チートも神様の祝福も無い異世界転生
まだまだ勉強中なので感想頂けましたら大変助かります。
最初はただの気まぐれだった。
ほんの些細な親切心。少しだけ力になれたら、と。自分の中の優しさを偽善としなたくない気持ちが大きかった。
「ありがとう、親切な方。」
「これくらい何でもないです。」
眼鏡をかけていながらぼんやりとしかモノが見えないらしい。私はちゃんと食事ができているのか彼が心配になった。毎度体の線の細さが気になったから。ただ、それよりも銀の髪がサラサラと太陽の光で輝く髪に見惚れる。
彼は眼鏡をくいっと位置を直して言うんだ。
「いつも、すみません。」
本当にありがとう。と、それはそれはとろけそうな優しい笑みを溢してお礼を言う。ルビーのような紅い瞳がとても穏やかな光を写して。
自分の顔に熱が集まるのを感じながらもホッとする。
眼鏡をかけていながら彼はよく見えていないのだ。私もこの世界も。
辛く無いか、寂しく無いか、困っていることは無いか、時々街のギルドで会話をする。
他人から見るとお節介だが本人が助かったと言ってくれるのだから私は満足していた。
所詮、私だって万年Bランクの冒険者。
彼は専ら薬草採取や簡単な魔獣退治をするCランクだった。
ギルドに所属していながら彼も1人冒険者。
私は異世界に生まれ落ち、現代の記憶を思い出したタイプであった。よくあるチート能力や神様の祝福等は全く無い不公平を感じる異世界転生だった。
親は私を拾って育ててくれた義理の親。そしてBランク冒険者になれたのも親のおかげだ。
家業は武器屋。父のアランは豊富な種類を取り扱っているそこそこ人気のある武器屋を営んでいる。
冒険者になるきっかけは銃を使えると知ったからだった。
大剣は重くて無理で、太刀は技術不足、短剣を扱えるほどのスピードは無い。それならば銃を使えと助言してくれたのも父であった。
一般的な魔力量と普通としか言えない見た目で何とか冒険者を続けられているのも支えてくれる家族や見知った顔の冒険者達のおかげ。感謝しかない。
「よお、お二人さん。また仲良く雑用か?」
茶化してくるこの男はメディアスという双剣使いのAランク冒険者だ。雑用、とはCランク以下のことをよく揶揄いで言われるのだ。
「雑用も立派な依頼でありお仕事です。」
ギルド民のアイドル受付嬢ティアラさん。彼女は私に依頼の書かれたプレートを渡しながらメディアスにピシャリと一言で黙らせる。
「あはは、良いんですよ。どうせ軽いのしか挑戦出来ませんし。」
依頼プレートをポケットにしまい込み、苦笑い。
当たらず障らずが平和でいられる。
「アリアさんは悔しく無いんですか?私なら悔しいと思って。」
「私達のために怒ってくれてありがとうございます。大丈夫、依頼行ってきますね!」
半ば押し切るように、銀髪の彼シヴァさんを促しギルドを足早に出た。出入り口の木の扉がギシギシと古さを主張する。そろそろこのギルドも改装が必要そうだ。
シヴァさんはにこっと笑いながら言う。
「雑用係、でも必要で有り難がってくれる人々もいる。確かに立派なお仕事ですよね。」
あまり見えていない大きな瞳が私を見つめる。ドキドキと恥ずかしさが出てくるのであまり顔を見て欲しく無い私は顔をパッと前を向いて戯ける。
「そうですそうです!仕事は仕事なんですよ。あはは。」
さて、今日の仕事は何か改めてプレートをポケットから取り出してよく読んでみる。
「ポーション用の薬草採取……」
「あ、それなら良い群生地を知ってます。」
博識で色んなことを知っているシヴァさんはまた笑顔をを絶やさず言った。ぼんやりとしか見えない彼の世界はどんな風に見えるのか分からないけど私との依頼は楽しいと以前話してくれた。
正直に言って、私は彼の笑顔の虜だ。だって優しいんだ。こんな普通の顔で大した能力も無い私を必要としてくれるのだから。
沢山の作品の中読んでくださりありがとうございました。