エピローグ 2
──コンコンコン。
背後からノック音が響いてきたけど扉が開く気配がない。
察したクリス先生が大慌てで扉を開けると、車椅子のフェイリアが部屋に入ってきた。
「そなたら、待たせたのう」
黒を基調としたシックなセーラー服の装い。廃坑で出会ったマッドゴーレムも同じものを着ていた。先ほどの炊き出しでも多く見かけた、エクリル女学院の制服。
「その格好って!?」
「もう一度生徒に戻れと言ったのはそなたであろうに。どうじゃ、似合うじゃろ?」
「でもマジェニア学園じゃないの?」
「フェイラーが学園長をやっておるんじゃ、他の者共も遠慮するじゃろうに。第一、ワシが納得いかぬ。それに勉強などどこでもできるものじゃ。例えそれが暗く狭い廃坑の奥であろうとな、カッカッカ」
相変わらずの独特な笑い声を耳にしながら、静かにうなずくフェイラー学園長から察するに諸々の問題は解決したんだろう。
「重ね重ね、ラド君には感謝している。姉上を救い出せたのも君のおかげだ。エクリル女学院への入学を決定づけてくれたのも、君の助言があってこそだ」
ここまでみんなから褒められて感謝されると不安になってくる。
「他の者たちへはすでに伝達済みだが、ラド君の功績に免じて退学には処さない」
ボク以外のみんなは結論を知っていたんだ。だからみんな優しかったんだと思えば報われたんだろうけど、他人事だと感じる気持ちもある。
「詳しく報告は聞いておらぬが、聞けばラド君とレナ君の両名は、マジェニア学園に入学を決めたばかりというではないか」
「はえあ? レナはそうだけど、ボクは入学してな……」
「ラド、お前疲れてんだよ! あれだけ動き回ったからだな、な!?」
「そっ、そうよ! 入学早々いろいろあったもの!」
「うんうん、これから同じ学び舎でラドと共に勉学に勤しめるなんて、なんて幸せなんだろう!」
みんなのぎこちない言動の意図はなんだろう?
それはおそらく、ボクがマジェニア学園の生徒という立場でなければ『退学に処さない』理由がなくなってしまうからだ。
クリス先生はとぼけた顔をして目を合わせてくれないし、あながち間違ってはいないだろう。
「ただし、相応の罰は受けてもらわねばならぬ」
「なっ、俺様たち、ボランティア活動まで命令されて、しぶしぶやってんだぞ!?」
真っ先にたてつくカイザーをジュディスとジュディアが必死で止めた。ここで手を出してしまえば処遇が翻されてしまうかもしれない。だけどそのふたりでさえ不安と不満が顔に出ている。
「最後まで聞きなさい。君達は全員、クラス替えとする」
「クラス替え!?」
「編入先は新設するXクラス。そして担当教師は…………入ってきなさい」
学園長室に隣接する準備室から、小柄な女の子が浮かない表情をしながら出てきた。
「よう、オメーら……まぁ、よろしく頼むわ」
「メイセン!?」
「メイちゃん先生が担任に格上げなの!?」
「相変わらず可愛いなあ。ぼくはきっと幸せ者だ」
メイ先生って、本当に先生だったんだ!?
クラスの担任教師になるって、ひとつのステータスなんじゃないかな?
「あ。クリス先生、悔しそうな顔してる?」
「聞こえてるわよチビッコ……」
形式的ながら即座に辞令証書の授受が行われて、メイ先生以下、みんなXクラスの所属になった。
なぜかボクまで一緒に。
「ラドくん、良かったね。フェイちゃんも一緒のクラスになれたらよかったのに」
「ふん、ワシはあんな場所を教室にしとうないわ。あとフェイちゃんはやめろ」
「あんな場所?」
「うむ。それは追々……として、この際じゃからフェイラーに代わり、全員に告げておく」
フェイリアからの話はふたつあるという。
まずはXクラスが新設された経緯。
エスカレア特別区を守護しているソードシステムは完璧なものであるはずだった。しかしレナには無効で、ソードシステム・ゼロが展開されていてもメテオ魔法は繰り出された。
また、魔法至上主義を掲げるエスカレア特別区においてボクのリフレクト能力は特別視する必要があるという。
魔法が効かないってことは、言い換えればどの魔法よりも強いって考えだ。
「ソードシステムの秘密を知った以上は本来ならば退学もの。しかも退学後も永きに渡って監視が付く息苦しい人生を歩まねばならなかったところなんじゃ。それをXクラスひとつに寄せ集めて隔離するだけで済ませてやろうといっておる」
「寄せ集めだと!?」
「隔離だなんて!」
「よかった、ぼくたち恵まれてるんだ」
「問題児は一箇所にまとめた方がよいからのう。そうでもせねば、今まで処された者共も納得いかんじゃろうて。なぁクリスよ、そうは思わぬか? カッカッカ」
言い返すこともせず苦笑いを浮かべるクリス先生。
ここはボクたちの代弁者として、教師として、強く否定してもらいたかった。
「話はわかった。退学免除ってならペナルティも呑むしかねぇ。ソードシステムも、ラドとレナの秘密ってのも言いふらすつもりはハナからねぇよ」
そして話はもうひとつ。
「このフェイリア・セドリクスはフェイラー・セドリクスの孫という設定じゃ。この秘密は先ほどに比べれば些細なことかも知れぬ。じゃが、間違っても口外せぬように。命が惜しければ…………な?」
子供にしか見えない容姿にそぐわない鋭い目つきで脅しても怖さは感じない。だけど大切な秘密事項であるということはみんな理解したはずだ。
「ここにいる全員が秘密を共有することとなった。しかと弁えて学園生活を送るのじゃぞ」
カッカッカという笑い声は何度聞いても独特すぎて、子供の容姿に似合わず不安にしか思えないんだけどな。




