ころころ転がって。
ブラッドムーン、深く紅い宝石。光の加減で色味が変わる不思議な石。それはシルヴィア=ローレライの秘術で作られた石である。
魔力を練って精錬しまた魔力を練って、と繰り返し術者の寿命を数年削る秘術。ローレライ家の愛を誓った者に捧げる謂わば命懸けの求愛と誓いだ。
身につけた物を守り癒す石だが効果は術者が決めるもので様々であった。中には昔、過激な愛の誓いで術者が死ぬと装備者も死ぬ呪いのような誓いもあった。
シルヴィアが誓った愛は何だ何だと貴族達の噂の的。貴族でない者を選んだ故に好き勝手笑うものもいれば、決められた相手ではなく自分で選んだのだから、これこそが最愛の形だろうと祝う者までいた。
アリアは自分の掌を見つめた。
何て未熟者。そんな私がシルヴィアさんの隣には居られない。冒険者ランクだってSランクだと貴族達との縁もあると聞いたが、アリアは頑張ってもBランクだ。
麻痺していたのだ〝シヴァ〟との思い出と彼の振る舞いに。
1人、反省しながらホルスターから銃を取り出し魔法陣が彫られた弾を装填していく。
今日は自分を指名した護衛の依頼だった。大きく息を吸い深く息を吐く。少し呼気が白い、秋が近いようだ。
「って、何でシヴァさんが居るんですか!」
指名の依頼はシルヴィアであった。今日は眼鏡をかけておらず、アリアの反応にクスクスと笑った。
「依頼なんだから、しっかり護衛してね。」
ペンダントがちゃんと着けられているのを見たシルヴィアは喜んだ。が、指輪をしていないのに気づき注意をする。
「指輪もしてね。君を守るのに全力で頑張って作ったんだから。」
また、そんな勘違いを起こさせる言葉を使うのだからアリアはかぁっと赤面する。
「…戦闘で傷付いたら嫌だったもので。」
簡単に傷なんてつけられない物だから安心して?と、にっこり笑うものだから腰のポーチから大切そうに指輪を取り出して指に装備した。
その姿を見てうんうんと似合うよ、とまた甘い言葉を吐く。
「やっぱりアリアには紅が似合うよ。つけてくれてとても嬉しい。」
初秋のはずなのにアリアは火照りを感じずにいられなかったのだった。