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アフター・ワクチン ――君打ちたもうことなかれ――  作者: 星香典
終章 君打ちたもうことなかれ
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終章 君打ちたもうことなかれ 05

 もっと分かるように話して欲しい。それが僕の切実な願いだ。ここで死ななければならないならなおさらだ。


「ガルシアさん。冥土の土産という言葉を知ってますか? 僕にも分かるように話して欲しい。冥土の土産に」


 その言葉なら知っていると言わんばかりに、ガルシアは大仰に頷いた。


「あなたがたが憎んでいるステファニー・ガルシアはわたしの妹です。しかし、あなた方が知っているステファニーはわたしなのです。2035年から1963年、当時十歳だったステファニーの体に入ったわたしなのです。ご存じの通り、わたしと海津さんは意識と肉体の分離の研究を行っていました。意識を分離させる薬剤が完成し、海津さんが飲んでもなにも起こりませんでした。理論的には意識が移動するはずなのに。しかし、わたしはその薬を飲み干すや、異様な痛みに襲われた。目が覚めると妹が溺れて死んだ湖が目の前に広がっていた。幼いわたしが湖で泳いでいた。湖畔にはテーブルと椅子が置いてあり、若い父と母がサンドウィッチを摘まんで談笑している。わたしは湖面に自分の姿を映しました。さざ波に揺らいでいましたが、懐かしい妹の姿があった。最初はただ夢を見ていると思いました。しかし、日が経つにつれて、これは紛れもない現実だと分かるようになりました。ミスター・海津の発明は成功したのだと。わたしの意識は時空を超え、死んだはずの妹に移った。わたしは確信します。世界を救わなければならない。その使命を帯びていたのです。2035年は……、この時間軸ではなく、わたしが以前いた2035年は地球環境の悪化によりもはや地球に住むのが困難になっていました。人類が地球に住めるのも後数年という状況でした。宇宙開発も間に合わない。そういう選択肢しかない中で人類を救う方法が、過去に遡り世界を変えるという方法です」


 ちょっと待て。それを是としろというのか。そのために、理恵が死に、弟が死に、僕が死ななければならないのか。海津がいま殺されなければならないのか。七十億、八十億人近くの人間が死ななければならないのか。それがどうして人類を救うことになるのだろうか、僕には理解出来ない。


「ふざけるな、七十億人殺しておいて、人類を救っただと?」

「絶滅に比べたら遙によいことです。少なくともワクチンを打っていない人間、一億人以上は残ります。ゼロとイチの間には永遠の隔たりがあります」


 ガルシアはしらっと言ってのけた。


「教授。認められたらいかがですか? 人類を救うことに失敗したと」


 海津が言った。


「海津さん。日本の諺にもあるでしょう。Easier said than done.と。たしかに、ベストではなかったかも知れない。しかし、最悪を免れたのは間違いありません。わたしの行いにより、わたしは今世界中の人間から忌み嫌われていますが、むしろ感謝されてしかるべきであると考えています」


 人類の絶滅を避けるために七十億人に死のワクチンを打って殺す。絶対に肯定出来ない。


「僕はおまえのやったことが許せない」


 ガルシアは呆れたように、


「では、どうすればよかったというのです? 地球が滅び、人類が滅びようとする社会がどれほど悲惨であるかあなたは知りません。わたしがあなたがたに言う言葉は一つです。Shut up! わたしのことを許せないのは分かっています。五年前にワクチンの毒が人為的であることが明らかになり、ステファニーは死ぬか殺されるかを選ばなければなりませんでした」


 海津はサイエンティストらしい冷静さと好奇心が混ざったような質問をする。


「2035年の教授が乗り移ったのは亡くなったステファニーの方のはずです。なのに、あなたはまるで自分が2035年からタイムリープしたように話す。なぜです?」

今日で最終話まで一気にアップします。編集や若干の加筆修正を行うので、だいたい一時間ごとにアップ予定。ご覧いただけたら嬉しいです。

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