2話 レゾの勇気・明るい夜の丘
黒い雨がぼたぼたと街に降る。
街路樹も心なしか嫌そうにしている気がするが、気のせいかもしれない。
兎角体調が優れない。頭がぼうっとする。
新しいレインコートを頭から
すっぽりと被って歩く。
黒い雨を良く弾く艶々した雨合羽。
幻視に導かれながら街を歩いていくと
叫び声や鳴き声のような音が外にまで響いているトンネルが見つかった。
そこに入る。
トンネルは暗く、いくつかの
オレンジ色のトンネルの照明が申し訳程度に明滅していた。
誰かの声。すすり泣く声。
ダレカ ダレカタスケテ
オネガイダカラタスケヨ
トンネルの奥で男が泣いていた。
灰色の髪。少し背が高い。
オールバックにしていた髪は無造作に放り出され、余裕の無い表情。
男の体中に泥だらけの死人の顔や手が張り付いていた。
頭や腕、関節にマケンナと同じように鉄の杭が打ち込まれていた。
前に立つと男も立ち上がる。
最後に会った時と同じように血の涙を流していた。
「お前も俺を裁きに来たのか? 勘弁してくれよ…」
「俺も?」
「どうやって黒い雨の中、平然としてられるんだよ!」
「コバがやってくれた。宝具の種を受け取って維持・保存系統の能力者だったコバヤシが自ら宝具型自走傀儡になってくれた。」
「何を言ってるいるのか全然わからない!」
「そのまま休んでいても良かったが、欲しいものを得るときは大胆にだ。
俺の記憶にはないが経験則にはそれがあった。」
「だ、か、ら! 何を言っているのかわからない!」
―お前を倒してこの黒い雨を止めに来た。
レゾは、泣きながら笑う。
可笑しくてたまらないというように。
男の周りの泥にまみれた死者がレゾの頭を小突くと笑い、噛みつくと泣き出す。
演技をしろ! と脅されているかのように。
「その亡者たちに逆に支配されたのか?」
「亡者? どこにそんなものがいる? この街ノ支配者はオレダ!」
「お前に引っ付いているだろ。まるでお前のことを虐めているようにふるまっている。」
―虐められるのはオマエダ
頭上から聞き取りにくい声。
背後と真上から泥だらけの亡者が掴みかかって来る。
拳で薙ぎ払うとはじけ飛んでいくが、霊気の消費が馬鹿にならない。
泥の亡者を避けながらレゾに問う。
「ポータルの場所を教えろ、まだいくつかあるはずだ。」
ームリダヨ、ボクオドサレテテ
「どうにかしろ。この雨が無限じゃないこと、
お前自身が出現させているのではないことはわかる。」
ーイキテテモ、イジメラレテ シンデモ シシャニイジメラレテ
モウイヤナンダヨ!
「なら反抗しろ! 勇気を出せ!」
ーダセナイカラ コウナッタンダ!
ドレダケ コワクテ クルシンダトオモウ!
クルシインダヨ!
「お前ならできる。痛みを受け取ったとき、お前は勇気をもう支払っているから。」
ウルサイ!ウルサイ!そんなの嘘だ!
「今も、痛みに向き合ってる、今、お前はもう勇気を支払ってるんだ。多分!」
ー多分ッテ適当ジャナイカ! コノバカ、ウルサインダヨ!
クルシイヨ、オマエが! 助けてよ!
……デモ、デモ!
「死者や亡者の街は一つじゃない、あとポータルは多分復活する! 俺を殺しても意味ない、が俺を触媒にしてこの怨霊たちはこの街を逆に黒く染めた! 俺を殺せ!
ポータルはもう一個の交差点、『高速道路付近のスーパーマーケット』だ!
それと他に言わなきゃいけ…」
泥死人がレゾの首を呪い殺さんばかりの形相で締め付ける。
右手の人差し指をレゾの上半身に向ける。
レゾが今やれ、と言うように手で自分を撃てようなジェスチャーをした。
ポツポツと霊気が指先にたまっていく。
レゾが一瞬こちらをみて、安らかな笑顔を見せた。
最後にレゾは透明な涙を流しながら親指を立てた。
レゾが背負っている怨霊もその他の物も全て消し飛ばすつもりで霊気を込めた。
自分でも込めた事のないようなレベルの霊気がビー玉大に凝縮され指先に灯る。
…霊弾。
レゾの腰から上半分と纏わりついていた死人が一瞬で蒸発した。
周囲から黒い瘴気のようなものが晴れていく。
散らばっていた泥も溶けて消えていった。
レゾの指先のほうから残留思念らしきものが出ていく。
---幻視
ダイイングメッセージ 怨霊使い
マケンナに気をつけろ
オレトオナジ
レゾと同じ? 怨霊使い?
どういうことだ? マケンナ?
「マケンナやマチルダと合流しろ。」
レインコートの宝具型傀儡を脱いで姿を変えさせる。
それは黒いテンに姿を変えてトンネルの外へと駆けて行った。
夕暮れ時、黄金色の街並みがトンネルの出口の向こうに見える。
お天気雨が黒い泥の日の終わりを告げているようだった。
@@@
レゾが教えてくれた場所に向かう。
ハイウェイ手前の坂を上がったところにある
交差点の商業区画の交差点にある高級路線のスーパーマーケット。
カーディーラーにベーカリー。
雰囲気の良いカフェに囲まれるように駐車場があった。
その横に隣接してスーパーの店舗は高床式住宅のように建っている。
1階部分が柱に支えられ地面から浮いており、その部分が駐車場に。
階段から2階にあがると店舗入り口がある。
スーパーの真下の1階駐車場の柱近くにポータルはあった。
ポータルは見つけたが…
何処に繋がっているか。
一度アジトに戻ってもいいが。どうするか。
焦らずに戻って一度休んだほうが良いかも知れない。
その時カツンカツンという足音が聞こえて来た。
酷く間延びした音に聞こえた。
少しスローモーションがかかっているかのように
ゆっくりとした足音。
駐車場の外から蔭になる場所に何者かが入って来た。
誰だ?
目を細めるが逆光で良く見えない。
かろうじてスーツにハットにステッキを持った老人なのが分かる程度。
スリムで姿勢が良い。身長は同じくらいだろうか。
顔が見えない。
昔、何処かで見たような……
男はゆっくりと近づいて来る。
ステッキをこちらに向けられる。何かが起こりそうな気がした。
瞬間。
何処かへと吹き飛ばされた。
世界が反転する。
空間が渦巻き始める。灰色から白、青、緑、紫
風や空気に色が付いたみたいに轟轟と変化する。
気が付くと何処かの荒廃しきった街の上空。
街が小さい……
風が自分に吹き付けて来る感覚。
今高度何mなんだ? 空を飛ぶ能力など持っていない。
落下している!
真下にある街の大地にはぽっかりと開いた穴。
恐ろしく大きい穴。
100m以上あるような大穴が口を開けて待っているかのようだった。
強制テレポート…
仕立て屋の地下のポータルで見た穴を思い出した。
あれと同じだ。大地の下の世界。
あそこで巨大な目に見られたことを思い出した。
落下しながら槍を投擲、穴の縁に引っ掛けて傀儡糸で手繰り寄せる。
瞬間、糸が切れる。
穴に落っこちていく。槍をどうにか引き戻す。
「おぉぉぉぉぉ!」
穴を通り過ぎて落下していく間に建物。
城のようなものが雲の中に見えた。
それを通り過ぎるときに再度槍を投げる。
城の外壁に弾かれる。
槍は手元まで勝手に戻って来た。同時に
落下していた体が球体のオーラに包まれてふわりと浮いた。
緩慢な速度になる。シャボン玉か何かのように。
いつの間にか手元に何か握っていた。
何だカードの札? 光がやたらと反射してちらつくカードデッキ。
幻視ーーー
2枚 ドロー
2枚ドロー?
訳も分からずに2枚の札を取る。
「THE FOOL」「THE STAR」
愚者と星……
これに何の意味があるんだ。
今度は体からANKHが出てきて
カードはANKHの中に入っていった。
大地は既に大分近くなっていたが、この速度からなら死にはしない。
シャボン玉のような霊気の膜は最後まで安全に地面に送り届けてくれて
大地に触れると消えた。
安心して胸を撫でおろす。死ぬかと思った。
辺りを見渡すといつの間にか夜になっていた。
月明かりが異様なほど明るく、夜なのに辺りが昼の様に一望できる。
緑以外何もない丘陵地帯だ。
一本だけぽつんと立っている広葉樹の下にいた。
どこだ、ここは…
ずっと向こうにフェンスに囲まれた一軒家。
仕方なく明るい夜の丘を歩きはじめる。
カードがANKHと共に体に入って来てから体内の霊気が熱を帯びている。
深い成長の感覚。だが体の負担が大きい…
何処かで休まないと。
ジョン・スミス
型 霊仙 レベル3 (愚者/星)
サブ 傀儡師
霊仙の呼吸 三略 六韜 白蓮 霊質変化
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