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ダブルサイココライド2 ―Saga Of Hermitー  作者: KJK
15章 Harvest Moon 収穫する世界の悪意 
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Rapunzel・Phase3・停止命令

 

 フライデーの街。


 ——午後18時40分。


 商店街の角っこの横に並ぶ店に見慣れないカフェがあった。


「新しい店ができている……」


 毎週のようにきてたのにまるで気がつかなかった店。近所の主婦などが集まり出しそうな雰囲気の店で、中は白を基調としながらも銀色のバルーンがインテリアとして使われていたり、子連れの客も歓迎していそうだった。


 私には関係ないが。


 入ってみると客よりも店員の方が騒がしく新しく開いたばかりの店という感じ。走り回っている子供たちもこの店のオーナーの子のようだった。


 メニューを見てパンケーキを推している店だとわかったのでパンケーキと紅茶を頼んでみる。店員の男、おそらくこの店のオーナーの長男らしき18歳くらいの青年が青い炎を纏いながらこちらにやってきた。


 時折明滅して、骸骨や、ミイラの姿の姿にもなった。


「パンケーキのトッピングのアイスクリームは何にしますか?」


 ーああ、なんの種類があるのですか?


「バニラに、チョコ、チョコミント、クッキーアンドクリームに……」


 ーではチョコミントで。



「かしこまりました、お客様…‥」



 運ばれてきた紅茶を口に運びつつ、怨念の風が吹く店内に清涼な空気を作り出す。


「さて、ジョンとはネオンホテルで逢瀬を重ねようと思っていたのだが……」


 また、よくわからない空間に入り込んでしまったな。


 フリーダが呟いた。



『銃皇フリーダ・シーガー』


 ジョンは詰んでいる気がする。これ以上会わないほうがいいか? さぁ、どうだろう。助けてやりたいのは山々だが……。その未来視とやらが本当に当たっているのなら、私は生き延びることになる。せっかく私だけ生き延びれるのに同じ円卓の領主の連中が軒並み死ぬようなイベントに自ら首を突っ込んでいくのはごめんだね。


 ここまで育てた組織が終わるやもしれない上に、私まで死んでしまう未来に変えても仕方あるまい。彼は私の顔をにやけさせるほどにいい男ではあるが、助けるはないな。申し訳ないと思いつつ、微塵も迷ってはいない自分の強かさに呆れる。まぁ、別にいいさ。


 私は私のやるべき事を為すだけだ。


「世界の謎を解くこと。それが私のヴィジョンだからな」


 美しいとしか形容しようがない顔の造形の女。表情は冷たくも自信に満ちていて姿勢良く。燃えるような赤髪にカーキのコートが似合っていた。



 フリーダ・シーガーは合理的である、少なくとも不合理な判断を好まない。この女にとって重要なことは世界を変えるようなことを為すこと。それに人生を賭けること。フリーダは理解している。己の為すべきことを。それは世界の謎を解くという、彼女からすれば当たり前であり、しかし他のどの円卓の領主も持っていないヴィジョンを元に歩んでいくことである。


 フリーダ・シーガーは運ばれてきたパンケーキを食すと、口の端を釣り上げてはジョンのことを思い出す。グロスを塗った赤い唇から舌が出てきて艶かしく舌なめずりした。


「幸い、彼の子種はもらったことだし……。そうだな、孕んでいればいいな。ふふふ、それで助けたことにしてもらいたいね」


 フリーダが呟いた。


 カウンターで会計をし、カードリーダーにカードをかざしている時、フリーダが店の入り口上の天井を振り返るように見た。



 轟音。



 店の空間自体に大砲による風穴が開けられ、次元にヒビが入ったような跡が残った。風穴から入り込んだ風が店内の存在を押し流して、消してしまった。


 フリーダは心地良さそうな表情だった。


 穴の向こうには、ニューイングランド銀行・ネオンホテルが見えた。ホテルの横には10階建てのホテルに並ぶほど巨大な戦車と戦艦が混ざりもののような兵器。其の他にも宙にはセスナ機ほどのグライダーのような翼を持った外骨格に覆われたワームと大砲を合わせたような魔物が飛び交う。これがラプンツェルの機械生物兵器の軍団だった。



 ー出迎えご苦労。もう少し我慢しててくれ。調査がひと段落したらこの街にも特大の風穴を開けていこう。


 これらフリーダ・シーガー率いる機械生物兵器群は全て大口径の砲を備えており、普通の人間はおろか魔物でも能力者でも、この破壊に特化した群体を見ればすぐさまに逃げる算段をつけ始めるようなものだった。


 フリーが呼ぶところの「戦車」であり、ラプンツェルの中核をなす、この存在は街の至る所に溢れ始めていてその数は10万を超えていた。



 >>ラプンツェルーRapunzel


 当主:【銃皇】フリーダ・シーガー


 運命のカード:【女教皇】【戦車】














 @@@




 Phase3




 ー本当にやるんだな?


 暗い洞窟で煙人が言った。



 世界崩壊後。正確には人類文明崩壊後。人の多くが忽然と消えた、不可思議な生物が入れ替わるように出現した。そして生物の変質、それは魔獣だけでなく、人間にももたらされた変化であり……


 この現象について死神と煙人はさまざまな予測をしていた。それは罪人たちの人権を気前よく無視して行われていた実験で持ってしても、その謎の全貌は掴めなかったのだが、当たりをつける分には十分というほどのデータももたらした。


 霊気は他者から吸える。吸えば変質し、力が増す。そして同種からはほとんど吸えない。無理に吸えば拒絶反応を起こし、気分が悪くなる、電流が体を駆け巡るような感覚や、引き付けなどを起こす。この傾向は人間においても魔獣においても一貫した傾向があり、RPGなどにおける単なるレベルアップのような謎システムがこの世界に構築されたわけではないと死神と煙人は結論づけた。


 どちらかといえば、それは個性化の進行であり、この変質には一定の方向性があるのではないか。


 定められた方向に向かって生物に進化を促しているような……、そのような作用なのではないか。ならば筋が通っているように思えた。ならば、同種から得られるデータは必要がない場合が多いだろう。何かが生まれるように道筋が決定づけられている、人間や超能力者などを超えた存在の誕生。そのための生物の変質なのではないか。


 そのXが生まれるために、DNA情報を集め、書き換えている。


 この「神の意図」や「大いなる意図」、「既定路線の未来」とも死神が呼んでいる世界の謎は未だに全貌が見えない。


 しかし、死神と煙人にとってわかっていればいいことは——


 ——何が彼らに利するのか。


 というシンプルなものであった。



 仮にこの現象が「X」に近づくものを歓迎するのならば。


 世界が円卓の領主を歓迎し、運命の力を与えたように。


「X」により近づいたものに世界はさらなる力を与えるだろう。




 ***



 新世界領・胎動窟



 新世界という勢力の総力を持って集められた多種多様な生物たちが、生きながらにして生命維持装置に入れられ、球場ほどの大きさの広間に設置されていた。


 その真ん中に、座禅を組んでいる死神がいた。


 全市民の適性検査をし、能力者の中から選び抜かれたのは眼鏡をかけた少女。


 名はカグネという。歳のころは15歳ほどだろうか、緊張で玉のような汗を額に浮かべていた。少女は小さな葉のついた木の枝を手に持っては死神の肉体の内外の霊気を確認。1秒たりとも目を離すまい、一つの異変をも見逃すまいと真剣な顔つきで死神の周りを歩きながら見ては、時折死神の肩や腿を手に持った枝で打つ。


 死神の周りにメガネの少女カグネ。その外側には煙人と四人の少年少女。外側の四人は合唱し、霊的な言を紡いでいた。この4名が力を合わせ、この広場にある生物から霊気をゆっくりと慎重に死神に注いでいるのだった。


 注がれた霊気は死神がXに近づくように、意図しながら選別し、吸収する。その補助を外からこなすのがカグネであった。


 予想していたこと。


 Xに近づけば近づくほどに強くなる。それを意図的にこなせるのならば、さらなる力が手に入るだろうこと。煙人はそれが本当に良いことになるのか、賛成とは言い切れなかったが、死神グラハム・リーパーは乗り気であった。そして今回のスケアクロウとの戦争。躊躇していた計画の引き金が引かれるには十分だった。



 そして——15時間後。



 これまでとは隔絶したオーラを身に纏ったグラハム・リーパーが立ち上がった。


 グラハムの両手から濃密な霊気が漏れ出た。液体と気体両方の性質を併せ持っているように動き出し、物質化し、それがブラックホールのようになった。グラハムが漂う香水を浴びるように前に進むとそれは漆黒の外套となり、顔に手をかぶせ、離した時には眼帯の上に新たな仮面がつけられていた。アルミ色の指紋だらけの仮面であった。


 其の姿は、死神という存在から、より純粋な神に近づいたように、見るものに感じさせた。


 死神がいつの間にか手に持った大鎌を振るうと広間にいた生物が死に絶えた。ようやく使命を真っ当できたと、安心したかのようにここにいる生命が枯葉のように乾いて死んだ。


 死神が煙人に歩み寄ると、広間の蝋燭が一斉についた。


「どうだ、グラハム。Phase3になった気分は?」



 煙人が聞くと——


「ああ、壁は超えた。吃りも治ったかもしれん。フフ、もうここまでくると旧人類の兵器で俺を殺すのは不可能だな」


「核でもか? それかバイオ兵器とか」


「無理だろうな」


 達観したような、流れる清流のような爽やかさで死神が返した。


 さらりとその事実を言ったこと以上に、目の前の存在の、あまりの霊気の濃さに煙人は恐怖した。足がガクガクと震わせてグラハムを見ていた。



「グラハム、俺は今ビビっちまって。ちいと、チビっちまったぜ」






 @@@








 英雄領・克服都市・コンクエスト




 悪竜たちが龍の山から飛び出しては街に破壊の息吹を浴びせていた。


 黄霧から出現した怪物がそれに応えるように吠えた。


 怪物は15m以上ある牡牛の角を持った土竜だった。それはブヨブヨとした鱗の上に毛皮を持って、骨の可変具合がおかしく、鼻は象のようだが象ほどには長くなく、また目が無かった。


 それが吠えると長い鼻の穴からブォォぉぉ! と汽笛のような音を出し、それが周囲一帯の家々の窓ガラスを破る。


 鎖帷子を頭に被った男が街中を駆け抜ける。家の窓を破り、中に入ってはまたガラス戸を割ってショートカットするかのように東へと走っていた。


 ドレイクの使わした密偵である。


 名はマイリス。悪竜との交渉に失敗。その場で喰われそうになったところで、運よく黄夢が出現し、悪竜山から命からがら逃げ出し、目下コンクエストの街から逃走中であった。


 しかしマイリスの体がコンクエストの街外れへと辿り着く前に、止まった。


 最初何が起きたのか、マイリスにはわからなかった。


 ただ催眠術師に瞼を開かなくされた客のように。

 動くな、と催眠を掛けられたかのように。動けなくなったのだ。



 ー……ここは一時停止だ。運が悪かったな、密偵。


 背後から声がした。

 肉体は依然として硬直していたがわずかに振り向くことはできた。


 口髭の騎士だった。歴戦の勇姿特有の目つき、中肉中背で40代だろう、人を落ち着かせるような声をしていた。黒い短髪を真ん中から分けている。全てを見てきたような瞳からはいかなる感情も読み取れず、しかしマイリスは見つかってはいけない相手に見つかったことだけは理解した。その正体も、噂には聞いていた能力から理解した。



「高弟騎士、序列三位。停止騎士ジェイムス・ウィリアムスか……」


 東方騎士団でも指折りの高位騎士でもあるマイリスも、逃げる自信はすでに喪失していた。





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