3日も経てば、
寂しい、と独り言を呟き、ギルドのテーブルに項垂れる。行儀は悪いが誰も私なんか見てないからいいやとため息まで出てくる。
「はぁー…シヴァさん不足で死にそう」
あの魔法銃の件以来顔を見られていない。そもそもチームを組んでいないから会える方が稀だと言える。今までがラッキーすぎたのだ。紹介してもらったカインさんの調合屋には二日に一度は行くようにしている。弾は無限ではないのだ。
魔石とお金であの素晴らしい弾が手に入るのだから、もうそれは必死に依頼をこなしている。
害獣駆除にCランクモンスターから依頼人を守るガードの仕事も薬草採取だって1日に2つ受けることもあった。
これだけギルドに顔を出していればシヴァさんとも会えそうなものだが3日連続顔を見られてない。癒しがないのは生活のリズムも狂ってしまいそう。
「アリアちゃん、随分と落ち込んでるわね。」
「あー、はい…癒しがなくて…。」
ティアラさんは苦笑いしながら私にコーヒーをご馳走してくれた。ギルドにいながら喫茶店にでも来たような気分になり少し落ち着く。ミルクを入れティースプーンでかき混ぜながら愚痴をこぼす。
「シヴァさん、最近ギルドに来てますか?全く会えなくて何だか心配です。」
受付に戻りながらふふっと笑うティアラさん。
「あぁ、だから元気が無かったのね。」
笑い事ではない。生活の癒しがないのは死活問題。
モンスター退治に潤いなんてないのだ。仕事は仕事でもこのカサッカサな心がわからないなんて。
「…シヴァさんのにっこり笑顔が恋しいです。」
コーヒーを一口飲んでほぅっと息を吐きまたぶつぶつと呟く。そこへ肩にぽん、と手が置かれる。
「そんなに寂しかったですか?」
「シヴァさん!、な、えっ!」
全身の血が顔に集まるような感覚。恥ずかしい。
まさかのご本人登場に心臓が飛び出そうになった。
「…耳まで真っ赤だよ。」
ぼそっと耳元で囁かれて私は椅子から立ち上がって囁かれた方の耳を手で隠した。何て悪戯に心を乱すのか。
「…揶揄わないで下さいよ!」
「ごめん、可愛かったからつい。」
可愛いなんて、思ってないくせに。照れまくる私を揶揄ってるだけなのだ。そんなの分かりきってる。私は可愛いくない。言われたことなんて今までで数えられるほどだけだ。
彼はまたご機嫌良く私の隣に座り立ち上がったままの私を落ち着かせるよう座らせた。
ごめんごめんと、笑ってまたプレゼントだよと小さな箱を手渡してきた。
「貰いっぱなしで悪いですよ、お礼もまだ済んでないのに。」
「僕が勝手に渡したいだけだから、受け取ってくれると嬉しいな。」
眼鏡の位置を直しながら箱を指差して開けてみて、と促される。
言われるがまま箱を開けると、そこには紅い宝石のペンダントが入っていた。まるで彼の瞳のようで、輝き方からとても高価なものだとわかる。
「えぇー…すごい、高価そうですね。」
「作ったんだ。だから高価とか、そういったものは気にしないで。」
キラキラと紅い宝石は細かい針金細工が石の周りをぐるっと巻きついていてとてもお洒落。光の加減で見える色も違う。ワインのような紫にも見えた。
「すっっごく綺麗ですね。こんな素敵なものいただいて良いんですか?」
「アリアさんの為に作ったんだから当然身につけてもらわないとね。」
クスっと笑いながらペンダントを手に取り私に着けてくれた。デコルテに触れるチェーンが冷たいのにこんなに近寄って話すことが無かったから酷く緊張と火照りを感じる。
今日って何の日だろう?
誕生日でもないのにこんな素敵なプレゼントにさっきまで落ち込んだ気持ちが急浮上した。
「…大切にしますね!」
私の感謝の言葉にまたとろりと笑顔を見せてくれた。