新たな冒険、開始! 6
廃坑に潜入してからどれくらい経っただろう。
ずっと明るいままだから昼か夜かもわからないし、時間感覚すら麻痺してくる。
天井も高くて広々とした通路も次第に狭くなり、分岐を繰り返すアリの巣のような迷路になってきた。
「わかりやすく右ばっかり選んで進めないの!? マッピングだって簡単じゃないのよ」
「姉さんって右派? ぼくは左派なんだよね」
「俺様は気分派だ。直感を信じて進むぜ。この道、さっきの場所に繋がってねぇか。戻ってきてるぞ」
派閥ができるくらいマジェニア学園の生徒たちって探検に長けてるの?
「ええ!? どこで間違ったかしら」
少し進んでマップを修正、少し戻って再確認。その繰り返しで時間を取られるようになりカイザーがイライラしはじめた。そのストレスは今のところスライムに向いている。
「ねね、ラドくんはどっち派?」
「気にしたことないよ。適当ってわけじゃないけど、どちらかといえばカイザーに似てるんじゃないかな。レナは?」
「あたしは…………へへーん。ラドくんについていく派だよ」
一歩間違えれば遭難の危険性もある運命を委ねられても困るんだけど、今に限ればカイザーに委ねられている。
「あぁ? また何かいるぜ」
広場になっている行き止まりで人影を確認。慣れと明るさのせいで恐怖を感じなくなってきた。
「……クニナ。ワタシハ、ク」
「必殺スーパーウルトラファイヤーキィイイイイーック!!」
駆け足で奇襲をかけたカイザーの飛び蹴りが喉元にクリティカルヒット!
ゴーレムの頭部がちぎれて遠くまで転がっていく。
「必殺技を叫んだ割にはただのドロップキック、ダサすぎてウケる」
「やめなよ。本人はカッコいいと思ってるんだから黙っておこうよ、姉さん」
せっかくの勝利も、水を差されたカイザーは不機嫌な顔で戻ってくる。ネーミングセンスはどうかと思うけど、ヘソを曲げられても困る。
「こ、今度はボクも参戦するからね。でも今のゴーレム、何か言いかけてなかった?」
「さぁな。お前じゃ戦力にならねぇだろ、ガキは引っ込んでな。それで何だ、引き返して右に進めばいいのか?」
「右から来たんだから、分岐に戻って左よ左」
うん? 合ってる?
遊び感覚で探索をしているけど、こうなったらどこがゴールかわからなくなってきた。いつかどこかで引き返す算段をつけなければいけない。
「まったく。いつになったらお宝があるっていうのよ」
「本当だね。一攫千金を夢見てたんだけどな」
「俺様たち、またメイセンに騙されたんじゃねぇだろうな」
また?
そもそも入口付近まで荷物を運んだだけだし、カイザーたちが勝手に話を膨らませただけでお宝が隠されているなんて聞いてもいない。ここにきてようやく、前提を疑い始めた。
「レナは何のためにここに来たと思ってる?」
「あたし? やっぱり冒険でしょ。これだけの人数って初めてだし、楽しいね」
よかった。レナは欲にまみれた勘違いをしていない。
「冒険、冒険かよ……」
「わたしはただ、キレイな服で着飾って、美味しい料理をたらふく食べたいだけなのに」
「カイザーも姉さんも毒され過ぎなんだよ」
「自分のことを棚に上げて何言ってんの!? それと、毒そのものと一緒にしないで」
「なんだてめぇ、ケンカ売ってんのか」
カイザーとジュディアって思考や行動がそっくりだと思い始めてきた。だからこそ、似た者同士で仲がいい。何気なく、ふと、言葉を口にしてしまう。
「ふたりって息がぴったりで、お似合いのカップルだね」
「んだとコラ! こんなのを彼女扱いされてたまるかボケ!!」
「本当だわ! 最大の侮辱でしかない、一緒にしないで汚らわしい!!」
「お前の方が欲望むき出しで意地汚ぇじゃねぇか」
「乙女に向かってよく言えるわね。わたしだって告白されるくらいはキレイなのよ!」
「「「告白!?」」」
唐突な暴露にみんなの目が丸くなった。カイザーも初耳だったみたいだけど顔を引きつらせている。
「よ、世の中には……物好きもいるもんだ。夢や妄想じゃなけりゃ…………ジュディア。幸せになれよ」
「失礼極まりないっての!! 告白されたのは本当……なんだ…………けど」
あれ? ふたりはカップルじゃなかったのかな?
カイザーが嫉妬する様子もないし、ジュディアも強がっているわけではない。歯切れの悪さは照れ隠しでも、咄嗟に出たウソでもなさそう。
「…………あっ! ぼくが前にプリーストギルドで預かった手紙!? あの日は一晩中、ずっと難しい顔をしてたよね」
「何だお前、贅沢な奴だな。せっかくのラブレターも好みじゃねぇってか」
「違うの。好みの問題じゃなくて」
「お前の好みなんて顔か金しかねぇだろうが」
「そうじゃなくて。その……」
「何だぁ、結局妄想か、あぁ?」
「相手が…………エクリル女……」
「まてまてまて!!! 悪かったジュディア、みなまで言うな! その、なんつーか…………マジで悪かったな」
バツの悪さにちょっと用を足すと告げて、ジュディスを誘って奥に消える。
可能な限り、最大限、極限まで抑えたつもりだろうけど、反響というのは残酷なわけで。ふたりの笑い声が届くには十分だった。




