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ダブルサイココライド2 ―Saga Of Hermitー  作者: KJK
15章 Harvest Moon 収穫する世界の悪意 
107/111

107話「雲騎士と死神・3Faithと赤子鯨」

 


 死神が克服都市コンクエストを落とした。


 ==

 雲騎士 クライド・イングラム

 型:魔術師

 液体の呼吸 気体の呼吸 雲人化・雨人化 触媒作成 儀式魔法 毒魔術


 ==



「いやぁ、敵わない気がするなぁ……」


「おいおい、負ける気で勝負するやつがどこにいるんだ…… ったく」


 クライドがつづけて言って──


「ったく、ここにいるだろうが。俺は負ける気でも仕方なく勝負する奴だ」


 とさらに続けた時──


 クライド・イングラムの胴が二つに分かれた。


「──このくらいはなんてことないが、どうせまずいことになるぞ」


 クライドの上半身がそう呟きながら、神のような敵を見ていた。


「──押せ押せでこられたら怖いなぁ。どうにも、勝てる気がしない」


 下半身が液体に変わり、それが分かれた上半身に向い一呼吸の間に元通りになった。


 指紋面の男が歪に揺れ動く鎌を振った。


 一瞬で。クライドの体が細切れになった。百でも千でもなく、10万の肉片に変わったイングラムの肉体がさらに細かく水飛沫に変わり、指紋面がもう一度鎌を振ると、全ての飛沫が叩き切られた。


 蒸発する気体だけが空へと昇り、雲へと変わった、それがまた一呼吸もかからずにクライド・イングラムになる。


「人呼んで──不死身のイングラムだ。序列が低いからって弱いと思うなよ? ルーベン殿から本気を出すなとのいいつけでだなぁ」


 鋭く、そして落ち着いた眼光でイングラムが言った。


「──ため息イングラムだろうが、ったくそれに序列なんてしらんだろうし」


 はぁ……、とため息をつきながらイングラムが言った。



 @@@




 巨大な手裏剣が宙に浮かんでいた。──否、止まっていた。


 体が硬直し、今にも屈んだ体勢から、前に飛び出そうとする姿のエイリアンが震えていた。


 動けないのだ。この男の前では……


「──さて、化け物。お前の首に価値はあるか?」


 停止騎士。ジェイムス・ウィリアムスは後悔しない。

 序列3位の騎士として、現在はスケアクロウの大群を指揮する英雄の代理。


 スケアクロウは、前途多難だった。これだけ大規模で強力な組織を立ち上げ、そして参加し、その直後に創設者3Faithが去り、英雄は新世界侵攻に失敗したウィル・プライスを救助から未だ戻ってこない。


 ジェイムスはそのどの不運も気にしない。

 東方騎士団を裏切ったことも後悔していない。スケアクロウ入りも、ルーベンが手伝うと決めた3Faithの狂ったヴィジョンも。その手伝いに命をかけることにでも、である。


「──私の人生は神に裏切られ続けることから始まった」


 そして……、それは現在もそのようであって。この世の全ての不運を自分は呼び寄せているのではないか。ジェイムスは真剣にそう思った。特に子供時分では、そうだった。


 両親は一家心中をはかり、ジェイムスを殺し損ねて他界したし、身寄りはなく施設で育ったジェイムスは、施設長とその子供に嫌われて過ごした。虐待に近いこともされたが、彼らの主なやり口は無視だった。


 誰一人としてジェイムスと口を聞かないようにされた。

 ジェイムスはいつも一人だった。施設の子は学校では固まって過ごした、ジェイムスは一人だった。


 その後、施設が火事にあって、施設長とその息子が死んだ。他の施設の子も死んだが、ジェイムスは気にしなかった。


 大学には進学せずに、職人の道を歩もうとした。

 店が潰れた。師匠はギャンブル狂だった。資金繰りでやらかしたらしかった。そしてジェイムスに妙な書類を押し付けてサインさせようとした。断った。次に知ったのはジェイムスが十五歳の頃から6年間片思いしていた少女は大人となり、娼婦になっていたことだった。恐ろしく美しい女で、ジェイムスの太陽そのものだった。あまり、話しかけたことはなかったが、互いに惹かれあっているのは明白だった。


 その子は何度も、ジェイムスにわかりやすくアプローチしたし、体育の授業なんて、たった一人で声を出してジェイムスの応援だってしてくれた。いつもハイタッチしにきて。しかしジェイムスは彼女を誘うことはなかった。


 釣り合わないからである。そして施設育ちで、その施設ですら居場所がなく、不運をいつも巻き起こす男だからだ。そんな奴と一緒にいない方がいいだろう。


 そう思っていた。


 だから、彼女も不運だと知った時は。その事実を知った時は、ひっくり返りそうになった。

 なぜ、あんな子が。裕福な家ではなかったかもしれないが。それでも自分よりマシなはず。


 後から聞けば、父親の借金が原因だったらしい。世界は狭いものでジェイムスの夜逃げした師匠の仲間に言いくるめられてその道に入ったという。なぜ、どこでそれを知ったか。


 ジェイムスの師匠が書類にサインするのを嫌がった時に、持ちかけてきたのだ。

 とんでもない上玉の娼婦がいる。新入りでお前と同じくらいの年齢、学校も同じだったかもしれない。知ってるか?学校中の男子がその女を欲しいと思ってただろう。見りゃわかるほど綺麗なこだ。そのことやらせてやる。


 今度俺の仲間たちと男4人とその子でやるんだ。その子は借金で大変だから、俺たちで援助してやってるんだ。サインしたら仲間に入れてやる。


 次の週。実際にジェイムスはその光景を見た。変わるがわる彼女はやられていた。

 たいして金持ちですらない中年の男たちに、彼らは金を持っていないことをジェイムスは知ってる。おそらくこのビデオをどこかに売っているのだ。それで彼女を騙しているのだと思った。


 彼女に連絡をとって、告げると、驚いていた。

 二人は付き合うことにした。そして、互いに生きていこうとした。最初にしたのはビデオ販売をやめさせること。彼女は自信がないようだった。金のためにこういうことすると、騙す人もいるよ。仕方ないよ。とりあえず、ビデオだけ取り返して、もう流さないように言ってみる。そう彼女はいって出ていった。そしてそのまま行方不明になった。


 次の週には師匠とその仲間が行方不明になった。


 口を割らせると、人身販売組織に売ったらしい。悪行がバレ、嘘八百でさらに彼女を売って借金を返そうしたのだ。

 ジェイムスは初めて殺人を犯した。捕まらなかったし、後悔もしなかった。


 警察に入り、有能さを知らしめ、移動し、人身売買の組織を追った。

 悪徳警官の同僚を何人か殺した。偉い奴も殺した。何をしても後悔しなかった。


 彼女は見つからなかったが、死んだという情報だけ見つかった。

 疑わしき人間を、なんの証拠もなく殺した。8人ほど殺して、人生に意味を見出せなくなった。


 その後はおとなしく暮らした。


 世界が崩壊して、人類文明が終わり、そしてようやく次の恋をした。


 彼女にどこか雰囲気が似ている人だった。儚い美人で、子供も身籠り。二人で暮らしていたが、エイリアンでも魔物でもなく、悪人に殺された。単に法律の怪しい、警察の機能していない世界で好き勝手やりたい奴らに殺された。わりと安全な場所に住んで、そこでジェイムスは能力者として小さな街を取り仕切る人間の一人になっていた。そんな頃。


 自身は呪われているのではないか。そう思った。


 その頃ルーベンと出会った、自由騎士軍のヴィジョンには共感した。悪を駆逐すれば少しはこの呪いも晴れるかもしれない。彼女たちの気持ちも晴れるかもしれない。そう思った。悪には容赦なく剣を振るった。もうどれだけ殺したもわからない。


 ジェイムスにとってはいつものことだった。昔からそうだったのだから。


 3Faithのヴィジョンはよくわからないが、別にいい。

 自分の目に見える範囲は自分が支配者となるのだ。そして世界が己が許容しない運命を投げかけてきた時にそれを否定し、跳ね除け、撃滅する力があればいい。それだけを思って進む。それがジェイムスだった。










 @@@




 生命を奪われた市民たち。物理現象がおかしくなった都市。浮かぶ建物。固定された爆発している最中の瓦礫。霊体にまで分解された生物とその残滓。突然音がなくなる、空気、風、重力ののリズムが歪む。くるくると回転し、止まるビルとちぎれたビルの溶けた支柱。


 一定範囲だけ重力と光の周波数が違う場所。


 光の屈折で、今でも市民が生きているように活動している空間がのぞき見えた。


「────」


「……先生」


 英雄の目の前に男が立っていた。


 みたこともないような霊気を立ち昇らせていた。


 英雄にとって、ルーベン・ナイトレイにとって……


 今まで見た誰よりも、位階が上の相手だった。


「──随分、パワーアップしたね。もしかしたら最強かなっておもってた友人がいるんだけど、つまり君──3Faith、超えてない?」


 指紋だらけのアルミ色の仮面の半分がどくように動き、その下の顔を見せた。


 眼帯がそこにはあった。


 眼帯の下の瞳が自分を見ているのだと、ルーベンは察した。


 《 本気じゃなかっただろう? この前は俺の瞳にやられたな、今回はどうする? 俺はあの時よりも強いぞ? 》


「──どうしようかね。困っちゃったな、だって本気出す気がないからね」


 ルーベンが目を細め、笑った。


 底知れぬ決意をもった瞳だった。



 @@@


 ──???


 >>3Faith。


 4種の胡椒とナツメグの醤油ラーメンを食べていた。


 ー3Faithぅ、ミミクリぃが死んじゃったよぉ……、グスっ、ヒック……


「あいつめ、可愛いやつだったけど。ちと放任しすぎたかもしれないな」


 ー助けてよぉ、ミミがかわいそうだよぉ……


 ブラウが涙を少しこぼして言った。ぼんやりとした口調で。


「私も神じゃないからねぇ。縁があればブラウみたいに生まれ変わりと出会えるかも知れないけど……、どうなるかな」


 ーミミ……、会ったことないけど。好きだったのになぁ……


「夢の中で見て情が湧いたか。ま、そうだね、ブラウ。ミミは可愛いやつだったよ。純真でさ」


 ーねぇねぇ3Faithー。ルーベンは大丈夫かなぁ? ルーベンも死んじゃったらいやだよぉ……


 赤子鯨のブラウが不安そうに言った。


「──あいつなら大丈夫じゃない? 夢ではどうだった?」


 ーうぅん、でも夢ではねぇ。死神が3Faithより強くなっちゃったみたいだよ? もう最強じゃないかもぉ、悲しいぃ……


「──ふぅん。小癪な奴め。ま、それでも大丈夫でしょ」


 ーなんでぇ? ルーベンは大切でしょ?


「──まぁねぇ。でもルーベンはね、霊気の量が同じなら、本気を出せば……」


 ーー多分あいつ、私よりも強いよ? 




 



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