表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

#記念日にショートショートをNo.38『遠き青』(Distant Blue)

作者: しおね ゆこ

2020/7/23(木)海の日 公開

【URL】

▶︎(https://ncode.syosetu.com/n8388id/)

▶︎(https://note.com/amioritumugi/n/nf0c152f71fc1)

【関連作品】

なし

 朝焼けが溶ける水面を見つめ、足に触れるさらさらとした白砂を両手で掬う。

空気に光りながら、指の合間から零れ落ちていく砂。

もしも願いが叶うなら、もう一度君と2人で、この景色を心ゆくまで、眺めてみたかった。

もう一度、本当はそうじゃない。

いつまでも、永遠に、消えることのない僕の唯一の夢だ。

一年に一度きりのこの日に、毎年祈りを捧げても、彼女は帰らない。



 夏が輝いたあの日、生きる意味を見失って海辺を虚ろに眺めていた僕に、麦わら帽子を被った彼女が話しかけてきた。

「どうしたの、こんなところで。」

「いや…海を見たくなって……」

「嘘。自殺する気でしょ。」

彼女は僕の瞑想めいた嘘を、すぐに見抜いてみせた。

「駄目だよ、自殺しちゃ。」

「生きたくても生きられない人もいるんだから。」

彼女は憂いを帯びた目で海の一番遠くに見える境目を見遣った。

「君は、病気なの?」

「…ううん。健康だよ。」

今度は僕が彼女の嘘を見抜く番だった。

僕がずっと自分を見ているからか、彼女はとうとう観念したように口を開いた。

「…心臓病なの。きっと20歳まで、生きられない。」

13歳だった僕は、今まで僕が辿って来た道のりよりも、彼女がこれから辿って行く道のりの方が短いことに、純粋にショックを受けた。

きっと、彼女に出逢ったその瞬間に、確信していたんだと思う。

「僕が、助ける。」

学校の成績もオール3のただの普通の中学生でしかないのに、咄嗟にそう言ってしまった。

彼女が僕の言葉を本気に受け止めていないのは分かっていたから、いくらでもすぐに訂正することは出来たはずなのに、僕がそうさせなかった。

「絶対に。」

「だから、毎年のこの海の日に、ここで会おう。」

 猛勉強の果てに十数年後医者となった僕は、その日の誓いを、結局、守ることが出来なかった。



 病院のベッドの上で、どんどん脈拍を表す線が平坦になっていき……

水凪(みなは)!!!」

僕の声も届かず、彼女は死んだ。

彼女は、27歳だった。



 学校も違うのに、まるで接点も無かった同い年の彼女を両親に会わせた時に、永遠の約束を誓っていたら、彼女は、今も僕の隣りで、笑っていてくれたのだろうか。

【登場人物】

●僕:語り手

○水凪(みなは/Minaha)

【バックグラウンドイメージ】

【補足】

【原案誕生時期】

公開時

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ