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秘密のメテオとリフレクト  作者: Flying Bear
沈黙の魔法 ─ソードシステム・ゼロ─
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沈黙の魔法 ─ソードシステム・ゼロ─ 1

「……」


「…………」


「……………………あの」


「うわあああああああああっ!!」


 真っ暗闇の中、不意にかけられた声に驚いて思わず悲鳴をあげてしまった。

 廃坑全体があんなにも明るかったのに、今ではまったく光を感じることができない。


「だ、誰?」


「カイです」


「え……っと、どこ、どこにいるの?」


「すぐ目の前におります」


 ボクの腕を掴んでくれたおかげで何となく距離感がわかる。手に触れたフリフリの素材は、メイド服のお姉さんだ。


「ごめん、ごめんね。目が見えなくて、暗くて、こ、怖くて」


「構いません。この暗闇です」


 繋いだ手から伝わる感覚は柔らかく、温かい。ここで離してしまったら二度と会えなくなりそうな不安や恐怖すら感じて強く手を握った。


「ねえ……何が起きたの? みんなは?」


「実はわたしも驚いております。今ここには他に誰もおりません。皆様全員、消えてしまいました。フェイリア様も」



 みんな消えてしまった?

 カイザーもジュディスもジュディアも。

 そして、レナも。



「どうしよう……どうしたらいいの!?」


 気が動転したボクが暴れないように、両手で包み込むように力強く抱きしめてくれた。カイザーやジュディスが鎮圧された時の乱暴さはない。優しく、柔らかさに顔を埋めさせられたボクが冷静さを取り戻すまで『制圧』は続いた。


「…………落ち着きましたか」


「うん、ありがとう」


 ずっとこのままってのが本音だけど、それじゃ状況を変えられない。呼吸を整えて考えを整えてみよう。

 少しでも光があれば壁や地面の起伏がわかったのに。

 火を起こすにも焚き木に使える可燃物なんて何もなかった。

 つまり…………動かず助けを待つのが正解?


「憶測ですがフェイリア様も含めて、全員無事でしょう」


「ふ、ふぅ……それは、どうしてわかるの?」


 暗闇による恐怖で昂る気持ちを押し殺して、落ち着いて問いかけてみた。


「皆様がこの場からいなくなる手筈でしたが、問題はフェイリア様ご自身までいなくなってしまったことです。しかし、フェイリア様の身に何かが起これば、わたしにはすぐにわかるようになっております」


「それって双子みたいな?」


 道すがらジュディスとジュディアから、双子ならではの体験談を聞いていた。

 離れた場所でも気持ちが通じ合ったり、痛みなどの感覚がわかったり、まるで魔法のような不思議な体験を何度もしているそうだ。


「失念しておりました。非常時のために灯りがございます。少々お待ちください」


 マッチをこする音と、微かな硝煙の香り。

 キャンドルの柔らかな光が漏れてくると色んな気持ちが一気に吹き飛んだ。


「ありがとう、カイ」


「礼には及びません」


「ねぇ……カイってボクのことを敵だと思ってたりするの?」


「敵ではないと認識しております。エスカレアの生徒でしょうから」


 マジェニア学園への入学を断られたボクは思わず息をのんだ。部外者だったらどうなるんだろう。沈黙が本心をバラさないように話を続けるしかない。


「どうして落ち着いていられるの? 怖くないの?」


「この場所には定期的に人が訪れます。いずれ何方か来られるでしょう」


 そう言って木箱を漁ると、何かをボクに握らせてきた。


「チョコレートです。落ち着いて体力を温存すべきです」


 木箱はボクが運んだもの。なぜそれがここにあるかを考えるより、今はカイの言葉に従ったほうがいい。

 気持ちとお腹が落ち着いたボクは、カイとたくさんおしゃべりをした。


「フェイリア様は、この場所で崩落事故に遭いました」


 研究のためにジェムストーンを探していて、ここに辿り着いた。

 ひとりで潜入したため救助も期待できず、生き延びるために選択した究極の手段が、自らの身体をジェムストーンに委ねることだった。

 誰もが認める天才ウィザードだからこそできる芸当。


「ジェムストーンの魔力で生命を維持しつつ、わたしたちゴーレムを創り上げたのです」


「そっかぁ。ずっと真っ暗闇でひとりぼっちだったんだね。ボクと違って……って、カイってゴーレムなの!?」


「ええ。わたしはゴーレムです」


「だ、だめ、だめだよ! 死んじゃう、カイ、死んじゃう!!」


 ボクのリフレクトは魔力が込められた存在に触れただけで破壊する。だから魔物相手でも負けないし、現にここまで来る途中でもゴーレムを倒している。


「だからボクに触れちゃダメ。カイも死んじゃうよ!」


「仰る意味を理解しかねます。わたしは先ほどからラド様に触れているではありませんか」


 そうだ。暗闇で手を握ってくれたし、抱きしめてくれた。

 そして今、また手を握ってくれる。


「この通り、わたしは無事です」


 直接肌を重ね合わせてもカイに異変はない。もしかして冗談を言ってるだけで、本当は人間なんじゃない?


「今まで数多くの研究者たちがフェイリア様を救い出す方法を思案してきました。しかしどれも安全で確実なものではありませんでした」


「ジェムストーンを直接壊せばよかったんじゃないの?」


「融合して一体化した時点で身体の一部になりましたので、破壊は即ち、死を意味します」


 今まで不可能だったフェイリアの救出がこのタイミングで成されたというのなら、原因はボクにあるのかもしれない。

 壁に埋まったジェムストーンには窪みがなく、フェイリアの存在がなかったかのようだ。


「フェイリアって魔法を使ったんだよね。何をしたの?」


「瞬間転移の魔法です。今まで何度か使用しておりましたが…………なるほど、合点がいきました」


「が……てん? でも、でもさ、そんな魔法が使えるなら自分に魔法をかければよかったんじゃないの?」


「不可能だったのです。フェイリア様が扱う瞬間転移は発生放出型。自らに向けて使うことはできなかったのです」


 難しい言葉が多くて半分も理解できないけど、自分自身にかけられないってことかな。ボクの思いついた稚拙な考えが実行できていれば、とうの昔に脱出してる。


「おそらく、ラド様に向けた魔法が跳ね返ったおかげでしょう。しかし…………困ったことになりそうです」


「困ったこと?」


「魔物です」


 今まで出会ったマッドゴーレムはフェイリアが創り出したもの。

 ボクたちのような侵入者を拘束するためでもあるけど、一番の目的は魔物退治のため。


「魔物ってスライム? たくさんいたよ、ドロドロの」


「廃坑内に留まっているうちはさほど脅威ではありません。外部に流出して環境変化に適応すると、強大な魔物へ変化することもあるのです」


 つまりボクたちが倒してきたマッドゴーレムは、廃坑だけでなくエスカレア特別区全体の守護者だった。


「魔物の発生が危惧されますが、この暗闇です。今は助けを待ちましょう」


「魔物って…………どういうこと?」


「ソードシステムが無効になっているということです」


「ん……うん?」


 カイの言葉が理解できなかった。

 マッドゴーレムを倒してしまったこと、フェイリアがいなくなってしまったことで、どうしてソードシステムが無効になって魔物が発生するんだろう?

 幸い時間はたっぷりある。カイの助けを借りて頭の中を整理したい。

 ソードシステムは、魔力を封じ込めるものではない。

 一定以上の魔力を頭打ちにさせる安全装置。

 オーバーフローした魔力は一箇所に集められて処理される。

 その処理とは、フェイリアとマッドゴーレムの生命維持への転換だ。


「魔法学の発展により、強力な魔法を扱う人材が増えております。ただでさえ近年は生徒数も増えておりますので」


 廃坑内が無駄に明るかったのは、大量に余ってしまった魔力を消費するため。

 それでも魔力が余ってしまえば、それが魔物の発生源になってしまう。

 そういえばレナも、似たようなことを言っていた。

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