新たな冒険、開始! 9
「どこだろう、向こうかな!?」
さらに奥へ駆け出そうとした時、後ろからジュディアの叫び声がこだましてきた。
「ま、待ちなさいってばーっ!!」
「なっ、なに!? 向こうだよーっ!!」
「ハァ、ハァ…………はぐ、はぐれたら、元も子もないでしょ!」
レナとジュディアはすぐに追いついてきたけど、息を切らしたジュディスを待っているうちに完全にカイザーを見失ってしまった。
「いいかしらラド。いくら助けるためとはいえ、パーティで行動する以上は単独行動は危険なの。慎みなさい」
「そっか……ごめんなさい」
「わかればいいのよ。カイザーなんかを助けるために二次災害に遭うなんてゴメンだわ。もっと自分を大切にしなさい。わかった?」
「え? あ……あぁ、うん?」
ジュディアの言い分はもっともだ。
ミイラ取りがミイラにならないよう、冷静な行動が必要なんだけど…………もうちょっと、気の利いた表現はなかったのかな。
「イーノって子が言ってたわよね。『貴方たちを拘束する』って。つまり狙いはカイザーひとりじゃないわ。闇雲に突き進めば全員イーノの餌食よ」
「全滅なんて……怖いよ姉さん」
「カイザーさんでも歯が立たないなんて、相手は強敵だよね」
二手に分かれれば効率的に捜索できるけど合流できる確証なんてない。戦力を考えるとこのままパーティで行動したほうがいいだろう。
だとしたら、すぐにでも動き出すべきだ。
「…………ラド。ちょっと、聞いてる?」
「ふぇ、なに?」
「だからぁ、今日のところは帰るわよ。カイザーだって子供じゃないの。自分のことくらい自分でしてもらわないと」
「でも、それって」
「よく考えなさい。そもそも相手は本当にゴーレムだったのかしら。エクリル女学院の生徒だとしたら食べられることもないし、せいぜいこっぴどく怒られる程度よ。でも本当にゴーレムだったとして、奥に進むにつれて相手がたくさんでてきたら? わたしたちだけでどうにかできると思う?」
ジュディアの言い分はやっぱりもっともだ。
単体で攻めてくるのならボクでも相手ができるけど、複数で待ち伏せされたら状況はさらに悪化する。
何よりボクたちは、長期戦を想定した装備をしていない。
「そう、だから帰ってご飯を食べて、シャワーを浴びてサッパリして、ふかふかのベッドで心ゆくまで眠ってから…………考えましょう」
いいのかな?
それでいいのかな?
「そ…………それ……まぁ、いっか…………」
「良くねぇだろおめぇら!!!」
突然、壁に隠された扉が開くとカイザーの叫び声が大きく響き渡った。見失っていたカイザーはすぐ近くで拘束されていて、ボクたちの会話はすべて筒抜けだったらしい。
でもそれ以上の驚きがあった。
「皆様、中へお入りください」
ボクたちの目の前にはメイド服姿のお姉さん。
こんな場所にメイド? 廃坑の奥にわざわざ隠し扉?
罠としか考えられないんだけどカイザーが捕らえられている以上は大人しく従うしかないんだろう。
「今年は意外と早かったのう。ほほう、全部で五人とは大量じゃな」
ロープで縛り上げられているカイザーを気にするよりも先に、驚くべき光景に目が釘付けになってしまった。
声の主である幼い女の子が、壁に埋まっている。
「あのっ、だ、大丈夫!? 崩落したの!?」
近づいてよく見ると、透き通った濃紺の水晶石と下半身が一体化していた。埋もれているわけじゃない、まるで飲み込まれてしまったかのようだ。
「あんたが魔物の親玉ね! そうじゃなければ悪魔よ!!」
「初対面で失礼な小娘じゃな。立ち入り禁止の廃坑に侵入する輩などに言われとうないわ」
「カイザーを捕まえて食べようとしてるんでしょう!? あんなのでも顔だけは少しいいヤツだったのに……。地獄でカイザーに詫びなさい!!」
「俺様を地獄に落とすなボケが!!」
ジュディアが弓を構えようとした瞬間、メイド服のお姉さんが一足飛びで腕を払った。そしてカイザーと同じく背後に回り込んで持ち上げてしまう。
「ちょっと、痛い、痛いってば!!」
身動きが取れない状態で激しく暴れたためスカートがめくり上がってしまった……らしい。そう、ボクからは見えない位置だったのが残念だ。
「うわぁ……姉さん…………」
ジュディスが苦虫を噛み潰したような表情でうな垂れた。ここはボクが助けないと。
「うわっ、真っ暗!」
視界がなくなったと思った瞬間、そのまま後ろに引きずり倒された。気がつくとレナの顔が目の前にある。
「ラドくんダメですよ?」
普段見せない素早い動きに対応できなかったのは油断だったけど、これが敵だったらボクの身は危うかったに違いない。
「おてんば娘ごときが、顔に似合わず緑とは笑わせてくれるのう」
「うっさいわね! 色は関係ないでしょ、早く下ろしなさいよ!!」
「それがお願いする態度なのかえ? 謝意を示すにも相応の言動があるじゃろう」
カイザーは捕らえられているしボクとレナは動けない。ジュディスが歯向かってもすぐに返り討ちに遭いそう。
「ご、ごめんなさい……」
助けはアテにできない。これ以上恥をさらしたくないと観念すると、いとも容易く解放してくれた。立ち上がった時にはすでに遅く、着衣の乱れも直っている。
「……男子全員、あとで殺すから」
ボクは拝めなかったし、ジュディスの顔は引いていた。唯一、カイザーだけが特等席だったのに。
あとで感想を聞いてみよう。




