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ダブルサイココライド2 ―Saga Of Hermitー  作者: KJK
15章 Harvest Moon 収穫する世界の悪意 
105/111

105話 月面・ジョンの葛藤・vs停止騎士・竜もどき

 

「月面」



 痩せっぽちの、黄土色のエイリアンだった。やはり、のっぺらぼうであったが、老人のような体躯で、2m以上あり、ヘソからは臍の緒のような触手。それを猫背で、両手で軽く握りながら、それは歩いていた。


 月面という名のエイリアンだった。月面自身にエイリアンの自認はないが、人間的にいえばそこに類型されるものだった。


 廃墟と化した都市は霧に包まれている。


 それが霧を噴出しているのだ。臍の緒の触手から。


 霧のなか、黒い存在が、そこから出ようともがくように、どんどんと霧とそれ以外の空間の境界を叩く。


 ゆらり、ゆらり、揺れるように一歩一歩歩く。閉じ込められた黒い存在に耳を傾けるように近づけては、すぐに辞めてゆらり離れ、またゆらり、歩く。


 奇妙な舞踊のようでもあった。


 臍の緒の触手が伸び始めて、霧の中へ。


 それがしゅるるー、ゆっくりと戻ってくると、臍の緒に絡め取られたメデューサがいた。月面がゆっくりと震える手でメデューサを愛でるように触る。メデューサは泣いている。落ちる涙は水晶のような質感をもっていた。


 月面がメデューサに触れながら、地面にあぐらを描いて座した。


 アスファルトの地面には、チョークで書いたような幾何学模様が描かれていて、その中にあるマス目に長い指で月面が印をつけていく。


 どこか詰将棋をやっているようでもあった。


 2度触れたくらいで、動きを止めて、最後に首を折れるのではないかというほどに曲げた、最後の一手を指す、そんな瞬間にも見えたし、次の一手を指す前に碁盤に耳を傾けているようでもあった。



 @@@




「ジョンの葛藤」


 >>ジョン・スミス視点。


 ——フライデーの街。


 フリーダの機械生物群が街に溢れていた。


 肝心のフリーダは、どこへいったのかもわからない。


 いやいや、フリーダってだれだ。


 頭が混乱する、全てが面倒だった。

 面倒に感じる。

 面倒に感じること自体、ひどく面倒に感じて苛立ちが全身に毒のようにまわっていた。


 意識を違う場所に向けようとして、自分に同情した。


 イラついて当然だ。自分でも何が起きているのだか理解も、そのための整理すら困難なんだから。


 大丈夫だ。

 淡々とやっていこう。

 これからどうするか。


 そうだ、ウィック人形を捕まえないといけない。


 ——他には?


「他には……、そうだ。敵の、月面というやつのところへ偵察にも行きたい」


 忘れられる力と隠行の力は偵察に向いてる。それとマイケルを助けること、マイケルの死を回避すれば、その先の未来がより具体的にわかるはずだ。あとは、生き残るやつがいる、この戦いを。そいつがどうやって生き残るのかを調べなければ……



「——!」


 轟音。


 今さっきまでいた場所のアスファルトが大きく陥没していた。


 空を移動する大きなワームのような戦車が此方に向かって砲を放ってきていた。


「敵じゃない気がするが、いや敵なのか、それすらどうでもいい。まぁ、やるならやるが……」


 立て続けに大砲を放ってくる個体が増え始めた。今、この群体に自分は異物だと、破壊するべき攻撃対象なのだと認識されたのがわかった。


 それだけじゃない、体が重くなる、霊気の循環が阻害される、敵の砲撃の精度が飛躍的に上がり始めた。


「魔防壁が敷かれ始めた、フリーダがここを領土化したか?」


 隠者の力が増すように、霊気を研ぎ澄ませると、魔防壁が自分を補足できなくなっていく。


「──懐かしの赤い斧槍……」


 ハンカチからぱっと愛用の武器を取り出す。


 右手にどしりと感じる重みと、霊気の馴染み方、手の平への吸い付き具合がやけにリアルに感じた。ずっとこれを使ってきたんだ。


「──何故かしらんが、希望が湧いてきている。それにメンテもしないとだな」


 メンテナンスを怠って後悔したことがあった気がしたからだ。


 右手に力を込め、遥か上空に投擲。

 赤い斧槍が3体の飛行戦車を一息に貫いて、手元に戻ってくる。


「──おいおい、こんなもんか? ふふ、まだまだ成長中な気がする。随分弱くなったはずだが……、調子に乗りそうで怖い」


 墜落してきた戦車ワームを傀儡化、抵抗がそれなりにある。そして純粋な生物よりも難易度が高く、消耗が激しい。傀儡化してから、破壊、分解し、核を取り出して、眺める。


「──いいパーツだ……」


 ハンカチにしまう。


「——まぁ、なるようになるさ」


 横目で民家の屋根を齧っている機械生物をみた。襲った街で、砲弾の材料をそうやって補給しているのか。


「現地調達する機械でできた化け物の軍団……、物資は調達できたとして……」


「——勢力として必要不可欠なマナエネルギーは?」


 陸の戦車たちも動き出していた。夥しい数の強力な兵器の軍が街をまるごと更地に戻す勢いで火砲を放つ。


「これじゃ落ち着いて考えていられない。まずは黙らせるか」


 霊気崩壊の力を右手に纏うと、空間が逃げ出そうとするように歪んだ。何一つとして逃さずに、破滅の力を凝縮し、解き放った。


 *


 ラプンツェルの戦車の軍と戦いながら……


 ふと思い出していた。

 人類がいなくなった未来を。


 以前見たことがあった。


 あの世界線にいま俺たちは向かっているのか。

 人ごとのような気もするし、絶対にそんなことはさせない、という気持ちもあった。


 モチベーションが足りない気もするし、淡々とやるべきことだけやっていればいい気もする。


 はっきりとしない自分に、もやもやしていた。


 今の自分を見たら、みんなどんな顔をするだろう。

 脳裏に仲間たちの不安げな顔が浮かんできた。

 そうだよな。こんな中途半端なリーダー、不安だよな。


「──確かにな」


 《 ──いつまで、ブレーキかけてるんだ? 》


 自分に言われた気がした。


 もっと欲張った方がいいのかもしれない。

 もっと、もっと。欲しいもの全て完全に好きなだけ、ありえないほどの報酬を手に入れるようなつもりで。ブレーキをぶっ壊せばいい。


「──よし、いっちょ本気出すか。そろそろ本気にならないと、……ダメだよな」


 自然と笑みが漏れていた。


 特に意気込んでもいなかった。

 やろうと思えばいつだって出来たことをただ採用しただけのような感覚だった。


「──まずは、フリーダが何故、どうやって生き残るか、調べるか」


 ガゴン!!!!


 ちょうどまた戦車がこちらを捕捉して、砲弾を撃ち込んできた。


 邪魔な戦車を破壊しながら、隠行を発動。隠者の咎と相乗効果を発揮し、戦車と魔防壁が完全にこちらを見失ったのがわかった。


 思念をたどり、フリーダの元へ。


 カフェで紅茶を飲んでいるところを発見。


 へぇ、こいつ。俺を「助けるは無いな、すまんね」などと考えているな?

 3フェイスの肉塊だか因子だかの影響で、少し心が読め始めていた。


 俺の中にある3Faithの、奴の因子が馴染み始めている影響。


 轟音!


 空間に穴が空いた。


 いつの間にか、フリーダと共に違う空間にきていたらしい。それを特別な大砲で次元だか、空間に穴をあけたのか。


 こいつやはり……


 この力で月面から逃げた?

 そういえば本拠はどこだ、ラプンツェルの領土、本拠地。


 遊牧民のような勢力の可能性を感じ始めた。領土を持たず、LMPを吸い取って戦車たちに補給させているのか?

 ならエネルギー保管庫のような役割のものが必要なのでは?

 それに領土をもっいないなら、安定してどうやって資源を吸い出すんだ。

 もっと、調べないとだな。この勢力。


 隠者の咎の力を増幅させ、フリーダについていく。


 場合によっては──


 仮にフリーダを脅しつけて無理矢理に協力させたりしてもいいが、敵対した場合、どうなるか。


 かなりの勢力だ。正直悪魔党よりも、ラプンツェルはさらに強力だろう。

 今の所、単独でスケアクロウ、君主同盟に次ぐ力をもった組織だと見積もっている。


 当主のフリーダも相当に強そうだ。


 だが、本気でやりあえば──


「──俺が勝つと思うんだがな。場合によっては、ここで戦うか?」





 @@@




 __魔女領と魔窟との緩衝地帯にて。


 明白に、明らかに人型エイリアンであり、そして単なる人型エイリアンの個体ではない個体。


 完全上位個体といって差し支えない存在。


 ==

 グラム・リプリー


 種:ハイ・エイリアン

 型:忍者騎士

 忍者の呼吸、剣豪の呼吸、巨大手裏剣召喚、スピット『ボム(火、毒、衝撃波)』Etc

 ==



 巨大な手裏剣が騎士たちの陣を切り裂き、舞い戻ろうとする、その手前で──


 ──グラムは精霊騎士の姿を確認。これを急襲。


 しかし体が硬直した。

 石化したかのように、動かない。


「──停止命令だ、魔女の手先の化け物よ」


 単発真ん中分け、口髭の騎士だった。切長の瞳は無感情ながらも特別なものだけが持つ光を宿していた。


 ゆっくりと騎士が剣を抜いた。流水のように清涼な、だがそれ以上に死を彷彿とさせるほどに静かなオーラだった。


 この男は、強い。


 幾多の戦闘を潜り抜けてきたグラムは、はっきりとそれを認識した。















 @@@



 >>ノートン・ヒューズ・ウォーカー視点。



 ーM2!《エムツー》 あまり俺から離れるな。M1、応戦しろ。


 落ち着いて煙草を吸っている暇もなかった。


 魔窟の化け物どもの中から竜もどきが現れ、──襲いかかってきた。3Faithの実験動物だったが、いまは何者かに操られているのか、嬉々としてこちらに害意を向けている。


 濃い腐臭を帯びた透明の毒の息を避け、マンフリードとミシェルの亡骸から生み出した、恵まれし死人、スーパーリッチとスリーマンセルを組み戦う。魔女領の目の前に不死者の軍勢をもってきて大量に葬られては敵わない。魔窟の調査は少数精鋭で行うつもりだった。


 *スーパーリッチ:リッチを超えた不死者。生前の記憶、能力を保ち、魂と核さえあれば、素材を使用し、何度でも甦ることが可能。さらに素材次第では生前の力を上回ることも。生み出す上でこの呪法によって生み出されたリッチには制約がある。1、名前を捨てなければいけない。2、言葉を喋ってはいけない。3、望みをもってはならない。2体のリッチはマンフリード自ら望んでミシェルの傷ついた魂の修復にエネルギーを使用した結果、意識が不鮮明。超リッチではあるが、呆けている時間が多い。



「死人の悪魔 vs 竜もどき」



 新しい煙草を取り出し、火をつける。


 深く肺に入れ、吐く。


 M2がその肢体に暗い灰色のスライムを纏わせると、一気に身体能力が強化された。


 粘着質な黄緑色の鼻水を垂らしながら襲いくる竜もどきの攻撃を避けながら、ショートソードの斬り払いを高速で浴びせた。


 竜もどきがそれを嫌がり、長い首を回し強靭な顎で噛みつこうとするも——


「M1……」


 煙草を咥えたノートンが呟くと、竜もどきの胴体M2のいる反対側に回り込んでいたM1が腰にまで落とした拳に赤黒く燃える霊気を宿し、——打ち放った。


 ーキャッキャァ! ギャあぁぁ!


 竜もどきは笑い声のような叫び声のような悲鳴をあげる。


 痛がり転げ回る様は、道化師が踊っているようだった。


 しかし、すぐに地面に溶け込むように沈み、逃げる。


「——させるわけない」


 M1、金髪の顎のしっかりとした男の超リッチが、逃げようとする竜もどきが沈んだ地面を霊拳で破壊。大きな穴が空き、竜もどきが血反吐を吐きながら飛び出し、必死に逃げる。


 チリンチリン。


 ノートンが左手で持った鈴を鳴らす。


 途端、竜もどきの体が硬直し、苦しそうに呻いた。


「3Faithの残した首輪の鈴だ、真の主人を思い出せ」




「竜もどき」


 竜もどきが全身を毛虫のようにくねらせ、のたうち回った。表情は泣いているのか、笑っているのか、どちらなのかわからなかった、口の端は吊り上げながら、涙を流しながら心臓の発作を起こしているかのように胸の筋肉が痙攣していた。


 それでもなお、竜もどきは屈さない。


 ドラゴン・ミミックリィ。3Faithはミミと呼ぶ。

 それがこの生物が生まれた時につけられた名称だった。既存の動物、魔獣の肉体を素材として竜に近いものを作る。という計画で生み出された化け物は、概ね成功という評価を得て、その代わりのように自由を手に入れた。


 それは魔窟の主となれるか、という次なる目的を与えられた際についでのように与えられた目的、方法、理由の3つの中で方法において与えられた自由な裁量権だった。


 竜もどきにとっては紛うことなき自由であった。

 目的と理由というものに、対してこの魔獣、竜もどきは興味を持っていない。


 ただ自由に己の力を使いたい。

 それが竜もどきにとっての()であり、自己の価値を確認できる唯一の方法だった。


 好きなものはコミックブック。特にアメコミ。人間の文字は理解しないが、絵は好きだった。特に暴力的な力を振るう超人やヴィランの絵は種族さえ違えど、竜もどきに親近感を覚えさせた。街が破壊される様、互いに暴力を奮いあう様、己の主人に雰囲気が似ているヒーロー。楽しそうに笑い戦闘するヴィランは特にいつも笑っているように口角を上げる癖のある己を投影し見ることが多かった。


 最後に負けてしまうのは仕方なくご愛嬌だった。その結果に興味はない。竜もどきがもっとも憧れた絵の中のヴィランは何度負けても執拗に、しつこく、しつこく、逃げおおせては決して学ぶことなく、破壊と混沌をもたらすようなキャラだった。それが竜もどきの目標とすべき理想の姿。唯一人間の形をもった存在から受け継いだアイデンティティだった。


 竜もどきは、今自分が恐ろしい存在に操られていることに気がついていない。そんな発想すらわかないし、どうでもいいからだ。ただ今までとは何かが違う。恐怖と、なにか粘つくような姑息な魔性が己を縛り、結果として何故か、神であり、主人であり、親である3Faithの勢力とは袂を分かったこと。


 今、目の前にいる悪魔が自分を元に戻そうとしていること。直そうとしていることは直感的に理解できた。しかし、竜もどきは口角を釣り上げて笑う。


 悪意を仲間に向けると楽になる、楽しい。何かがそうさせているのだが、それはどうでもよい。


 この悪魔との戦いは極上のエンターテイメントだった。

 まるで本当にコミックの中にいるようで嬉しかった。


 竜もどきからすれば、魔窟の生き物はつまらないものが多かった。


 死ぬほどタフでバリアばかり貼る耐え忍んでばかりの退屈なキリンに、とっくに死んだが恐ろしい霊力に裏打ちされた火力で雷を落としまくるしか能がない真っ黒なカバ、コミックで言うなら自分で落雷を受けて黒焦げになったという回想回などがあれば喜ばしいが、できれば戦闘中に自分に落として死んで欲しかった、そんな展開のほうが愉快だからだ。


 あとは大嫌いな黒い霧をスカンクのように振り撒く狩人気取りの群れたオオカミのボス。


 アメコミで言えば、どれも竜もどきが興味がないキャラばかりだった。ただの動物や魔獣には興味がないのだ。逃げ惑う人間が絵になるし面白い。人間の住む場所を壊したい。戦う相手もできれば人型が良い。真面目な顔をしていたり正義のヒーローであれば、完璧だった。


 ところが、勢力を変えた途端に敵も変わった。

 幸運なことに、より人間の敵が多くなった。

 そして、今はなぜか、人間の仲間だったやつと戦っている。なぜかは知らないが、望むところだった。


 この破壊され尽くした魔窟はまさにコミックの中の舞台だった。そして戦うのは主人公である3Faithのペットである竜もどきと、コミックに出てくるヴィランのように悪魔に変身する人間の男。


 死灰の砂嵐が巻き起こり、ヴィランが連れてきた喪服の男女の攻撃に晒され、死ぬ。


 その最後の瞬間まで竜もどきは幸せだった。


 おそらく生まれて初めて満たされた。親である3Faithが持っていたコミックブックをもらっては夢中になって眺めていた時と同じくらいワクワクし、楽しかった。その時を思い出しながら、竜もどきは死んだ。


 最後に聞こえたのは、己の亡骸の近くで煙草に火をつけた音。そして、何か別のものの気配が悪魔を襲った音だった。




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