10話 悪党と椅子・堕天使の死・嘘つき糞ジジイ
暗黒教団悪魔派 首都 ヘルシティ
地獄都市の悪魔大統領の宮殿、執務室にて書類に目を通し慣れた手付きでサインしていたゼフ・アドリエルの手が止った。溜息をつき長椅子の背に体を預け目を瞑った。
一世一代の大博打。同じ暗黒教団の摩天楼派に仕掛けた奇襲は成功。戦争に勝利し苦労してやっと手に入れたと思った摩天楼派の領土を全て横取りされた事を切っ掛けに攻め込んだ本流の首都シン・シティ。切り札である【日蝕】まで使用し、シン・シティを焼き尽くした。しかし謎の黒い鼠の津波や洪水の大災害に襲われ、万魔殿を征服することも敵わず。その忌々しい災厄が自身の領土にも降りかかっていた。
町の一部は日によって気まぐれに黒い水が湧き出し、特製のボートを使って水上を移動するか、背の高い建物の屋根伝いに移動しなければならなくなる。鼠も当初よりは大人しいが、水も鼠も10分で消えることもあれば数時間以上区画を混沌に陥れることもあった。
こんなものが続くのなら戦争どころではない。
本流の首都SINシティは徹底的に破壊してやったがここに来てもう悪魔派の余力はほとんど残っていなかった。魔上人のやつを爆殺したときは確かな手ごたえを感じたものだが…
執務室の天井に顔を向けながらゼフ・アドリエルはその日のことを思い返す。まるで運命が切り開かれたかのような感覚。自らの運命をこれから世界が大きく支持するかのような、そんな手ごたえに包まれた日。
感覚的に自分が大きくなることを世界が認めたように感じていたのとは裏腹に状況は悪くなっていった。
そんな折。
コンラッドが耳に入れたいことがあると言ってきた。
ゼフがさっさと話せと促す。
「親父、変な椅子の噂があるんだ」
「椅子? なんの話だ」
MR・アドリエル公園、中央広場に突如椅子が出現したという噂。
それは広場の中央にポツンと存在していた。いつからそこに置かれていたのか、誰が置いていったものなのかも不明。邪魔だと思った市民がその椅子を動かそうとしたが椅子はびくとも動かないと言う。他に動かそうとした市民は「触れることが出来なかった」「するりと通りぬけてしまった」「途端に触れる気が失せた」など様々な理由で椅子を動かせなかったと述べるのだ。気味悪がった公園の管理者が椅子の周囲を立ち入り禁止にしてしまった。
椅子の周りにはテープが設置され、椅子自体もベニヤ板の小屋を作り囲われてしまった。それからは怖いもの見たさでその椅子を囲った小屋を市民が観にくると言う。
動かない椅子の噂はたちまちに広まってついにはコンラッドの耳にも届いた。コンラッド自身も小屋の中に入って試したが、その椅子の前に立つと途端に自分が座って良いものではないと確信するのだ。触れると途端に意識が遠のいた気がして力が入らない。動かないと言うより、自分の腕が動かなくなるような感覚であった。
その現象、それ自体も不思議だったが、それ以上にコンラッドの頭を悩ませたのはゼフを呼んだほうがいいという謎の直観。ゼフは非常に疑り深く、もしこれが敵の罠の可能性でもあればコンラッドといえど処刑しかねない。この直観をもとに報告するのは勇気がいった。
結局のところこの親衛隊長は2日以上悩んで、ついにゼフに話を切り出すことにしたのだった。
最初訝しんだゼフではあったが、コンラッドの胸にある勲章。角突き髑髏。悪魔派のシンボルが描かれた勲章をみて自身が領主になる切っ掛けのアイテムを手に入れたことを思い出していた。
鉄槌。身体の中から鉄槌を出して眺める。妙な胸騒ぎがした。その椅子、ヴィジョナリーに関係しているものかもしれない。
時たまに脳裏に浮かんでは直ぐに消えていくイメージ。時には文章でもあったが。
ヴィジョナリーと言うものがあった。恐らく領主のことだが… それが実際に何を意味しているのはゼフにはわからなかった。
「俺が確かめよう」そう言って自らの名を冠する公園に向かう。小屋を見た瞬間に、これが罠で自分はこのコヤに設置された爆弾で殺害されるのでは、とイメージが湧いた。体が固まり、小屋の前で立ち止まる。恐ろしい可能性のイメージを頭を振って振り解き小屋の中に足を踏み入れると、なるほど確かに不思議な椅子がぽつんとあった。
シンプルなデザインだが、これ以上ないほどの風格があった。椅子の前に歩いていき、ただ何も考えずにその椅子に腰を降ろした。そうするのが当然だと、気づいた時にはそうしていたのだ。木製のようだが、本当にただの木材で作られたのかも分からない椅子。座るとこれ以上ないほどしっくりとくる。己のために存在している、生まれた椅子なのだとゼフが思うほどだった。
座りながら深く呼吸を吐くと椅子から地面に波紋のように大きなマナが広がっていき、広場一帯に龍脈のように流れ始めた。すると大きな円卓の一部が出現、ケーキを取り分けられたように、円卓の自分の椅子の前の部分だけが実体化し、それ以外は半透明で実体化していないようだった。
目の前の卓上にはカードの束。勝手に、そして自然にゼフの体が動き山札から2枚カードをドローした。ゼフがカードを裏返して見る。
「悪魔」と「塔」
>>運命のカード。ヴィジョナリーの個性化を助ける。
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暗黒教団 本流 首都 Sinシティ 万魔殿
堕天主の間
破壊の後が痛々しく残る、万魔殿本棟の最奥にてノートン ヒューズ ウォーカーが息を呑んだ。
暗黒教団の教祖レイの死体。無惨に嬲り殺され、壁に張り付けにされていた。
立ち眩みがする。救急車でも呼びたい気分だった。もちろんそんなものはないのだが… 今にも膝から崩れ落ちてしまいそうなフラフラとした足取りで堕天主の死体に近づいて行くと違和感。レイの身体がおかしい……
なんだ、この肉体は。少し人間とは違う。ほんの僅かだが、質感が違う気がするのだ。死体の持つ空気感は何処となくだがマリオット。人形のようだった。
嫌な予感がした。何か見覚えのある質感。そうだ、コレらは壊してから何か違う物になっていたと、元々の生き物とは違う存在になっていたのだとようやく気づくのだ。
生物の存在を変質させる力。心当たりがある能力…… 冷汗が一気に噴き出す。
「あいつが、ヤツが生きていて本流に乗り込んできて堕天主を殺した?」
殺したはずの男の幻影が脳裏にまとわりついてくるようにチラついて消えない。何とかギリギリで倒したはずだった。今まで相対して最も強いと思った相手。
そうだ、あの魔女は転移の魔法も使える。あの女、あのアバズレがあの時何かした? 可能性は十分ある。やつが生きていて教団を付け狙っているならマズイ。姿を隠す能力に生き物を見分けのつかない人形に変える力。
それらを操る力と自信に勝るとも劣らない近接戦闘能力。
以前戦った時、己のアンデッドたちも、どの個体から奴の人形にされていくのか見分けるのが難しかった。仲間のネフィリムの死体でさえ、突如自分に襲い掛かって来た。死にものぐるいで戦ってどうにか倒したと思っていたが。
いや、考えないようにしていたのだ… その可能性を。奴を倒せていないと言う可能性を。
もしヤツが生きていたなら俺と同じように奴も成長しているはず。もう同じ手口は通用しないだろう。実際に魔女がそうだった。
ポケットの中の端末を取り出し万魔殿本棟エントランスにいるはずのコルトンとマンフリードに発信。警戒するように伝える。このパンデモニウムに奴がいるかもしれない。
***
---仕立て屋の爺
シン・シティ郊外 店が立ち並ぶストリート。
フィッシュアンドチップスの店のキッチン。
どどど、どうしよう。
自分でもびっくりするほど早く羽化出来ちゃった…… ヤバい鬼みたいな奴が来て殺されそうになっちゃったから、抵抗したけどなんとか撃退成功。退治出来たぁ……
それにしてもアイツが…… あの人形使いの男がここまで来てるなんて、心臓飛び出るかと思ったぁ。
僕もジジイだし、うまい事機転を利かせて騙してやったけど… はぁ……
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仕立て屋の爺
型 トリックスター
サブ 大噓つき
技能:悪魔の球技2・0
(リュック型アイテムに改造されたアロンソの像の力)
―生物を捕獲、閉じ込めた生物を暴走状態にして開放。
―解放した生き物が攻撃に向かう対象を誘導可能
騙し絵: 自身がイメージした嘘の映像を対象に張り付ける。
偽善は悪の隠れ蓑:無害な無生物に一定時間成りすます、動くと偽装は解ける。
おもちゃのスコップ: 固い地面でも楽に穴を掘れる。
粘土遊び: イメージするだけで物質を粘土のように成形。
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兎に角、僕は子供の頃からあんまり遊んでもらえない子だったし、そのまま爺になっちゃったし…… だから、この新しい世界ではいっぱいいっぱい遊んでやるんだ! そのためにも頑張らなきゃ…
空のボールはあと4つあるから…… 黒鼠の群れと黒い鮫と出来ればイナゴも欲しぃ……
ヒト型エイリアンとか強力な魔物も、他にもいろいろ欲しいけどエドと会えないとアロンソの力をパワーアップ出来ないぃ。パンデモニウムにはもう居なかったし、どうしよう……
でも、でも。
ピンチはもう切り抜けたし、次は何して遊ぼうかなぁ。また今回みたいにヤバい奴らに見つからないように、気を付けて遊ばないと……




