5話 ジャン・スタンレーの事情
グリムシティ
深淵教会。髑髏に黒い翼のマークがドアや建物に刻印されていた。
セレンから聞いていた教会。この危険極まりない無法の街で何の落書きもされず、まるで教会のある場所辺り一帯ではこの街の犯罪者どもも大人しく注意を払っているようだった。
そんな教会の懺悔室に懐かしい顔。
スタン…
マチルダの護衛に推薦してくれた試験官だった。スタンと名乗っていたが、ここではこの男はジャンスタンレーらしい。今は認識阻害で自分を認識できないし、それに俺の存在に気づいてもいない。そして気付かせる気もない。隠形を使い、懺悔室でのスタンの話を盗み聞く。
懺悔室ではスタンが悪魔派幹部マチルダに嫌疑を掛けて悪魔派の有能な人材を削ることに成功したこと。
さらにカルロ離反の手助けの話に続いていく。悪魔派と交戦中の異界の勢力「ANKH」と接点を持ったこと。今は協力者としてその勢力の幹部らしき男の依頼された。男は恐らくスタンと同じようなスパイで悪魔派に潜入していた。しかし行方不明になってしまい異界の勢力が捜索していること。重要人物らしい。
ANKHのトップは気の強そうな女。もしくはその女は意思決定に関わるレベルの幹部。アインが悪魔派を裏切りANKHの為に働いている。という報告を懺悔室の中で教会の神父にしているところだった。神父の方はスタンよりも霊量が低そうだった。スタンの様子からもただの情報の受け取り手だろうと思った。
それにしても……
こいつスパイだったのか。そしてANKHと接触までしている。
エレーニとアインに俺の捜索を依頼されて俺をANKHの悪魔派に潜入していた幹部だと思っている。
スタンの報告には気になる単語もあった。怨霊術師と、堕天主様。口ぶりからこの二人は彼より格上なのが伝わって来る。
ん、というか…
おいおい、怨霊術師ってまさか。この深淵教団という組織、暗黒教団の表向きの名のようだが、レゾやマケンナを殺した怨霊術師もこのカルト教団の幹部だったのか。そしてマチルダの死の原因も悪魔大統領にスタンも同じ教団。派閥が違うが俺からすれば同じだ。悪魔派にスパイしてたならこいつはアインが言っていた「本流」か「摩天楼派」のどちらかに所属していると言うことになる。摩天楼派は確か魔上人様とか言うのがトップのはず。本流はわからないが堕天主様とか言うのがトップなら、そう聞こえるし、スタンは本流の人間か?
教会の建物にあった特徴的なシンボル。
髑髏に黒い羽根、これも覚えておこう。
その後も報告を聞いていたかったが、それ以上の話はなくスタンはそそくさと教会から出ていく。
後をつけていく。と数分ほど歩いて一棟のビルの陰に入った。外壁の横に壊れひしゃげたコインロッカー。スタンがロッカーを無理やりこじ開けると中から鞄。服が入っている素早く着替え始めた。
旅人らしい服装からフード付きのパーカーと汚れたデニムに履き替えた、髪型まで変えるとガラリと印象が変わる、どこにでもいそうなアジア人の旅人の姿から街の労働者の若者のようになった。スパイ野郎は誰も周囲にいないことを確認してからまた歩きだす。
尾行していくと寂れた商店街のフェンスに囲まれた工事中のビルに入っていく。外からはわからなかったが近接するビルと繋がっている入口があり、そこから人気のない暗い廊下を進むと階段。下に降りて行くと駐車場。閑散とした駐車場に数台の車が置かれていた。
観察しているとスタンが車の一つに乗り込もうとした。ドアを開けて入ろうとするスパイ野郎に近づき左手指先から煌めく傀儡糸を出す。スタンの頭部に糸を刺そうとすると。
瞬間的にスタンの身体から霊気が膨れ上がり
爆発的速度で飛びのく。
「どこのどなたですか? チッ… 何の技かはわかりませんが、姿が酷くぼやけて見える…」
意識を極限までに集中し俺を認識しようとしながら問いかけて来る。
「御託はいい、さっさと屈服しろ。」
「……いやですよ、死んでください!」
言い終わる前にかかって来る。
カウンター気味に拳を叩きこもうとした時、前にも感じた違和感。触手槍で突きに行く。すると再度霊気がヤツの体内で攻撃に超反応するように爆発。こちらのカウンターにさらに合わせるようにカウンターの霊気を帯びた手刀を出してくる。
カウンターに特化した技か何か持っているな…右手でフェイントをかけてから、左手でヤツの脇腹に霊気の衝撃波を浴びせようとすると、またもやカウンター。出してきた霊気を纏った手刀を切り飛ばす。片手を手首から切り落とされながらも、もう一方の手で攻撃しに来たところをいなしどてっぱらに霊気を込めた掌底を入れる。
―ガハッ…
吹っ飛んだところに追い打ちをかけに行く。スタンがバク転するように足で地面を蹴り跳ね上がりながら逃走しようとする。が、そこには既にシャドウが待ち構えていた。口を大きく開き散弾が放たれる音が駐車場に響き渡った。スパイ野郎が霊気が込められた細かい多数の金属の玉を胴体にまともに喰らいその場に仰向けに倒れる。
頭を掴んで引き起こし、軽く手刀を当て霊気を流し込み意識を刈り取る。
煌めく傀儡糸を頭部に刺すと、意識がないのにも拘らずそれなりの抵抗。あの反応してくるような能力がまだ残っていたのかもしれない。霊気でスタンの体中を包み全身を浸食するように霊気を流していく。スタンの霊気の流れを停止させ一度仮死状態にまで持っていくと、スタンの精神が折れた。傀儡化成功。
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自走傀儡 スタン・リー・ジャン
型 武芸騎士
サブ スパイ
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さて、色々と聞きださせてもらおうか。
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ジャン・スタンレーことスタン・リー・ジャン。
暗黒教団本流所属ノートン・ヒューズ・ウォーカー配下
刺客 スパイ
最初ノートンの命により摩天楼派に潜り込んでいたがそこで魔上人にスパイの才を見出され、悪魔派に試験官として潜入することになる。火の夜のどさくさに紛れて、姿を消していた。その後はANKHや、摩天楼派の人員とも接触。
本流の影響下にあるグリムにまで報告のため戻って来ていた。
マチルダを嵌めたのもスタン。
この食わせ物の密偵が所有していた特別な車両に乗り込んで霧で視界不良な高速道路を進んでいく。
傀儡になったスタンが言うには霧が薄いところなら抜けていける特別な車両らしいが流石にニブルスまではいけない。グリムからSINシティにハイウェイを使って向かう。
途中で霧の中を突っ切るようにして進まなければいけない箇所がきた。飛行機でいうところの乱気流に入ったような感じか。霧の中では黒い靄に車体を叩かれた。車体が多少揺れる。スタンに車を走らせつつ情報を仕入れる。
分かったことは
・このハイウェイを使うといける場所はメイヘムとシン・シティ。ニブルスへは繋がっているポータルがある場所の近くまでは行ける。因みにシンシティが本流の首都らしい。
・スタンは元々アロンソという本流の幹部の部下。
アロンソは自身のコネを使い「小ネフィリム」となり異人街へいくが死亡。(まず間違いなく俺が倒した小さなネフィリムだろう)
アロンソが旅立った後はアロンソからの命令で本流の最高幹部ノートンの部下として活動していた。
・ノートンはアロンソからの紹介で加わった部下だと思っているが実はアロンソからのスパイ。
(こいつ、どれだけスパイしているんだ)
・アロンソが死亡の線が濃厚となり、結局今は本当にノートンの部下となっていること。
・「小ネフィリム」とは、ネフィリムになっている最中も
人間だったころ並みに意識を鮮明に残していられる。
極秘任務のために意識は鮮明であったほうがいいと判断したアロンソが
狂科学者エドに頼んで試作品を使用させてもらった。
ただし、副作用により小ネフィリムはより個性の成長がランダムになる。
・「小ネフィリム化の薬」本流トップの教祖「堕天主」の下で働く「狂科学者エド」
の開発した極秘の新製品。
今のところ使ったのはアロンソと、怨霊術師のみ。
スタンはアロンソからノートンへスパイとして送り込まれ、ノートンから摩天楼派にスパイ、摩天楼派から悪魔派にと転々としていた。こいつどれだけスパイしているんだ。
超スパイ野郎を傀儡としたおかげか次々と情報が集まってきたが…
車窓の外では霧が濃くなりつつあった。また霧を乱気流のように抜けなければならないかもしれない、そう思った時。車に近づいてきた靄がより鮮明な人型に変わっていく。違和感を覚えた… 普通の霧の中の黒い人のような何かではない。何かが違う、何が違う?この靄、煙みたいだ。霧でなくて煙?
人型の靄が5つに分裂した。5つのヒト型の靄が時速150キロ以上出している車に並走しだす。
-おい、どういうことだ。 こいつらは?
「ワカリマセン… ゴメンナサイ。」
この道を何度か通ってきている、スタンも知らない何か。いきなり車両が浮き上がりひっくり返された。車両が横転し転がっていく。すぐに内側から窓を破壊し飛びだす。スタンを車から引っ張り出しいくつかの指令と思念を持たせてここから逃がす。
全速で駆けていくスタンを、煙のような人間。煙人が追いかける。霊気崩壊の気を込めたハルバートをソレに投擲。
思いのほかダメージを受けたようで痛みをこらえているような動きをしながら、霧散。残った煙が他の煙人たちに合流し煙人は4体になった。
「まったく、ここは霧が薄いからまだ戦えそうだが…」
それにこいつら霧に潜む黒いものとは別物だ。新手の能力者か?
4体の煙人たちが時計回りに動きながら俺を囲んでいく。互いに散歩をするような速さで、足を動かしていく。それはサメが獲物に食らいつく前に周回するようでもあり、大型のネコ科の獣が互いに本気で争うか、確認していくようなそぶりでぐるぐると睨みあう時のようでもあった。
ふと煙人が一斉に動き出そうとするが方向がそれぞれ間違っている。俺を正確に認識し続けられていないらしい。割と愉快だった。隠者の咎の効果か。呪いのようなもんだが… こういう時は悪くないな。俺と敵対するならお前も呪いを味わっとけ。
煙人達は、やり合う気が無くなったのか頭をかしげている。その後、一体の煙人が頭をかくようなそぶりを見せて
息を大きく吸い込むような動作をすると全ての煙人が人型でなくなり煙状になって霧の向こうへ消えていく。
霧の中から声が聞こえた。
-もうちっと楽な仕事かと思ったが、思いのほか…
いや、というかお前ターゲットじゃなさそうなんだよな。
おい今回は見逃してやるよ。クソ野郎。
「誰だ、お前?」
-あー、取りあえず敵じゃない。それとお前こそ誰だ。
あの取り逃がした奴、あのアジア人を捕まえたかったんだが…
お前、あれとどういう関係だ?
お前の勢力はどこだ? 深淵教団じゃなそうだが。
「まず、お前の勢力を名乗ったらどうだ?」
-そりゃできない相談だよ、交渉決裂だな。
そういうわけだから。じゃあまた何処かでな。
「二度と俺の車を壊すなよ? 」
-クク、うるせぇ。あの車はあのアジア人が誰かさんから盗んだ物だよ。
お前のじゃねぇ。それに…
まぁいい、俺はいつも通りだ。オレは好きなようにやる。あばよ、クソ野郎。
最後にそう言って煙人の気配が消えた。
薄い霧に包まれた高速に残された。今まで霧がもっと濃かったはず。あの煙野郎、霧をもっと濃く見せかけられるのか? 今は視界は200mほど十分濃霧だが動ける。もうスタンはかなり遠いところまで行ってしまっただろう。
エレーニたちのところへ上手く戻ってくれるといいが…
溜息を一つついて切り替える。
さて、まずはこのハイウェイから霧がないエリアに出ないと…




