、この弟子は気を失っているみたいだから感謝はしてくれないだろう。


恩着せがましいのは誰だって嫌だし、私だって恩など着せる為にわざわざ人に話しかけたくなど無いから、今回のことは誰にも知られることはないだろうが少し残念にも思った。人の命を救って感謝されるのは英雄らしい仕事であるからだ。人知れず問題解決するのも英雄らしいから別にいいけれど。自分らしくあるのは大事だからね。


煙人の背後にあったビルがズレ落ちるように、少し動き、そして崩壊。粉塵が舞う。



一体何があったのか。

そう思った時、「あ、私が斬ったんだっけ……」と思い出した。


「その粉末、ブラフか? それともテメェ撒いたらいけねぇもんでも間違って撒こうとしたんじゃねぇだろうな!?」



図星だが、眠くて集中する気にもならない。しかし図星なので反省しようか。しかしその間にも煙人が分裂、敵が増えるから反省すら困難に。四方八方から矢継ぎ早に突撃してくる。速すぎて目が回りかねないほど。


欠伸をしながら避けながら的を縛らせないように動かなければならない。


当たるとどうなるのか、突っ込んできた煙人の腕を掴むとそれは崩れ、神速で形を変えまとわりついて来た。呪いの力かと思ったが纏わり付いた煙は一瞬で腕を登ってきて今度は拳の形を取り、下から突き上げるように私の顔面に自らを叩き込もうとしてくる。


小さく呼吸を一つ。素早く、かつ軽く吸う。超・練気で霊気霧散性質のオーラを息としてフッ!と吐き出す。


煙拳が霧散。周りの、そして残りの煙の残滓が集まりそれが今度は刃物へと変化。数本の刃物。ナイフ、包丁、剃刀が体の付近で生成され、滑るようにこちらの首、脇、腿に狙いを定めたように動く。というか煙人の本体はどこいった? まぁいいか。


この能力。3Faithが言うところの転化系だろう……

もしそうなら、いつまでも形を保っていられまい。

予想が当たっていることを願う。外れると面倒くさいからだ。


切り傷を負いつつ、浅目で済ませた。毒も仕込んであったが私に毒は一切効かない。効かないように霊気が変質している。人は毒には気をつけるもので、私だって当然そうする。


目の前の煙を払うように刀を振るう、と実際にそうなる。


払われても、間髪おかずに煙人の煙は再度戦場に充満し始める。斜め後ろ、足元に気配。またアレか、煙の拳、と思いきや___死神の鎌だった。足首から刈り取りに来た。


片足を上げ、鎌を避けるついでに、いや、気分が変わったのでそのまま大鎌を踏みつけて折る。



! 


が、折れない。柔軟で粘り強い強靭な金属に霊気がよく通っていた。さらにギアを上げるように踏み込むと、バネのように衝撃が返ってくる。


……嘘。絶対折れると思ったのに。あまりの驚きに思わず下がる。よろけてしまう。


間髪入れずに、死神が追撃を入れに飛び込んでくる。と同時に左から、斜め後ろからも、右手からも煙人の分身が出現し突撃してきた。連携が芸術的だった。逃げるルートも塞がれていた、これでは先ほどのように透明猛毒を撒いて逃げたりもできない。阿吽の呼吸というか。


腰からショートソードを抜き二刀流に。


煙人の攻撃が同時にやってくる。

霊気を練り上げ煙の拳が当たる瞬間に、首、後ろ脇、腿、後頭部の箇所に集中して一瞬で霊気ダマりを作る。それに触れた2体の煙人の腕がまるで地雷でも踏んだのかというように吹き飛んだ。


次の煙人の拳が当たった瞬間に霊気を爆発させ、逆にダメージを相手の腕に逆流させた。超練気と罠士の右手、運命の輪を持つものだから出来る芸当。実際は運命の輪所有以前から別にできるけど。


残った煙人の拳が顔面に迫ってきている、死神が背後頭上から私の正面の煙人ごと刈り取るように大鎌を振る。


鎌に宿る霊気が爆発的に増加。その上予想を遥かに超える速度。 


これは受けないほうがいい。この死神からそこ知れぬ何かを感じた。煙人の拳をこめかみで受けるように喰らいながらショートソードと刀で鎌の柄を斬る、つもりだったが切れない。仕方なく、そのまま強引に一気に霊気を込めて押し弾く。


霊気の波のような斬撃が鎌からは既に発生していてそれに斬られる。体を鋭い衝撃波が肉体を通り抜ける寸前、波を相殺するように体内の霊気を操作。


両断はされなかったが、一発で50mほど吹き飛ばされた。今霊気操作が遅れていたら本当に両断されていてもおかしくなかった。立ち上がると同時に6体の煙人が大量の煙の息吹のようなものが吹いたのが見えた。


蒸気機関車の煙突から出る分厚い煙が水平方向に向けて放たれる龍のブレスのようだった。あたり一体が完全に煙に包まれ、何も見えない。視界が完全に遮断されるだけでなく。音も無くなっている、吸ってもいけない。肌にもまとわり付かせない方がいい。辺り一体の霊気の状態も感知できない、5感全てに封をされたのを理解した。


防護服のように霊気を全身に纏わせながら、煙の世界でショートソードと刀を仕舞う。

腰を落とし、居合の構えで待つ。



割ろうとしても、おそらく先ほどのようには斬れまい。


……どうするか。






ふわぁあ……


あくびを噛み殺そうかと思ったが、つい出てしまう。

眠気という最大の敵を倒せず、眠ることもできず、

せめてこの二人くらい倒したいが……


正直かなり強い。少なくとも私の弟子のレベルは超えているかも。トミーでも無理なのも納得。巨獣をやったのは二人でか? それとも……


巨獣、煙人だけならまだ一方的な負け方はしなかったはず。暴風は煙と相性も良さそうだ。ということは死神の方が怪しいな。確かにこいつなら巨獣をやれそうだ。


しかし、さてどうなるかな。


酷い煙の中、息を吸わないように、霊気をフィルターに変質させエラ呼吸ならぬ霊気呼吸。あまり煙は吸い込まないほうがいいと、防災訓練か何かでも言っていた気がする。


右頬が突然きられる。霊気を纏った剃刀が煙から現れ肌を切り付けていた。ほおに霊気を集中させ剃刀を弾くとすぐに煙状に。霊気ごと相殺させて消耗させねば無限に現れるだろう。

しかし、ここは敵の本拠地。LMPで補われるとまずい。


故に消耗戦はするべきじゃない。

自身が身にまとう霊気のフィールドを広げると、煙がそうはさせんと霊気を取り込もうとする。


そうだね。好きにはさせたく無いのはわかる。



その間にも四方八方から煙の拳が現れては殴られ、刃物に切り付けられる。時折どこからともなく出現する、死神の大鎌を躱すことに集中。私ですら折るのも、斬るのにも失敗した鎌は受けちゃダメだからだ。


さて、どうするか。

目も見えない。濃い煙の中。音も無く、無論味覚も嗅覚も使えない。霊気の感覚も封じようとする煙のみある世界。


そうだな、五感が封じられているなら第6感でどうにかするか。


……いや、ちょっと待った。


もしかしてこれ、走ってこの煙から脱出すればいいだけじゃない?

こんな簡単な攻略法があったとは…… ため息をついて肩を落とす。さっさとそうしよう。腰を落とし一気に地面を蹴り、一直線に駆け抜ける。一息で200m以上移動した。



視界が何も変わっていない。分厚い、先が一寸も見えない煙が相変わらず漂っている。モクモクの灰色の煙しかない世界。さらにダッシュ。今度は500m以上駆けた。結果は同じ。音速までは出ていなくとも、この煙よりは早いと思うけど。


死神が突然目の前に出現。斬りつけられる。ショートソードで受けて切り返す前に消失した。


なんとかいなしたが……

こいつ強くなっている? 今のは相当危なかった、どうしよう。



さて、もしかしてだけど。

この煙この都市の全域を覆っている? だとしたら、少々不味いのだけど。奴が転化系統だとしても。この煙に関してはずーっと使えそうだし、、、


どうしよう。逃げようか? 

そのまま一直線に駆け抜けて都市から出てしまえばいい。


あ、弟子も助け出した方がいいか。でも置いてきちゃった……

トミーと言ったっけ、……あの弟子。


……あいつ今どこで寝てるんだ?



見つけてからじゃないと_____



_____ここから逃げられないぞ……








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