1話
メイヘムシティ燃ゆる。
にわかに広大な庭園が騒がしくなる。
屋敷の庭園前の半分ほど屋外になっている座敷。この街の支配者の座る奥の間から
爆発。天井、壁が大出量の霊気の爆発により破壊され轟音が鳴り響いた。
漆黒の炎が蛇のように長い腕の形に変化し
屋敷を崩壊させるように暴れ狂った。屋敷の中にいる人間は巻き添えを喰らい
次々と潰され、焼き尽くされていく。
中に鈍い光を内包する暗い火は文字通り光を喰らう火のように見えた。
___________明け方
火の夜が中断され放棄された屋敷。
明け方、もぬけの殻と化した会場。
焼け落ちた屋敷にはまだところどころ、暗い火が残っている。
獏が鈴のような声を出す。会場を奇妙な足音を響かせながら歩いていく。
眼には笑みを浮かべている。
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「John Smith」
ポータルを起動する。
視界が白に染まり、何も見えなくなる。
一瞬意識が真っ暗になり途切れ、再度接続され直したような感覚。
ガクンと首が縦に揺れたのと同時に意識が戻った。
段々と周囲が鮮明になっていく。
どこだ?
頬に何か当たった。
雨粒。
どんよりとした空から雨が降っていた。まるで灰色の夕方。
店が立ち並ぶ交差点。信号機の前にバーがあり、その近くには小物屋。
ポータルの向こうは見覚えのある景色。
でも何処で見たのかは俺には思い出せなかった。
背後を振り返ると後ろにあった
ポータルがボロボロと朽ちて消えてなくなった。
人通りはない。何処かの街。
ポケットからハンカチに隠したマチルダを取り出す。
あの時まず死んでしまうと思って咄嗟に傀儡化した。
彼女の身体は酷く損傷していた。
ここらの店が共同で使っているのであろうゴミ箱が並ぶ脇道に入る。
他の傀儡のパーツも使って修復し始める。
雨が降っていた。先ほどよりも雨足が強い。
ゴミ箱の前、上着を脱いで地面に敷きマチルダを寝かせる。
上手く直してあげないと…
そのことばかりが頭にあった。
うす暗い雨の街。
かろうじて色があるような暗い場所だった。
マチルダの為のパーツが上手く作れない…
もどかしくて息が詰まりそうだった。
一息入れるようにゴミ箱に背を預ける。
目を閉じて深呼吸する。数分ほど、じっとそうしていた。
ふと、何気なく右手からANKHを出す。
ANKHに暗い紫色の煙のようなものが纏わりついていた。
--幻視
夢魔の煙
それが何なのかすらどうでも良かった。これを俺につけた術者ごと殺すつもりで
霊気崩壊の念を込めてANKHからそれを打ち払う。
暗い紫の煙は立ちどころに霧散した。
何か少しだけ楽になった感覚。
肩を撫でおろし、ほっと一息つくが相変わらず頭は重い。
マチルダの修復作業を再開する、が捗らない。
ゴミ箱にびしょ濡れの上着を放り込んで
マチルダをハンカチにしまって街をうろつく。
信号機の近くの小物屋の隣に服屋が見えた。
閉まっているがどうでもいい。入る。
力を少し入れると鍵が壊れドアは簡単に開いた。
代わりの服やレインコートを物色していると店の入り口に
オフィスワーカー風の男。
顔を地面に向けながら喋りだす。
「あのー、何やってるんですか?」
「何も…」
「勝手にこの店に入ってませんでしたか?」
答えようとしたとき、男の頭が吹き飛んだ。
倒れた男の後ろ。入口のドアの外に
見たことのないような形の銃を持った女が立っていた。
緑色のブレイズヘアの褐色の女。
整った顔立ちと意志の強そうな目に眼鏡が良く似合っていた。
「死者と会話しないほうがいい、アンタは人間ね?」
「ああ…」
女が死体を蹴り上げるとふわりと風船のように浮いて少しずつ、空中に散っていく。
「こいつらは死者、多分。こうやって霊気で衝撃を与えていくとどんどん散っていなくなる。」
「この男は人間じゃない?」
「さぁ、元は人間かも。でもわかんない。あたしのダウンロードによれば昔生きてた何か。人間じゃない場合だってある。」
「生きていた何か?」
「詳しくはわかんないよ。それよりついてきて、因みにあたしはマケンナ。アイルランド系アフリカンアメリカンでスーパー霊媒師のケンナよ。」
「俺は、ジョン。 ジョン・スミス。」
「ジョン・スミス? 偽名じゃないでしょうね? ま、別に構わない。誰しも秘密はあるからね。」
―もうすぐ夜になる。この街では夜は
外にいないほうがいい。ついて来て。
とだけ言ってマケンナが歩き出す。素早くレインコートを着て
土砂降りの中女の後ろをついていく。置いて行かれないように。
交差点の信号を渡り脇道に入る。
小さなビル。頑丈そうな鉄製の扉が取り付けられている。
ここが彼女のアジト、いや住処なのか。
ケンナがすごく大事なことだから、これを覚えて。と言って
#1扉にノックを激しく3回。
#2ノックを地面に3回。。
#3決まったリズムで左手で扉の横の壁をノック。
ここはパパッパパパだからね? このリズム口ずさんで覚えて。
#A これは特殊なやつ。チッ! 一度舌打ちして扉を右左に手の平でこする。
これを#1~#3の途中。何処かでわざと何か間違えた後でやること。
わざと入れるやり直しの為に使う部分ね。
そのあと最初に言ったとおりに1-3の手順をもう一度やる。
そして次が最後のパーツ。
#4最後に扉に向かって本当のような嘘を一つ言う。
嘘のような本当のことを言うのはダメ。
―何もいいことがないからね。
狼少年はどうなった?
嘘のように真実をいったからダメなのさ。
「あたしの銃。さっき使用した分で弾薬がもう底をついてしまった。」
扉の前でマケンナが言った。
さぁ、行って。
と彼女が言うと鉄の扉がひとりでに開く。
「いい? ここには人間はまずいない、騙されないように。もう一つ黒い雨が降ってたらここに避難すること、外に出ないこと。黒い雨はヤバいから。 それとアタシは用事がある、また戻って来るからここで落ち合おう。家の物は気にせず大体使ってていい。風呂でもベッドでも。いいね?」
そういってケンナは走っていった。
レンガ調の外壁の小さなビル。
扉の中に入ると狭い玄関に作業机や棚。ケンナのアジトの机の上には
ナイフや、缶詰、地図、テープレコーダー、ノートに銃と弾薬。
階段を上っていくと3階まであった。
1階は作業部屋を兼ねている玄関のフロア。
2階はキッチンとリビングとバスルーム。
3階はベッドルームだった。
大きな窓に雨がザアザアと打つ音が落ち着かせてくれた。
しばらくの間、窓を打つ水滴をぼうっと見ていた。
キッチンのポットが使えたので紅茶でもないか物色すると、ティーバッグを見つけた。
シンプルな白のマグカップを手に取って紅茶を入れる。
メイクイットハプン--Make it happen! とカップには書かれていた。
ソファに座って紅茶を飲む。
ただ、ボーっとしていた。
何時間たってもケンナは帰ってこなかったし、雨も止まなかった。
シャワーを浴びてその日は勝手に寝室で寝た。




