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秘密のメテオとリフレクト  作者: Flying Bear
エピローグ
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エピローグ 5

「元通りの生活に戻ったってのに、寂しい限りねぇ」


 通常営業を再会したアクアパッツァで夕食を取っていると、早くもワインに手をつけたクリス先生がしみじみと感傷に浸りながら言葉を吐き出した。


「今まで魔物と対峙する機会がなかった生徒たちばかりでしょう。ましてや、安全だと信じていたエスカレアでの出来事ですから」


「私のクラスじゃ半分以上が欠席よ? 授業を進めるにも戻ってきた生徒から苦情が出ると考えれば、やってらんないわ」


 エスカレア四校の生徒だけでなく、街中でも多くの店が休業したままだ。以前のような活気を取り戻すにはまだまだ時間がかかるだろう。


「それはそうとあんたたち。メイの授業はどうだったのよ」


「ふやわあっ!?」


 お酒が入った面倒くさいクリス先生の相手をアオイさんが引き受けてくれたのを幸いに、食事に夢中だった……なんてことはない。

 ボクとレナは目を合わせたまま返答に困ってしまった。


「アイツ、ちゃらんぽらんなクセに昔から試験だけは良かったのよねぇ。要領がいいっていうかずる賢いっていうか。でも教師として生徒に教えられるか不安だわ」


 メイ先生とふたりで廃坑に忍び込んだ時、ふとした疑問や質問には丁寧に答えてくれた。

 今日に限れば先生らしいことなんて何もなかったし、ぶっきらぼうで口が悪いけど、意外と良い先生なんじゃないかな?


「あたし、今日はすごく集中して勉強ができたの。ラドくんだってそうでしょ?」


「わかりやすく教えてくれたよ。すごく充実感はあったかな?」


 誰が教えてくれたかってことはボカしておく。説明が足りないだけで真実には違いない。


「そっかそっか。少人数だからこそのメリットね。引き続きがんばりなさーい」



 一気に飲み干したグラスにすかさずアオイさんがワインを注ぐ。ボクとレナの逡巡を察知して、真実がバラされないように気を遣ってくれたんだろう。


「アオイもさぁ、私につきっきりになるくらい暇してるなんて商売上がったりじゃないのぉ。もう私たちを縛り付けるものなんてないんだから、国に帰って店でも開いたらどうなのよぉ?」


「故郷に帰ったところで天涯孤独の身ですから。アテなんて何もありませんよ。クリス先輩こそもう一度、研究者を目指してみたらいかがですか」


「うーん…………それがねぇ、今となっては教師ってのも悪くないと思ってるのよねぇ」


 一日の終わりにバーで一杯、なんて時間には早いせいかボクたち以外に客はいない。だからってわけじゃないだろうけどアオイさんもワインに口をつけた。


「珍しいじゃない、私に付き合ってくれるだなんて」


「今の生活も悪くないと思っているんです。良くも悪くもクリス先輩のおかげですね」


「あらそーお? 私だって今の家はそのまま住み続けていいって言われてるし、面倒な地下の往復も必要なくなったのよ。すべてはチビッコに感謝ってところかしら」


 ちびちびとリンゴジュースに口をつけているとボクが呼ばれて驚いた。でもふたりの思い出話に割り込むほど野暮じゃない。


「ラドさん。自業自得だったんですよ」


「え?」


「今だから秘密をバラしちゃうけれど。あんたたちの前に廃坑に忍び込んで捕まったの、実は私たちでしたーっ。きゃははははははは!!!」


「えええええーっ!?」


 クリス先生とアオイさんは二ヵ月ほど前までマジェニア学園の生徒だった。

 そしてボクたちと同じように禁じられた冒険をした結果、牢屋の中に行き着いたという。


「本来ならば即退学、もしくは秘密裏に消されていたかもしれません」


 クリス先生が生徒会長を務めていたおかげというべきか、退学ではなく卒業という形を取らせて混乱を回避、教師として抱え込むことで処分相当とした。

 ゆくゆくはユーノシオ大学管区への進学を考えていたそうだけど、すべて断たれてしまったわけだ。

 アオイさんも卒業という扱いにはなったものの、エスカレア特別区に留まることを命じられてしまった。そして学園側から行動を監視される生活を強いられることになる。


「ま、監視役は私なんだけれど。説得力がないわよねー、いくら学園の教師だからって」


 クリス先生はともかく、アオイさんは悪さをするような人じゃなさそうなのに。

 何があったんだろう?


「メイのバカのせいよ。本当にバカよ、バカバカ」


「ああ、なるほど」


「何がなるほどなのよチビッコ!」


 どうせメイ先生の挑発か口車に乗せられたんだろう。『オメーがいなくてもひとりで行く』『恐がりのいくじなし』とか、『止めない時点で同罪』って言ってそうだよなぁ。


「学生時代からクリス先輩には可愛がってもらいましたから。それに今の仕事だって、本当に気に入ってるんですよ」


「えへへぇ。あんた昔から料理上手だったもの。天職よ、天職。あはははは!」


「クリス先生が言っても失礼なだけだってば!」


 アオイさんだって強く言い返してもいいところなのに、いい人すぎるんじゃない?


「今はお酒と料理を振る舞うことで、頑張っている先輩の支えになれば喜ばしいことです」


 今まで積み重なったストレスを吐き出すような飲みっぷりのクリス先生と、優しく微笑みながら付き合うアオイさん。

 夜は深まっていき、そしてお客はやってくる。


「ラドくん。あたしたちお手伝いしようよ」



 導魔器の街灯が夜道を照らす帰り道。

 酔いつぶれたクリス先生を背負いながら、改めて魔法の便利さを実感する。復興作業という名目で灯りが設置されたんだ。


「暗い夜道で手をつなぎながら歩くのも好きだったよ」


 星が輝く夜空を見上げながら、レナが残念そうにつぶやいた。


「魔法はぁ、便利らけろぉ……頼りっぱなしもラメって、よくわかっられしょお。いい経験ができらと思っれ、頑張りなしゃい…………」


 魔法至上主義を掲げるマジェニア学園の教師が放つ言葉としては許されるものじゃない。だけど、だからこそ重みがある。


「んふぅ、…………わ………た……………」


「お姉ちゃん、何か言った?」


「……うぅ……ん…………」


 ボクの首筋にかかる寝息がくすぐったい。


「…………ねぇレナ。ボクも、もう少し魔法学の勉強をしてみようかな」


「ふぇぇ? どうしたのラドくん?」



 ソードシステムはフェイリアの秘密。

 沈黙の魔法を打ち破るメテオ魔法はレナの秘密。

 すべての魔法を跳ね返すボクの秘密。



 幸いにもマジェニア学園で学ぶ機会に恵まれたんだし、仲間もできた。

 優しくしてくれるみんなと一緒だったら、秘密も隠し続けられると思う。


「私みたいに魔法一辺倒になっちゃダメ」


 クリス先生は、ボクの耳元で確かにそうつぶやいた。

 その言葉はまだ、レナには秘密にしておきたいと思う。

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