#記念日にショートショートをNo.38『遠き青』(Distant Blue)
2020/7/23(木)海の日 公開
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なし
朝焼けが溶ける水面を見つめ、足に触れるさらさらとした白砂を両手で掬う。
空気に光りながら、指の合間から零れ落ちていく砂。
もしも願いが叶うなら、もう一度君と2人で、この景色を心ゆくまで、眺めてみたかった。
もう一度、本当はそうじゃない。
いつまでも、永遠に、消えることのない僕の唯一の夢だ。
一年に一度きりのこの日に、毎年祈りを捧げても、彼女は帰らない。
夏が輝いたあの日、生きる意味を見失って海辺を虚ろに眺めていた僕に、麦わら帽子を被った彼女が話しかけてきた。
「どうしたの、こんなところで。」
「いや…海を見たくなって……」
「嘘。自殺する気でしょ。」
彼女は僕の瞑想めいた嘘を、すぐに見抜いてみせた。
「駄目だよ、自殺しちゃ。」
「生きたくても生きられない人もいるんだから。」
彼女は憂いを帯びた目で海の一番遠くに見える境目を見遣った。
「君は、病気なの?」
「…ううん。健康だよ。」
今度は僕が彼女の嘘を見抜く番だった。
僕がずっと自分を見ているからか、彼女はとうとう観念したように口を開いた。
「…心臓病なの。きっと20歳まで、生きられない。」
13歳だった僕は、今まで僕が辿って来た道のりよりも、彼女がこれから辿って行く道のりの方が短いことに、純粋にショックを受けた。
きっと、彼女に出逢ったその瞬間に、確信していたんだと思う。
「僕が、助ける。」
学校の成績もオール3のただの普通の中学生でしかないのに、咄嗟にそう言ってしまった。
彼女が僕の言葉を本気に受け止めていないのは分かっていたから、いくらでもすぐに訂正することは出来たはずなのに、僕がそうさせなかった。
「絶対に。」
「だから、毎年のこの海の日に、ここで会おう。」
猛勉強の果てに十数年後医者となった僕は、その日の誓いを、結局、守ることが出来なかった。
病院のベッドの上で、どんどん脈拍を表す線が平坦になっていき……
「水凪!!!」
僕の声も届かず、彼女は死んだ。
彼女は、27歳だった。
学校も違うのに、まるで接点も無かった同い年の彼女を両親に会わせた時に、永遠の約束を誓っていたら、彼女は、今も僕の隣りで、笑っていてくれたのだろうか。
【登場人物】
●僕:語り手
○水凪(みなは/Minaha)
【バックグラウンドイメージ】
【補足】
【原案誕生時期】
公開時