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ダブルサイココライド2 ―Saga Of Hermitー  作者: KJK
13章 大脱走 囚人、怪物、呪われし大森林
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狂宴 現実と幻術


「マンフリード・アダムス」



タコのような頭のミュータント。見た目から、ミュータントではなく火星人だと言い張っても通用するだろう恐るべき敵の胸、正確には喉と鳩尾の間にはぽっかりと穴が空いていた。向こう側は見えないが。


ーだが、拳士よ。お前も死ぬのだ。この地で、お前は、私と共に死ぬ。


ヘルマンが吐血しながら死に際に不穏な台詞を放つと、ヘルマンの肉体から力が抜け、後頭部から地面に激突するように倒れ、ぴくりとも動かなくなった。


マンフリードがミシェルを見ると、何処にもいない。


「ミシェル! 何処いった!?」


心中に焦りと不安が生まれた。獣の勘が告げる。何かがおかしい!

ヘルマンの亡骸を見ると、吐血して仰向けに倒れていない! 片膝をつき尺八を吹いている。明滅する明るい白に近い桃色の花弁が辺りに舞い吹雪いていた。


胸には致命傷の跡がしっかりとある。


「死んだのは幻術だったか!」


マンフリードは焦った。何が現実で何が幻術なのか分からない中での戦闘。致命傷を与えたのは間違いない。手応えとしては、おそらくもうこのヘルマンというミュータントは死ぬはずだ。問題はこいつの最後の反抗で地獄へ道連れにされかねない事、そしてミシェルが見当たらない事。



仕方ない、回避に専念するしかない。


自分に、この手負の獣にできることは、今感じたように動くことだけだ。







**



「ミシェル・パーカー」


ミュータントの隠密の集団は自分が引き受け、蛸頭はマンフリードに任せた。


「四季の鎧、秋!」


==

四季の鎧

春、軽量型燃費小 

夏、超軽量型、燃費大 

秋、中量型燃費中 

冬、重量型燃費特大

==


ミシェルの鎧が春から秋へ変形。逃走中よりも信頼に足る性能になった鎧に変化。ミシェルがヘルマンの部下の忍び達から投擲されるクナイや毒矢を躱しては隙を見ては接近。突き刺し、斬り殺し、数を減らしていく。この隠密ミュータントどもは皆精鋭揃いの高位能力者であったが、流石に騎士団最強を誇る7名の高弟騎士に名を連ねるミシェルに手が届くものはいなかった。


乙女騎士ミシェルがヘルマン配下の凡そ半数を下した時。マンフリードとヘルマンの戦闘に決着がついた。


ヘルマンが膝をつき吐血、絶命。

残ったヘルマン配下がそれをきっかけに次々と離脱していく。



「ふぅ、何とかなったわね。一時はどうなるかと思ったけれど」

「はは、惚れ直したか?」

「いや最初から惚れてないから!」


それよりも、ここからどうするか。



その時、隕石が降った。落ちた。

ミシェルの鎧など軽々と粉微塵にする質量の石や鉄で形成された小さな星が認識できない速度で頭上に迫っていた。避けられない。マンフリードが獣的反応速度で動いた。



ギリギリで助けられた。拳士の右腕が吹き飛ばされた。


そして足音が聞こえて来た。




***



そこからはただひたすらに走った。ミシェルにできることはそれだけだった。


当てもなく森の中を気配を殺しながら二人。同じような道を進み、同じような道を抜けて、同じような道に出る。じわじわと精神を削られていくような感覚。あの不気味な森を抜けても未だに自分たちは迷いの森の中なのか。聖種領全体がこのような仕掛け施されている可能性。それが頭に過ぎる。大群での侵攻も少数での浸透作戦にも有効だろう。


この迷いの森は終わらない地獄の逃走を敵に約束する。逃げている間消して終わらない連続する絶望。それが神経をすり減らし、破壊しに来る。諦めない限り、この絶望は終わらないのではないのか。


この情報も持ち帰るべき情報だった。持ち帰れればいいのだが。自分も、諦めなければいいが、もはや諦めるか諦めないかの主導権が自分にある感覚自体がミシェルの中からは消えていた。


ただ、今はマンフリードの背中を追いかけて藪の中を突っ切る。と、あの場所へ戻ってきてしまった。森の中の開けた地。大樹がいくつかここを囲うようにあり、花弁がまだ少し舞っている、中心には膝をついたまま死んでいるヘルマンの亡骸。


ミシェルは腰の袋から胡桃ほどの大きさの種を取り出しそれをヘルマンの亡骸に投げた。それは僅かに動いているようだった。ヘルマンの皮膚に吸着しめり込んだ。


「よし、心配だけどやっとく」


ミシェルが呟いた時。


まただった。また再び。矢と星が降る音、幾千の騎馬の音。


「奴がやってくるぞ!」


マンフリードがミシェルを急かすように叫んだ。



星降らす怪物人馬。あれに捕まるわけには行かない。二人は走る、とにかく走る。この森の果て、森でなくなるところまで行けば何故か奇跡が起きて助かるのだと信じて。どういうわけかあの怪物は森の外までは追ってこないと思い込んで。それを疑ったらもう終わりだからだ。


矢と隕石が降り始めた、最初はポツポツとそして雷鳴のような音と共に星が降ったのを皮切りにそれは激しさを増した。防御した矢は防御しなくても良い矢で回避しなければいけない矢は回避どころか認識も出来なかった。しかしその受けた傷の場所すら間違えていて、ミシェルはとてもじゃないが頭がおかしくなりそうだった。


マンフリードは目の焦点が微妙に合っていない。頭がおかしくなったのか、それともあの蛸頭との戦いでもう既に力の大部分を使ってしまったのか。矢弾の回避以外には何もしない。


(このまま迷いながらこの隕石と矢を避け続けていたら、スタミナが切れて死ぬ…)


先生、私はどうすればいいの?



***



ミシェル・パーカー



隠密部隊を相手にしていた。

何処からともなく現れる矢の雨も隕石同様に厄介極まりない、迫り来るクナイを弾き隕石だけには当たらないように、花吹雪の中立ち回る。花弁に混じり雪までが降っていた。いつの間にか地面は泥濘と化していた。足を取られないように気を配る。落ちた花弁に泥がつく、滑る、わずか一瞬でも足を取られたら一気に状況は傾く。


幾千の騎馬の足音の中、いつ終わるとも知れない無限の危機から逃れるのは、まるでとても泳ぎ切れない大海の中で波に弄ばれているようだ、とミシェルは思った。



マンフリードを見れば半身になって構えをとりそこに佇んでいた。荒ぶる獣の如き拳士は今は静寂に潜む虎だった。

拳士の前では蛸頭が崩れ落ち、膝を突きながらも尺八を吹いている。と周囲に花吹雪が出現し出す。幻でまた辺りを包む気だろう。


その時、足首を何かに掴まれた。確認すると既に何もない。しかしMoguraらしき気配の残り香が地下にあった。意味がわからなかった。がそれがキッカケとなってミシェルは現実に引き戻された。


「!?」


なんで? なぜ蛸頭が生きているの!? 

乙女騎士の脳が体験の整合性を確認して一挙にパニックに陥る。


疑問、疑問、疑問!



「なぜ花吹雪が吹き始める? それに雪に泥濘?」

「もう既に吹いていたはず。いや違う!」

「さっき蛸頭は死んで花吹雪はとっくに止んでいた! 今は?」

「今は私たちはあの隕石を降らすやつから逃げていたはず! なぜここに戻ってきている!」

「マンフリードの腕が戻ってる!」


ミシェルパーカーは一瞬で先ほどの拳士の行動を思い出し、その良い見本に習った。


四季の鎧を変形「夏」。

本当の意味でこれこそが軽装鎧なのかもしれないというほどに軽量。いや、軽装だが鎧なのか、と疑問が湧く鎧だった。装甲は肩から腕の外型、腰と腿など必要最小限で尚且つ、胸や腹は丸出し。ミシェルのインナーが露出している。アンテナや角のようにも見える突起がいくつも肩、背中、脚から突き出していた。


四季の鎧、速度特化型シーズン「夏」。

燃費は良くないが、これでミシェルの速度は最高に達する。


懐から胡桃のような種を取り出すと、その種がすぐさま親指大のフィギュアのような形に成る。それに自らの腕を与えるように近づける。それが一気にミシェルに噛みついた。


続け様に自らの顔面を拳で殴る。一瞬気が遠のいたが、足りないと踏んで、剣のガードをナックルがわりにもう一度殴る! 目から星が飛び出したと同時に鼻血も吹き出した。


別に良い! このどくどくと流れる血が私に冷静さをもたらしてくれるなら!

そして横の男にも!


「そのままノックアウトされないでよね!?」


クナイや矢を避けながら、近くにいたマンフリードの懐に一瞬で踏み込み、顔面に剣の柄で思い切りの一撃をお見舞いする。本末転倒な結果にならぬよう祈りながら。マンフリードが不意打ちの強打をもらい意識が飛びそうになりつつも何とか踏みとどまり、そして幻術の中にいたことを認識した時。


自然と幻は解けた。


矢は降っていなかった。ヘルマン配下の半数以上は倒せていた。雪も降っていない。



しかし……


「我の幻術を2度もよくぞ解いた。敵ながらあっぱれ也」


「カカカ。足止めご苦労ヘルマン。あとは任せろ」




藍色の戦闘服を着たミュータントの族長、ヘルマンが腕組みをして立っていた。鳩尾に血痕、だが血はすでに止まっており傷も塞がっていた。そして幾百の騎馬の音。その中心にいる怪物がヘルマンの横に佇んでいる。散々幻術の中で追い立てられた半人半馬の怪物が口の両端を吊り上げ、拳士と騎士を見据えていた。







>>ダッチ・ヘルマン死亡して、、、おらず。



====


ダッチ・ヘルマン

型:上忍 サブ:幻術使い

技能:忍頭の呼吸 幻術使いの呼吸 毒霧 仕込み札(札の中に技を仕込める) 毒遁 火遁 水遁 風遁

封の霊気・負の霊気(霊気の流れを鈍化させる、変化、発散させない)


武具:仕込み札、魔尺八、クナイ、撒菱、手裏剣、短刀、霊気保管箱

魔尺八:仕込み札を装填してから霊気を込めた息で吹くことにより

札が細切れに、花吹雪に変化し中距離、広範囲の技に変化する。


例:毒霧=口から直接吐いた場合 射程1・5m 効果範囲1m  フィールドに漂う時間 数秒

  毒霧の仕込み札= 投げた場合 射程50m以上 効果範囲発生1m 漂う時間 数秒

  魔尺八の毒霧= 射程30m  効果範囲 10m以上 漂う時間 数十秒 ただし攻撃力は上のものより物低くなる


====



現実において行われた今回の本当の戦闘、事実を記すならば。


ヘルマンとマンフリードが戦闘、ヘルマンがマンフリードとミシェル双方を幻術にかけることに成功、しかし鳩尾に霊拳をもらい重傷。その後幻術を幾重にもかけて回復に専念した。



今回ヘルマン配下14名の隠密ミュータントとミシェルが衝突。半数が幻術にかかった状態のミシェルに倒された。彼らは弱くなかった。皆かなりの手だれ達、隊員の実力は全てA格に近いBはあったのだ。しかしミシェルの能力者のとしての格はAの上位。A格の中でも高位に位置する個人であり、マンフリードと同等の力を持つ猛者だった。より詳細に分けるならAAクラス。ミシェルは幻術にかかりながらもこれらとよく戦った。


ミシェル・パーカー。

旧西方騎士団の英雄の高弟の7騎士の一人。乙女騎士ミシェルといえば騎士団に知らぬものはいない騎士である。7騎士の中では序列は最下位で最も戦闘に特化していない騎士ではある、が偽装や怪物使いなどの能力は戦闘能力を補ってあまりある、貴重な高弟騎士であると評価されていた。



7騎士=高弟騎士



 獣心騎士 ウィル・プライス

 停止騎士 ジェイムス・ウィリアムス

 犬騎士  ロジャー・グッドマン

 雲騎士  クライド・イングラム

 精霊騎士 チャド・ウィスカー

 乙女騎士 ミシェル・パーカー

 分身騎士 ゴードン・ナイトレイ




====================



「星降らす怪物と幻術使い」


二人の怪物がゆっくりと足を踏み出した。余裕の笑みは爽やかさなどは無く、ただ敵意ある自身に満ちたものだった。


騎士と拳士が同時に背を向けて走り出す。


ヘルマン部隊が四方八方から高速で手裏剣を投擲、吹き矢や煙幕なども使う。さながら忍者部隊。既に半数は減らしたがミシェルが腹を決める、本格的にこの怪物たちとの戦闘は避けられなくなった。しかし迎え打つことは蛮勇。つまり逃げながら戦うしかない。


「マンフリード! 逃げながらやるからね!」

「おう!」


ー変、身!


四季の鎧が変形し衣替え、「秋」仕様に。より燃費と隠密性を犠牲にする代わりに、防御が格段に上がる。ここからだった。秋と冬がミシェルの戦闘モード。


投げかけられる凶器、空から降る大量の矢。


ーレモン!


それら全てを凄まじい剣捌きで弾く、弾く。キツツキが木に穴を穿つ時の音ほどの速度。秒速20回、刃を弾く音が鳴った。マンフリードをも驚かすほどの反応と体捌き。鎧の下に潜む怪物。スライムのレモンがミシェルの戦闘動作の補助を始めた。レモンには霊力を食われるが仕方ない。もはや燃費などは気にしていられない状況なのだから。


死角から放たれた攻撃にもまるでロボットのような超人的反応速度で対処。反応だけならマンフリードをも超えているのではというほどで、拳士は思わず目を見開いた。


マンフリードが悟られないように思念を送ってきた。


(ミシェル! あのケンタウロスの化け物、腰の水筒を気にしている! あれに何かある!)

(水筒?)


確かに何か下げていた。霊気が感じずらい。ミシェルも気になった。


(あれがあいつの力の源? もしそうならば。あれを奪うか、壊せば?)

(かもしれねぇ、やってみる価値はある)


少しだけ希望が見えた。


乙女騎士は囲まれないように注意しつつ立ち回り、逃げる。安易に接近してきた2名の隠密に一気に近づき、一人の心臓を剣で貫いた。さらに反転してもう一人、ナイフを投げつけ額に命中。その間にヘルマンが尺八を吹くと花吹雪が尺八から出てくる。


またあの幻術にかかったら終わりだ。とにかく距離を取る。マンフリードが怪物の水筒に霊拳を打ち込む隙を伺っている。最後の気力を振り絞っての集中状態。


怪物人馬が突如方向転換。

槍を片手にマンフリードに突進。生物離れした速度に質量、霊量ともに洒落にならない。あのチャージを喰らったらひとたまりも無いだろうという、生きた戦車による突進。マンフリードが避けながら霊拳を入れるが、水筒はわずかに外し馬の胴に入れてもまるで効いていない。すぐに再度背をむけ駆け出す。


霊的防御が高いその上あの装甲も一役買っている。アゴ男の霊拳であれは倒せない… どうする? ヘルマンをやはりアゴに任せて自分があの怪物を相手にして、私が水筒を……


(いやいや、無理無理無理!! )


すぐにその考えを追い払う。おそらくあの怪物は高弟騎士の序列1位で相手どれるかわからないような怪物。序列最下位で尚且つ戦闘に特化していないミシェルが敵う相手ではない。それにあの水筒も頑丈そうだ。マンフリードの霊拳の方がやはり…


まずは集団の中にいたB格の敵を始末。にわかに敵の気が引き締まった、怪物の足手纏いが消えたことによってむしろ僅かにやりづらくなる、がそれはいい。


また数合い、雑魚と打ち合ってあとは回避に専念。


あの怪物人馬…… 仲間を狙わないようにしている。矢も隕石もヘルマンやその配下の近くには降らない! 大きな発見だった。積極的にヘルマンとその配下から距離を離さずに動く。10秒ほどの時間を稼いだ。この距離感で立ち回ると驚くほど安全になった。いけるかもしれない! 水筒以外にも重要なデータが得られた。


この怪物は仲間を巻き込むのを真剣に嫌がっている! 超無差別な攻撃をする奴の割に絶対にフレンドリーファイアしたくない性格? だから槍でのチャージが増えたのか! 


ミュータントの仲間意識の強さとはここまでだったか、そう改めて認識した時。


雪と地面の泥濘を見たミシェルが違和感に気づいた。瞬時に剣の柄で己の顔を殴打。


幻術が解けた。


(また、かかっていた! 不味い不味い! 今どうなってる!?)


状況を確認。


星降らす怪物はただそこに佇んでいて、槍を肩にかけていた。無表情、無感情なな目で首をゆっくりと鳴らすように動かしている。


「マンフリード!」

「次はお前だ、小娘」


槍の先には銅を貫かれたマンフリードが力無くぶら下がっていた。


これが現実? 本当に? 時が止まる、少しずつ心から希望が漏れ出していた。ヘルマンは無傷。腕組みをしてミシェルを見ている。眩暈がして、そのまま気を失ってしまいそうだった。どうかこれも幻術であってほしい。これは現実であってほしくない。


唾を飲み込み、シャパーチャを起動。もう帰れなくとも仕方ない。ミシェルが死を決意して最後の悪あがきをしようとした時。


奇しくも場所は聖種領土外まであと一歩という所だった。




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