3話
スタンを残しマチルダについていく。
先ほどみたハンバーガー屋の前に来ると、
マチルダが店に入っていきすぐ左にある階段を下りていく。
地下にテーブル席とソファ席があるスペース。客は殆どいない。
後からこの店の客の殆どはマチルダの部下か息のかかった人間だと聞かされて知るのだが。
奥のほうにトイレと関係者用のドアが二つあり、関係者用のドアのカギを開ける。
扉を開けると薄汚れた白い壁と床。かなり長い廊下。
数十mも真っすぐに続いていた。
突き当りを曲がった先にいくつか部屋があった。
そのうちの一つに入るように促される。
「ここはあなたの専用のオフィスか何かですか?」
「そうだ、ここ以外にもあるが。大体ここにいるから覚えておいてくれ。
あとスタンより強いなら敬語じゃなくてもいいぞ。」
「そうなんですか?」
「ここでは強さが正義だ、いや正義はダメか。
まぁややこしいが強ければいいんだよ。実力主義という奴だ。
それと私がお前と個人的に契約するんであって、部下ってわけでもないからな。
仕事さえこなしてくれれば対等だ。」
「ややこしいところもあるが、そこはわかりやすいだろう? 」
とマチルダが言った。
「わかりやすいのは好きだ。気を遣わなくていいのも。
それで俺は何をすればいい? 何がもらえる?」
「うむ、お前の実力はもう一度おいおい確認する、仕事内容も3つ言うが
だがその前に、私が誰か知っているか?」
首を横に振る。
「別に構わん。私は教団悪魔派の幹部が一人。
悪魔女史マチルダだ。ここではない街『ニブルス』の顔役をやっている。
それ以外では悪魔派の粛清や人事も担当していたりする。
私の命が狙われることは良くある、特に今悪魔派は慌ただしい。
優秀な人材は皆血眼になって探している。」
「さてMR・スミス、あなたは私と専属契約を結ぶことになる。
悪魔派ではなく、私個人とね。
書類や確認事項は後で見ていこう。シンプルなものだから安心してくれ。」
「君の仕事はまず3つ。
1つ目、私の護衛。
2つ目、私の仕事の手伝い、
これは少しづつ覚えていけばいいし。仮に向いてないなら護衛に専念すればいい。
3つ目、私からの個人的な依頼。
そちらからの交渉は受け付ける。以上。」
「なるほど、報酬は?」
「私と契約するからには給与は心配しなくていい。
阿保みたいな贅沢は出来ないかもしれんが、他のどこよりもいい待遇と報酬を保証するよ。」
「そんなに資金があるのか?」
「色々あってね… 私は悪魔派でかなり上位の幹部だ。
それと悪魔派から派遣されてきた人材などの相次ぐ失態で様々な補償も得た。
まぁ、正直ポケットは潤っているよ。
さて、後は住まいと権限と権利だ。お前、今どこに住んでいるんだ?」
―まずい、えーと
「実はこの街に来たばっかりで、行く当てもあまりなかったんだ…」
「そうか、道理でな。ならいくつかの住宅を一緒に見て回ってやるから今日中に決めろ。
気に喰わなかったら後で替えればいい。」
「ああ、ありがとう。」
「教団が持っている住宅から選ばせてやるから家賃はいらんし。結構いい家が余ってるぞ。」
「それはありがたいね。」
「つづいて権限について説明する。」
「悪魔女史の契約者としてお前には査察権と審問権が与えられる。
ただししばらくは私に毎回確認してから行使しろ。」
「査察権と審問権…」
「2つとも強要出来る。ちなみに私と同格の幹部達と悪魔派の長であるMR・アドリエル様には当然使えない。それ以外のこの街の市民には大体行使できる。ただし横やりが入ったり、他の幹部が邪魔しだすと少しやっかいなことになる場合もある。だからこそ気をつけろよ。」
「査察内容は、裏切り者、他の派閥からのスパイの捕縛から、警察の真似事まで多岐にわたる。
審問権というのは我々の判断取り調べをして裁いてしまって良いということだ。その場で始末する必要があればする場合もあるが。そうでなければまた別の場所に送ることになる。悪魔派の街には審問所が必ず設置されているから、その場で戦闘にでもならない限りは審問所でシンプルな裁判を開いて終わらせる。スパイを見つけた場合は逮捕して他の部署に引き渡す。」
その後いくつか他の説明も聞いた後、
マチルダと家を見つけるために駅の近くの住宅地をいくつか回った。
4件ほど見て駅から徒歩15分ほどのところにある、広々とした一軒家に決めた。
今日はそのまま休んでいいとのことでまた明日マチルダのオフィスに行くことに。
申し分ない家だったが家の電気はついたり直ぐに消えたり。
埃っぽいので少し掃除もしておく。
掃除中にギターを見つけた。
何となく弾いてみる。
「チューニングが狂ってる、弦も錆びているし… 」
手に持った楽器が多少弾けること、ちょっとした知識も持ち合わせていること
に気が付いた。
「記憶を失う前の俺、ギター弾けたのか。」
何か弾こうにも余り上手く弾けない、でも多少セッション出来る程度
ではあるのが理解できた。少しだけ自分のことを知れた。
楽器を置いて紺のポンチョを羽織り外に出る。
適当に買い出しをして帰って来て飯を作って寝ることにした。
何となく知らせておいた方が良さそうなことを適当に紙に書いて
鳥型魔獣傀儡に持たせて、半傀儡にした男のところへもっていかせる。
半傀儡の男が自力で俺と出会ったところまで行って情報伝達などをするのか
確かめたい。
----内容
悪魔派 メイヘム 入 マチルダ 契約。
これでいいか。
電気のない家のベッドで寝転がる。
今後どうしていくべきか、幸い俺はそこそこ強いらしいが…
翌朝。
雇用主を向かいに行くと、
早速美人でナイスバディなカルト教団の幹部様に初任務を命じられた。
マチルダがテーブルの上に小さなバッジとカードを置きながら説明をする。
カードはデビットカードに似ているが職業と人材レベルなどというものが併記されていた。
バッジは銀色で小さな角が2本生えた髑髏が彫られている。
「このバッジとカードが身分証になる。こっちのもう一つのカードがお前の支払い用のカード。
教団の支配している街なら使えるからな。派閥が違っても大丈夫だ。」
「便利だな、助かる。」
「ジョン、今日からお前は私の護衛だ。スケジュールはあとで説明するが基本的に決まった時間ほぼ私のそばにいてもらう。その内仕事終わりも私の近くにいてもらうかもしれないが。まだいい。」
「それと今日は一時間後に軽く組み手をしてお前の実力を確認する。
それ以外は連絡がない限りは私の近くにいるか、私がオフィスにいる時なら
数百m以内にいてくれればいい。ここら辺は私の庭だからな。
それと数日以内に私の本拠地ニブルスに電車で向かう。
ニブルスは極寒の地だから覚悟しておけよ。」
「了解だ、マチルダ。」
「あれ? ちょっと待った、本拠地?」
「そうだ、私はここメイヘムとニブルスの2か所を行き来している。そして本拠はニブルスだ。」
「確かにそんなこといってたな、悪魔派っていくつの街を支配しているんだ?」
「7つだ。ニブルズはその中でも3番目に大きな町だ。メイヘムが2番。1番はヘル、MRアドリエルのおひざ元だ。」
「ここは?」
「ここは今はカルロが仕切っている。残忍で油断ならない奴だ、少し前まで私よりも序列も上だった、気をつけろ。」
「今は?」
「ああ、降格の瀬戸際だな。カルロと戦ったやつがな…」
何か言いかけたマチルダが、一瞬難しい顔をして。
いや、あとで説明するとだけ言った。
オフィスの外にいていいというので駅周りを軽く見て回る。
時間になり戻ると、またあのタウンハウスのような場所に連れていかれた。
俺の雇用主はスーツから兵士のようなTシャツとパンツに着替えている。
「一応スタンの阿保のようにケガしては元も子もないからな、お互いあまり本気でやらないようにするぞ?」
「ああ、ケガさせなければいいんだな?」
「まぁ、させられそうならだぞ?」
そういうとマチルダは風のように距離を詰めてきてジャブで牽制し始める。
軽く返すと少しづつスピードを上げ始めた。
躱し続けていると、驚いたように目を見開いた。
「もう少しスピードを上げるが、いけるか?」
「ああ、大丈夫だと思う。」
結構なスピードになって来たところで今までよりかなり速い一撃が来た。
「お前かなり…? 少し本気でいくぞ?」
そういうと腰から警棒を取り出すと棒の部分が伸びていき鞭のようになった。
コンクリートもたやすく破壊できそうなほどの鞭の攻撃が始まる。
何度かそれをいなしていると
終了のジェスチャーがでた。
「一発も当たらなかった… お前私よりだいぶ強くないか? いや強いのは感じてがここまで余裕だとは。私もスタンより強いんだが…」
「偶然だ。運が良かった。」
「変な謙遜の仕方だが。いいことだよ、ここでは実力が物を言う。期待しているし、ぜひ私の力になってくれ、報酬は出来る限り弾む。」
マチルダは嬉しそうに言った。
「ok、私からも合格ということでこれを渡しておく。これは他の教団兵に支給されてるものとは少し違うからな。まぁ、おいおい教えるよ。
これで私たちがあまりにも距離が離れてない限り連絡し合える。」
そういってマチルダに教団兵がもっていた黒い端末をもらう。
使い方はテキトーに教えてもらって、後は自分でも触って覚えろと言われた。
例の話は? と聞くと…
―あー、アレか…
機密なんだが、お前も私の相棒になるからな。
軽く説明すると、悪魔派の幹部の上位陣は殆ど死んだ。
どういうことだ?
軽く驚いてしまう。
―例の敵の男のいる土地、通称「異人街」に攻め込んだ幹部はアインとカルロのほかに2人いたんだ。コンラッドとアショクだ。
コンラッドは戻ってきたが、負傷。アショクは恐らく死亡。
カルロとアインも他の奴らを救おうとして、無理して出張ったからこういう結果となってしまった
などと言っているらしいが…
私は幹部としては序列5位だったんだが、今回カルロが失脚すると1位になるんだ。
コンラッドはナンバリングに入ってない。
元の序列で言えばアショクが元1位。アインが2位、カルロが3位だった。
色々あってもう序列1位まですぐそこだよ。
―ただ正直嫌な予感がする。
胸騒ぎがするんだ。
何か動乱の匂いのようなものが空気に混じっている感じがする。
お前も気を付けておくんだぞ、ジョン。
次の日も駅の近くで周辺を探索してると、
路地のほうに手招きしている傭兵と教団兵の二人組の男がいた。
何かと思って路地のほうへ歩いていくと、無言でついてこいとハンドサインを出し、
背を向けて歩き出す。怪しいな…
だが査察だか審問だかの練習にちょうどいいかもしれない。
えーとバッジを出してなんて言えばいいんだっけ…
歩いて行ってちょっと待て、と声をかけようとした瞬間
真横にいた教団兵が銃床で殴りかかって来た。
普通の人間よりもだいぶ速い。
避けるついでに掌底を脇腹に当て無力化する、もう一人の傭兵がナイフをこちらに向けるが
一息で距離を詰めて顎を拳で砕く。
2人とも泡を吹いて失神している。
なんだ、こいつら。マチルダの敵?
周囲に気を配りつつ端末を使い連絡。
「こちらジョン、駅の裏手で二人組に襲われたが無力化した。教団兵と傭兵の格好をしている。」
「よくやった。 周囲を確認しておいてくれ、5分後にそちらに向かう。」
伝えなくとも場所がわかっているようだ、そういう機能もあるのかこの端末。
怪しい奴らがいないか探す。
@@@
ほどなくしてマチルダが現れた。
「ジョン、よくやった。とりあえず拘束するぞ。」
警棒を取り出すと左手でさっと棒部分を手でなぞった。
すると棒の先が伸びて鞭のように変化。
それを2回高速で振るうと男たちの体に穴があく。
空いた穴にもう一度鞭をふるうと、鞭そのものが切り離され蛇のように素早く動いて穴を通り
体を締め上げた。
「これが私のスキルの一つだ。穴を通さないでも拘束できるが穴をあけてから蛇鞭を通せば拘束は完成する。」
「拘束は破れないってことか?」
「そういうわけでもないが、今のところ破れた奴はいないな。」
そういうと腰から銃の弾倉を取り出して、
鞭と化していた警棒のグリップエンドにマガジンを押し込むとそのままガシャリと入り、
持ち手の部分についている引き金らしきものの横の突起に親指をかけ引くと
警棒の棒の部分がガシャンと新たに生えた。
「おお、それなんなんだ?」
「私の武器の弾倉だ。拘束に2本分鞭を使用したからな。」
「外せる分、弾薬のように補充も必要ってことか。面白い武器だな。」
「この武器の格好良さがわかるのか!? さすがだな!」
彼女は興奮と嬉しさが混じったような表情で言った。
多少気分が良くなったマチルダが
男二人を取り調べのために連れていく。
「今回はオフィスに近いので私たちで運ぶが、普段は他のものに連絡して護送する。」
「わかった。」
取調室は全体がシャワー室のようになっており、乾いた血の跡が生々しく残されていた。
天井には肉屋のようなフックが取り付けられており、容疑者をそのフックを使って吊るす。
身体にフックの先端を突き刺して吊るすかのかと思ったが体を通っていた蛇の鞭がノット
部分を作りそこにフックを引っ掻けて吊るされた。
「悪趣味だろ? 私の趣味ではないけどね。今はそれどころではないが昔はこの街は
結構酷い支配のされ方だったんだ。それを全て教団以外のグループの仕業にして裏から支配しなおしたんだが…」
「誰の趣味なんだ?」
「ここの元顔役、でも悪魔派全体かな、色々尋問した後に掃除しやすいだけだ。」
「なるほど。」
―さて、これより取り調べを行う。
おい! さっさと起きろ!
目覚めつつあった男たちを鞭でさらに打つと体の穴にを通りながら
拘束していた蛇の動きが活発に。
内臓に入り込んで這いまわっては苦痛を与え始めた。
2人が恐ろしいほどの声量で叫ぶ。
「一度やめてやる、もし私に嘘をついたり、協力的でないと判断されたら今の苦しみを味わうことを理解しろ。」
そういって尋問は始まった。
蛇以外にもいろいろあったみたいだが、すぐに男たちは口を割った。
「アイン様に雇われたんだ! 本当だ! 頼むから信じて!」
「アイン? いつだ?」
「2週間くらい前に、だ。」
「アイン自らではないだろう?」
「ああ、だけど報酬を前払いでくれたし、その前にアイン様のところで活躍して成果を上げたから…」
「恐らくアインだと?」
「アインっていうのは…」
「ほら前に話した。私と同じ幹部だ。悪魔派幹部の一人、天才アイン。やつは任務に失敗して死んだはず。うぅむ…」
「なんの理由があって狙われているんだ? そいつに。」
「アインに狙われる覚えはないが、多くは敵対派閥からの刺客、もしくは監査部に自分の息のかかった人間に首を挿げ替えたい他の幹部からの襲撃。
あとは査察されたらまずいことをやってる連中。」
「違う派閥に通じていて悪魔派の監査部を支配したいやつとかもってことか。」
「肯定だ。だがアインは死んだはず。彼と行動していた他の幹部もそう証言している。」
「異人街住人に殺されたんだっけ。そんなに強いのか?」
「恐らくな、多くの仲間とエイリアンの軍勢を引き連れていた男にやられたと言っていた。恐ろしく強いらしい。」
「特徴は?」
「良く知らんよ、坊主に眼鏡だとか。大した情報がない。
まぁ仲間が多くいるらしいから、簡単には倒せないかもな。コートを着たエイリアンの仲間がいるとか…」
「カルロっていうのはこの街で療養しているのか?」
「ここメイヘムか、ニブルズのどちらかだろう。正確にはわからん。失敗の責任は取りたくないだろうしな、あまり目立たないようにしているはず。」
「そのアインが死ぬ前に襲撃を依頼していた?」
「アインが死ぬ前に私を襲う計画を立てるのは怪しい。スケープゴートにされただけだろう。
それに実際に狙われたのは私じゃなくて護衛だ。もう3人護衛が殺された。」
「良く護衛が狙われるなら最初に教えてほしかったけどな。 雇用主がアインの名を使っていただけ?」
「あ! すまん… スタンより強いなら問題ないと思って忘れていた!
恐らくそうだ。さてこいつらからもう少し聞き出せることがあるのか甚だ疑問だが。尋問はしたことあるか?」
「ない。」
「では私はオフィスに戻るから練習しておけ、何か聞き出せたらいいものやるからな。」
「了解。楽しみにしておくよ。」
マチルダが手を振って出て行く。
ふーっと息を一つ吐く。
男たちをフックから降ろして左手から煌めく糸を出す。
―さて、何か面白い情報でももらおうか。
俺も良いものは欲しいんでね。




