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ダブルサイココライド2 ―Saga Of Hermitー  作者: KJK
5章 傀儡師と泣き止まない雨の街
23/111

3話 


バーには先客がいた。

この店に客がいるのを初めて見たな…


ふいに窓に横殴りの雨が叩きつけられた。豪雨だった。

窓ガラスを伝う雨は墨のように黒い。


ケンナは夜は外に出るなと言っていた…

さっきの車で突っ込んできた男も死者だろう。

陽が沈むと死者が狂暴になるとか? よくわからない。

黒い雨はヤバい。とも言っていた気がする…

雨宿りしてやり過ごすか。


カウンターにあったメニューを手に取って

コバヤシと男両方が見える位置に座る。


背の高い、グレーの髪を後ろに流している。オールバックの男。

やせ型で気の良さそうな表情を作ったように浮かべているが、

顔に刻み込まれている深いしわが対照的だった。

悲しそうな顔で手元のコーヒ―カップに視線を落としている。


チラッと観察していると目が合った。

目を少し逸らす。とあちらから話しかけて来た。


「別に、怪しいもんじゃないよ…」

「何が?」

「あ?」

……


「いや、失敬。 失礼だったね、馬鹿みたいだろ? 僕ってドジだから。」


……


「もしかして警戒してる? 僕は人間だよ、君もだろ? この街では数少ないからね。」

「人間だと、どうしてわかるんですか?」

「目を見りゃわかるけどね。そうじゃなけりゃ意識の鮮明さだったり、受け答えがスムーズなところとかだよ。魂の感じでもね。」

「会話の具合とか?」

「僕も人間だ。君もだろ? 何となくわかるんだ。」

「なるほど。」

「僕も人間だ、受け答えとかでわかるんだよ。意識の鮮明さや、受け答えがスムーズなところとかだよ。」


……


ニヤッと男が笑って立ち上がる。

両手を広げて


「冗談! ねぇ、びっくりした?」

「何に?」

「ほら、ちょっと怪しい感じで繰り返したじゃない?」

「何に?」

「ん? だから、もしかして人間じゃないんじゃないかって感じでさ。」

「何に?」

「あ、あ! これもしかしてやり返してる? ハハハ、それ最高。 間違いなく人間だ!」


灰色の髪の男はクックックとさも可笑しそうに笑う。

コバヤシがコーヒーを運んできた。

礼を言うと先客の男がそれを見て、霊に礼を言うなんてイカシてるよ!

そっか人間じゃないものにも感謝するんだ…


「あ、俺もそうしよ! ありがとう!」


とコバヤシに礼をいって

ついでに、プロシュートのバゲットサンドを頼んだ。

満面の笑みで、いやぁそれ頂きだよ! サイコー!

と呟いている。


窓に降りかかる黒い雨を眺めながら、俺もパンプキンスープを注文した。

店の中は全体的に暗い木目のインテリアで構成されていて

そこに申し訳程度のランプの光源がある。


雰囲気は営業後と言っても疑わないほど静かであった。

お互いに黙り込み、かなり長い間静かにコーヒーを飲んでいた。

どの位時間が経っただろうかという時。先客が口を開いた。

雨は未だに降り続いている。



「一つ聞いていいかな?」

「ええ、いいですよ。」

「この街でせっかく人間に会えたと思うんだけど、あまり俺と仲良くなりたくない感じ?」

「確かにお互い自己紹介してないですね。」

「そうそう! ちょっと不自然だったよね?」


では改めまして!

と勢いよく立ち上がった男は

たたずまいを直して雰囲気を変えた。


暗い表情になったと思うと、今度は

目が真っ赤に充血して血の涙を流しはじめた。


男の背後の窓から稲光。

雷鳴がとどろいた、近くに落ちたようだった。



―俺の名はレゾ、生霊のレゾだ。赤目のレゾでもいいさ。 オレハ生きながらにして死んでいる…

だからこの街でも生きていける、死んではいない、だからすべてが鮮明なまま。

ケンナのアジトにいるらしいな。

あそこならお前を守れるかもしれない、この街から…


―ケンナはいい奴だった。俺達、仲間で。

一緒に死霊とか、悪い奴らと戦ったりして…

チームも組んで… でも、お前の所にはもう彼女は来ない…


「どういうことだ?」

「お前には関係ないことだよ、よそ者君。」



―忠告しておいてやる、ここではやたらに殺さないことだな。

夜が来なくとも、黒い雨や風がひどくなるぞ…


もう何人殺した? さっきもやったろう?

お前がまるで虫けらのように殺した運転手…

あぁ、可哀そうに…

おぉ! 哀れな霊よ! こんなむごい仕打ちを神が許すのか!

ひどい、こんなひどいことを…

やり返してやらなきゃな…

絶対に…


絶対にやり返してやらなきゃ…


気づいたんだ。

俺はいじめられてたから、親とか、近所の子供たちにとかさ。だから自分が

人を虐めてやりたいって思うようになった、でもいじめっ子を虐めるのはしなかったんだ。怖いし、

自分より弱い奴だけ見つけては虐めてた…

だって俺がされたのはソレなんだよ。

俺の親がやっていたことも、いじめっ子たちがやっていたことも…



でも。少なくとも虐める側になった。

きっと俺の親もそうされてたんだよ、だけど…

俺はいじめっ子大嫌いなんだよ…

アイツらと同じなんて耐えられない…


こんな事間違っているだろ?

嫌なことをされたら、それをできそうなやつを見つけてやるのか?

まるで悪貨に駆逐される良貨。

他の玉に押しのけられたピンボールがその勢いで俺も誰かを押しのけてやる! みたいにさ。

くだらない。強い奴や、重い奴はいいけどさ。


俺は曲がったことが嫌いだった。

筋が通らないことが嫌いなんだ。

苦しいことも嫌いだ!

惨めに生きることも嫌だ!



強い弱いに関係なく、やらなきゃ。

生きている奴は全員問答無用で苦しませなくちゃ…

そうじゃなきゃダメだろ?

虐める側に回ってちゃやり返せないじゃないか!

俺を虐めたやつらにやり返せなきゃダメだろ?


だから気づけたんだ。

世界が悪いんだって。そのほうが…

ほら、筋が通っているだろ?

恨めばいいんだ、生きてる奴ら。強い弱い関係なくさ。

一方的に…


恨んで…


恨んで…


恨んで、


復讐心に火をつけて血の涙を流せば…

生霊となれば…

死者に限りなく近くなれば…


殺されようが、負けようが永遠に恨んでいじめる側でいられるだろ?

そうすりゃ虐める側も虐めてやれるだろ?


相手を選ばなくてもいいんだよ!


最高だろ?

死んだら負けだなんて馬鹿らしい!

死んだもの勝ちだよ!

恨んだもの勝ちだ。



「皆で?」

「……」


レゾが押し黙る。

コバヤシが料理を運んできた。


男の雰囲気が戻り、落ち着いた声色で

「ちょっと、しゃべり過ぎだ。反省だ。」


男はテイクアウトにするよ、ごめんね。

とコバヤシに頼み持ち帰り用の容器に入ったサンドウィッチと共に去っていった。

去り際にいくつかの言葉を残して。


―この街は死者や亡者が仕切る。

どんなに強くとも関係ない。生きているだけで劣った存在だということを知れ。


生きとし生ける全てのものに、苦しみのあらんことを。




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