新たな冒険、開始! 8
みんなの表情から少しずつ余裕がなくなってきた。
せっかくのマッピングもどこかで間違えてアテにならず、カイザーを先頭に感覚だけで進んでいく。
「横穴が入り込んでいる上に高低差もあるからな。こんなん仕方ねぇぜ」
こんな状況で一番にキレて怒鳴り散らすキャラだと思っていたのに、ジュディアを気遣う優しさに驚いた。そりゃあ、こんな時に責任転嫁の言い争いをしても事態は好転するわけないんだけど。
「ねぇねぇラドくんラドくん」
「なに?」
「カイザーさんってラドくんに似てない?」
ボクはカイザーみたいに大柄でもなければ横柄でもない……つもり。
そう、あくまでそのつもりだと思っているけど、意識しないうちに何かやらかしてしまったんだろうか。
「こいつが!? 俺様と!? どこがだ!?」
「そうよ。こんなに大人しくて可愛らしいラドみたいな子を野蛮なチンピラと一緒にしちゃダメよ」
「ラド、レナちゃんに悪さでもしたのかい? 心当たりがなくても、とりあえず謝っておいた方が身のためだよ。ぼくだっていつも姉」
今のボクは疲れて横たわるジュディスを気にしていられない。
「……レナ。ボク、何かした…………?」
「違う、違うのラドくん!」
レナによれば、状況に流されなかったり、余裕がある雰囲気が似ているらしい。
残念ながらボクはいつも流されてばかりだし、自分自身で精一杯だからジュディスを見殺しにしている。
「それは妄想か勘違いよ。カイザーはそこまで考えてないもの。そもそもトラブルの種をまき散らす張本人だし」
「んだとコラァ。てめぇのミスを棚に上げて調子こいてんじゃねぇぞ」
「元はといえばあんたが好き勝手に動き回るからじゃない。何も考えずにアタマ空っぽのゾンビみたいな行動ウケる」
夫婦漫才がまた始まった。
ボクとレナに止められるはずもないので、白目を剥いて寝ているジュディスを起こして助けを求めた。
「うぅ……ん。ラドも無茶言うよね…………ぼくにできるわけないじゃないか」
カイザーとジュディア、ジュディス。
気の合う三人が今までやってこられたのは、ひとえにキャラクターの相性と役割が合っていたからだと思う。
ジュディスは清涼剤のような存在で、カイザーとジュディアをつなぎ止めるバランサーだと踏んでいた。
「わかったよ。ああそうそう。ちょっと思うことがあるんだけれど、みんな聞いてくれないかな」
「あぁん? んだコラジュディス」
「アンタつまんなかったら回収した制服着せて旧市街の肉屋に売り飛ばすわよ」
あれ?
ジュディスには優しく接している気がしたんだけど違ったのかな。ジュディアが知ってるマーケットも気になるけど。
「ゴーレムが何か言っていた言葉を覚えてるかい。『わたしは、るから』って」
「んなこと知らんな。叩きのめすだけで気にもしなかったぜ」
「確かに言ってたかもしれないけれど、それが何だっていうのよ」
「ゴーレムは人が造るものだけれど、知能はそんなに高くないっていうのが通説でしょう。ほとんどが、決められた場所で決められた行動しかできないからね」
「そらまぁ、奴らにとっちゃ俺様たちは侵入者ってことだからな」
「そう、そこなんだよ。廃坑に配備されているだけなら名乗る必要なんてないじゃないか。有無を言わさず排除すればいいんだから」
「確かになぁ。正々堂々とかヌカす騎士道でもあるめぇし」
「真っ先に奇襲かけてるカイザーが騎士道語っててウケる」
ボクだって今まで何度かゴーレムと出会ってきた。ウッドゴーレムやストーンゴーレムなんてものもあったけど、言葉を発するのは初めてだ。
「あたしとラドくん、旅の途中でゴーレム撤去のクエストをしたことがあるんだよ。ね、ラドくん?」
「路銀を稼がなきゃいけなかったからね」
大きくて強いゴーレムを無力化させるには多くの労働力が必要になる。物理攻撃で少しずつ壊していかなきゃダメなんだけど、ボクたちにかかればこの上なく美味しい仕事。
「たくましい奴だな。お前だったら一発で楽勝か?」
「あはは……。それで、ゴーレムの名前がどうしたの?」
最初に出会ったゴーレムっはたしか『ココハ』なんて言ってた。
次に二体同時にやってきた『イルナ』と『タイガ』。
カイザーのダサい技名で一蹴された『クニナ』。
そして今回が『ルカラ』だ。
「繋げて読むとさ。『ここ入るな、た……』」
「ちょっと待てジュディス。取り込み中に悪いが、ご新規さんのお出ましだぜ」
「いひゃっ!! おばけっ!!」
驚いたジュディスに力いっぱい抱きつかれて押し倒されたボク。ジュディアと間違えたわけじゃなく、偶然近くにいただけだ。
「ラ、ラドくん? そういうのだったら…………許します……けど」
「何言ってんのよレナ! バカジュディスも、ちょっと落ち着きなさいって!! カイザーがどうにかしてくれるから!」
「俺様かよ!? んなもんラドに任せりゃ一撃だろうが」
「あんた前衛でしょ、デカい図体は飾りなの!?」
言い争いをしている間に相手が一気に距離を詰めてきた。カイザーとジュディアの顔を興味深げに覗き込んでいる。
「なっ、なんだてめぇ。俺様に文句でもあんのかコラ」
「その制服、エクリル女学院じゃない。あなたは……」
「貴方たちは許可されておりません。貴方たちは許可されておりません」
話が通じる相手ではなく、歓迎はされていないようだ。
今までの泥人形よりもさらに顔立ちがはっきりしている女の子。そしてやっぱり、人間ではなさそうに思える。
「俺様たち、ちょっと迷子になっちまったんだ。話ができるなら早い、帰り道を教えてくれねぇか」
「貴方たちを拘束します。貴方たちを拘束します」
「ちょっと待てって、お前何なんだよ」
「私はイーノ。私はイーノ」
「おい、ちょっ……なっ!?」
瞬時にカイザーの背後に回り込み、両手で掴んで持ち上げた。必死で抵抗するもひっくり返った亀のように身動きがとれない。
「なんて怪力だ! ラド、助けてくれ!!」
イーノに向かって手を伸ばすより前に、カイザーを抱えたまま全速力で駆け出していく。重さを苦にもせず、かなりの速さで廃坑の奥へ消えていった。
「ま、まって!!」
慌てて追いかけるも道を曲がったところで見失ってしまった。カイザーの叫び声が徐々に遠くなっていく。




