沈黙の魔法 ─ソードシステム・ゼロ─ 2
キャンドルを眺めて顔を寄せ合い、知りたいことを親切丁寧に教えてくれた。
それでも疑問を解決していくにつれて少しずつ会話が途切れてしまう。
「お疲れですか。しばらくお休みになられたらいかがでしょう」
カイはゴーレムだから休息も睡眠も必要ない。それなのにボクだけ休むのは気が引けた。
「…………あのね、カイ。実はボク」
カイはいろいろなことを包み隠さず教えてくれた。
恐怖と不安に駆られた時に優しく抱きしめてくれた。
だからボクも正直になるべきだと思う。
マジェニア学園の入学試験を受けて落ちてしまったこと、そもそもボクは旅人で冒険者であること。退屈しのぎのおしゃべりだけど、本音を言えば眠るのが怖かった。
大したことのない内容だったのに、外の世界を知らないカイには新鮮だったらしい。今までの冷静沈着なイメージから変わって、絵本を読み聞かされる子供のようにボクの話を聞き入っていた。
「……………………というわけでボクはエスカレアにやってきたんだ」
「なるほど。成り行きとはいえ…………つまり、好きなのですね」
「す、好きって!?」
「おや、違いましたか」
「そ、それはその、でも……うん、好き、だけどさぁ」
「ゴーレムのわたしには理解し難い感情ですが」
「ちょっと、ボク自白しちゃったじゃんか! 絶対に、絶対に秘密にしてよね!!」
「わかりました。それにしても本日は地上からの来訪が遅いですね」
「ねぇ、本当にわかってる!?」
来訪者が来ない日もあるし、今日のトラブルで危険だと判断したのかもしれない。最悪長期戦も覚悟の上で、お言葉に甘えて仮眠を取ろうと思う。
「ね、ボクを置いてどこかにいかないでね?」
冷たい地面に横たわろうとした時、カイが膝を突き出して滑り込ませてきた。
「え。ってコレ、膝枕!?」
「人間が眠る時はこうするのだと、いつも命令されております」
「誰から聞いたの、そんなこと」
キャンドルを消して眠りにつく。下心を抜きにしても膝枕はありがたかった。温もりを感じられる間はひとりぼっちじゃない。
それでもやっぱり眠りに落ちるのは怖い。
浅く眠って目が覚めて、また眠る。熟睡なんてできるわけがない。
「…………カイ、いるよね?」
「はい。まだ一時間も経過しておりませんよ」
問いかけるたびに律儀に返事をしてくれる。ほんの少し休んだだけでも、緊張状態だからか眠気が覚めてしまった。
「ね、カイっていつもフェイリアとふたりきりなの?」
「はい。わたしは他のゴーレムとは違い、フェイリア様の世話をするために存在しております」
「そうなんだ。ここにはどれくらいいるの? 一ヵ月くらい?」
「フェイリア様はラド様と同じくらいの容姿で子供のような見た目になっておりますが、かれこれ……」
「オーイ居んのかーって、おめでてーなオイ!!」
暗闇の中、突然光に照らされた。顔どころか姿すらおぼろげにしか見えないけど聞き覚えのある声。それでも急な来訪に驚いたボクは膝枕の格好のまま固まってしまった。
「なんだー? まさかと思って助けにきてやったっつーのに、まさかのお楽しみ中かよ」
「メイ……先生…………?」
「これはいつもメイ様に施していることですが、問題ございましたでしょうか」
「なっ、アタシはいいんだよ!!」
カイが言っていた『定期的にやってくる来訪者』とはメイ先生を指していた。
今日のように来訪が遅くなった時は膝枕で仮眠をするという。
「アタシのような乙女が硬い地面で寝られるわけねーだろうよ」
なぜメイ先生がこの場所を知っているのか、頻繁に通う理由が気になるけど、今はそれどころじゃない。
「どうしてオメーひとりだけ残ってんだ。他の連中は学園にいるっつーのに」
「無事なんだね!? 瞬間転移でみんないなくなっちゃったんだけど、ボクには効かなかったんだよ」
「アァン? 何言ってんだオメー、意味わかんねーぜ」
「ここはわたしから説明した方がよろしいみたいです」
リフレクトの秘密を知った時こそ驚かれたけど、フェイリアがいなくなった事実を含めてすんなりと受け入れてくれた。
それにしても。
この場所のこと、ソードシステムのこと、フェイリアの存在のこと。すべて秘密事項のはずなのにメイ先生はすべてを知っている前提で話をしている気がする。
「メイ先生もいろいろ知っちゃったんだから、退学に……」
「こんな場所、とっとと帰るぜ。カイ、オメーも一緒だ。そのでっけージェムストーン、持てるか?」
「わたしはフェイリア様の世話をするために創られた存在。許可なく身勝手な行動をとることは許されておりません」
暗闇に怯えるボクのそばにいてくれた。
眠る時は膝枕をしてくれた。
そんなカイの口から『創られた存在』なんて言葉が出ると、何とも言えない気持ちになって胸が締め付けられた。
「かーっ、融通の利かねーヤローだぜ。いいか、フェイは地上にいる。ソードシステムは停止中だ。動かせるのはフェイだけ、つまり…………わかるよな?」
「……………………ジェムストーンを地上に、承りました」
「じゃー行くぞ。おいラド、いつまで膝枕してんだよ!」
心地よい感覚が終わりを迎えて残念な気持ちのまま立ち上がると、薄明かりに照らされたメイ先生の顔がはっきり見えた。
ほくそ笑むその表情は、何だかものすごく悪人顔になっている気がした。




