新たな冒険、開始! 10
「さて。平和的解決のあとで早速じゃが」
殺される未来が待っているのに何が平和なのか。ここは強く異議を唱えたい。
「ちょっと待って。あんたが埋まってるのって……ジェムストーンじゃないかしら!?」
「左様。緑のパンツ丸出しの阿呆でしかないと思ったが、察しはよいみたいじゃの」
「あっ、阿呆って!?」
ジュディスが吹き出すとカイザーも笑いをこらえて痙攣している。処刑の順番はこれで決まりだ。
「ボクはラド。キミは誰?」
ジュディアとジュディスが痛みを伴うスキンシップに興じ始めたうちにボクが前に出た。敵意を露にしていないうちに、聞くべきことを聞いておきたい。
「ワシはフェイリアじゃ。そなたは育ちが良さそうじゃな、とても良い顔をしておる」
「そ、そそそ、そう? えへへ」
褒められ慣れていないのにこんなことを言われてしまえば、嬉しさのあまり顔をほころばせてしまう。
フェイリアはきっと、いい人だ。
「ラドくん……?」
「ラド、あんた……」
殺気混じりの視線で我に返る。危うく順番が繰り上がるところだった。
「あのねフェイリア。ボクたちはここに迷い込んで、エクリル女学院の制服を着た女の子に仲間が連れ去られてしまったんだ」
「その仲間というのが、威勢がよくて……」
「うん」
「ガラが悪くて、可愛げもなく……」
「うんうん」
「間違いないよ姉さん」
「可愛げのカケラすらないもの」
「ラドくんにはたくさんあるんだけどな」
「お前ら全員、散々言いやがってぶっ殺すぞ!!」
目の前に本人がいるのに散々な言われよう。幸いにも身動きがとれない状態なので反撃されることはない。
「こやつがそなたらの仲間というのなら、縄を解いても構わぬさ」
フェイリアの余裕はつまり自信の表れ。
束になって襲いかかってもメイド服のお姉さんに返り討ちに遭うだろうし、逃げ出しても容赦なく制圧される。
「どうした。ほれ、そこの小娘。仲間だというのなら助けてやらぬのか?」
ジュディアだって同じことを考えているだろうし、罠かもしれないと勘ぐっていた。
「いや……でも全員殺すって言ってるし、拘束されてる方が大人しいし、逃げる時に生贄にできるし…………そもそも仲間かと言われれば…………」
「何をブツブツ言っておる。縄を解かぬといういうのか、それもまた賢明じゃのう。ここは誰にも知られてはならぬ場所。どうしたところで全員生きては還せぬからのう。カッカッカ、カッカッカ!!」
「俺様なんぞ食っても旨くねぇぞ! 柔らかくて喰いやすいジュディアの方が脂が乗ってうめぇに違いないからな!!」
「うげ。何でわたしが柔らかいとか知ってんのキモすぎてウケる」
「違うよ姉さん。知ってたら言えないはずだよ。姉さんに柔らかいところなんてどこに」
あ、処刑が執行された。
「カッカッカッカ!! ワシの存在におののく愚民どもの叫び、滑稽じゃのう。して、ラドと赤髪のおなごや、ふたりはやけに冷静なようじゃが?」
「ボク?」
「あたし?」
レナと顔を見合わせて首を傾げた。
状況は理解しているけど、本当に生きて還れないとは思えないんだよね。
「コイツらガキなんだ。大人がどうにかしてくれるだろうって、甘ぇ考えしてんだよ!」
「でもどうにかなるかなぁって。ね、レナ」
「うん。あたしも……なんとかなるかなぁって。ね、ラドくん」
「何を強がりを。無理じゃ無理無理。魔法を使うつもりでもおるのか? その時は文字通りガキンチョの手を捻るように封じてくれるわ。魔法封じはワシが最も得意とするものじゃて、カッカッカ、カッカッカッカ!!」
大切なことをバラしてくれたけど、そもそも魔法が使えないんだから意味がない。
魔法を使っても封じられ、物理攻撃はメイド服のお姉さんに封じられる。
でも、レナだったらいける気がするんだよな。
「…………フェイリア様。お戯れはほどほどに」
「ふん、いい気味じゃ。侵入者に対する罰じゃよ」
悪者ぶっているフェイリアだけど危害を加える様子はなさそう。メイド服のお姉さんに窘められているくらいだし、本気だったら悠長に会話なんてしないはず。
「ねぇフェイリア。ところで、どうして身体がジェムストーンに埋まってるの?」
胸から下がジェムストーンに飲み込まれている。屈折してわかりにくいけど裸だったので、思わず目を背けた。
「うっ…………ん、これは?」
視線を落とすと足下には銀紙があり、拾い上げると仄かにチョコレートの香りがした。
「ラドよ、忘れろ」
みんなに悟られる前に銀紙を丸めてポケットに突っ込む。側には木箱のフタが置いてあり、これはメイ先生に頼まれて廃坑まで運んだものだった。
「さて。そなたら全員…………よく聞け」
見た目はボクと変わらないくらい子供なのに、不思議と貫禄と威圧感がある強い口調にみんな押し黙って口をつぐんだ。
「数年に一度、そなたらのようなガキンチョが忍び込んできてのう。まったく困ったことじゃて」
この場所は普段、入口にマッドゴーレムが配置されて入れない。今の時期だけは造り直しで撤去されているけど、ボクたちと同じ思考と行動をする生徒は他にもいるようだ。
「ラドに選ばせてやろう。良い話と悪い話、どちらから聞きたいんじゃ?」
「んー、良い話!」
「うむ。そなたらの命までは取らぬことを保証してやろう。安心するがよい」
最悪の結果は何かといわれれば、全員ここで命を落とすこと。
そうじゃないと約束してくれるのはありがたいんだけど、何の解決にもなっていない。
「そして悪い話じゃが…………残念じゃのう、そなたら全員、退学じゃ」
「うん????」
複雑な気持ちが入り交じって、一瞬頭の中が真っ白になってしまった。
命を取られることはなく、在学どころか入学すらしていないボクにデメリットはない。
つまり、ボクだけは事実上お咎めなしってことなのかな?
「ちょっ、ちょっと待てよ! どうしててめぇにそんな権限があんだよ!!」
「そ、そうよ、納得できないわ!」
「はぁー……助かったぁ…………」
カイザーとジュディスの反論は当然。ジュディスだけはハッピーエンドを迎えたような穏やかな表情を浮かべている。
彼らには悪いけど、問題はレナだ。
まだ入学していないから退学になりません、なんて都合のいい話にはならないはず。入学取り消しの可能性が高いと思う。
「黙らっしゃい!! 決定事項じゃ、詳しい処分はあやつに委ねるとしよう」
「あやつ?」
フェイリアはみんなの訴えに耳も貸さず、眼を閉じて口を動かし始めた。か細い囁き声で言葉を聞き取れない。
口元だけ動かしているように見えるけど、これはきっと魔法の詠唱だ。
「……………………そなたらとは、ここでお別れじゃ」
「え……うわっ!!」
まばゆい光が部屋中に満ち溢れて、立っていられず眼を閉じてしゃがみ込むしかなかった。瞳を閉じても突き刺さってくる強い光に耐えながら、カイザーの、ジュディスとジュディアの、そしてレナの叫び声が直接脳裏に響いてくる感覚に襲われた。
しかしそれも、途中でプツっと不自然な感じで途切れてしまった。
「あ…………レナ、レナ!? みんな!?」
視力が戻ったはずなのに、目を見開いても真っ暗な静寂に包まれていた。まぶたを閉じたままだと錯覚するほどに何も見えない。
何も見えず何も聞こえず、まるで石の中にいるかのようだ。
「う…………うぅ……」
視界はまったくないけど身体は動く。
両足は地面に接地しているし、しゃがんで手をつけばゴツゴツした硬い床がある。
しかしいくら叫んでも返事はなく、漆黒の恐怖に虚脱したボクは床にへたり込んで途方に暮れるしかなかった。




