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アフター・ワクチン ――君打ちたもうことなかれ――  作者: 星香典
第二章 死んだはずの弟
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第二章 死んだはずの弟 02

 僕は夢を見ているのだろうか。2021年九月二十三日。弟の命日だった。


 弟は、二十二日に具合が悪くなり、検査したら陽性、そのまま入院した。そして、今日容態が急変、死亡した。ただ、午前中に僕にラインを送ってるはず。一字一句たがわず覚えている。それが、弟との最後のやりとりだったから。


 この日、弟が僕に送ったラインを、僕はこの時代の僕に送る。


「昨日は心配かけてゴメン。もう大丈夫。今朝は気分がいい。ほんとコロナ怖いぜ。兄貴も気をつけろよ(^^)」


 この時代の僕は忙しさにかまけて返信をしなかったんだ。ごめんな、裕二。両親を早くに亡くした僕たちは唯一の肉親だった。


――あ、ワクチン打つかい? 余りが出るから――


 医者の言葉が頭をよぎる。もしかして、弟はコロナで死んだんじゃないのではないか。ワクチンの急性副反応で死んだ。だとしたら、僕たちと同じじゃないか。


 改めて鏡を見る。そこには懐かしい弟の姿があった。2031年の僕の魂が2021年の弟の体に入り込んだ。そんなバカな。やっぱりこれは夢なんだ。寝ればきっと醒める。横になったが、頭が冴えて眠ることが出来ない。無為に、無情に時間が過ぎ去っていく。窓の外はだんだん薄暗くなっていった。夕方のチャイムが鳴っていた。


 枕元のスマホが震えた。


「ごめん、返信遅くなった。忙しくて。無事で何より。大事にしてくれ。いつ退院できるんだ?」


 兄からの、いや、この時代の僕からのライン。前の世界で、僕は弟のメールに返信しようと思っていた。文面を打とうと考え始めたところに、病院から電話がかかってきた。弟が死んだと。


 弟が死ななかったら、僕はこういう返事を弟に送っていたのか。


 ちょうど、夕食が運ばれてきた。看護師さんにいつ退院できるのか聞いた。このあと症状が軽快なら五日後だと言う。味の薄い病院食を食べながら、僕は僕に、「五日後だって」とラインを送った。


 九時の消灯まで時間があった。YAHOOニュースをスクロールする。そこには、ワクチンがいかに効くか、死亡者は未接種者、ワクチンの副反応が強いほど効果が期待、ワクチン接種が高齢者の感染を10万人以上・死亡を8,000人以上減少、コロナ第5波重症化は第4波より抑制=ワクチン接種が影響、新型コロナ重症者8割がワクチン未接種、などの十年前と同じ世界があった。ワクチン義務化への布石が淡々と打たれていた。ただ、ヤフコメまで覗くと、ワクチンへの疑念が書き込まれている。


 弟のアカウントを使うわけにも行かないので、アカウントを取り直し、ツイッターも覗いてみる。ワクチンへの疑義を唱える人たちはそれなりにいた。海津の言うとおり、ワクチンの危険性を指摘する情報はいくらでも転がっていた。十年前の僕が見たこのない世界が広がっていた。


 ワクチンによる明るい未来の裏側には、十分すぎるほどワクチンに対する疑義が溢れていた。ワクチンの危険性を指摘するものに、一つ一ついいねを押していった。ただ、


「反ワクチンの陰謀論信じている奴ら、ホントきもい。うちの姉も陰謀論にハマっちゃって、絶対打たない、あんたも打つなと迫ってくる。陰謀論者は頭狂っちゃってるよ」


 このツイートに思わずいいねを押してしまった。いいねは二百を越えていた。十年前の僕は、まさにこの投稿者と同じ考えだった。


 ほんと、陰謀論者はきもい。頭が狂ってる。陰謀論を信じて疑うことなく、ワクチンを打って、他人にもワクチンを薦めて、自分や他人の命を縮めていく。そして、自分が陰謀論の熱烈な信者であり、そのお先棒を担いでいることに、一ミリたりとも気付いていない。


 僕は早速ツイッターに書き込んだ。「ワクチンは絶対に打たないで下さい。二十年以内に確実に死にます」ワクチン危険、ワクチン死亡、ワクチン義務化反対のハッシュタグを付けた。


 韓国のニュースサイトではワクチンの副作用による死亡が続々と流れている。それに引き替え、日本では厚労省が定期的に積み増しする死亡事例以外、ひとつもワクチン死が流れてこない。もちろん、この時代、ワクチンによる死亡は全て「因果関係不明」で片付けられる。それは、ガルシアがマイザーやモヂルナと政府の契約書に盛り込んだ、「十年間はワクチンの有害事象を一切開示してはならない」という条項のためだった。


 だが、これは政府にとっても都合がよかった。契約書には「マイザーは何があっても一切の責任を負わない。全ての責任は、契約国の政府及び国民が負う」となっている。つまり、有害事象を認めたら政府は金を払わなければならない。


 そんなことを考えなら、スクロールしていたら、川野ワクチン担当相が飛行機乗りの格好をした「ワクチン死亡は永遠に0」なるコラージュ画像が張ってあった。


 九時になって電気が消えた。

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