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アフター・ワクチン ――君打ちたもうことなかれ――  作者: 星香典
終章 君打ちたもうことなかれ
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終章 君打ちたもうことなかれ 03

 そんなことは分かっている。ワクチンを打った七十億の人間は死ぬ。でも、どうやってワクチンから逃げられたというのだ。国を挙げて、いや、世界中でワクチンは安全だと洗脳し、反ワクチンの人々に対する憎悪を植え付け、厭悪して馬鹿にする風潮を生み出し、挙げ句の果てにパスポートを作って義務化をする。そこからどうやって逃れよというのだ。


 帰りの車の中で僕は呟いた。


「おまえはやっぱりずるいよ」

「なにが?」

「ワクチンを打たなかった」


 海津は人差し指でハンドルを叩きながら、


「おまえだって死ぬのが分かってたら打たなかっただろ? おれを恨むんじゃなくて、ガルシアはじめ打たなきゃいけない世の中を作った連中。それに流された連中を恨め。そして、世間に流されて打った自分を恨めよ。後悔してるならな」

「今日は手厳しいな。おまえの言うとおりだよ。あの世間に抗って、仕事を失い、逮捕されて、有罪になって、それでもワクチンを最後まで打たなかったおまえは大した奴だよ」


 僕が高橋由奈を嫌っているもう一つのわけ。彼女は反ワクだ。結局捕まって打たれたらしいが、裕二が突然ワクチンを打つなとか言い始めたのも、彼女の影響かも知れない。しかも、なにが許せないかって、徹底的に見下して軽蔑してバカにしていた反ワクの彼女が、本当は正しかったってこと。まるで、唯々諾々とワクチンを打った僕は哀れみとともに嘲笑われている気分だった。そんなこと、彼女が微塵も思っていないとしても、僕は自分を卑下してしまう。そんな気持ちが、ずるいという言葉を吐かせた。


 海津は僕のマンションの来賓用駐車場に車を止めた。


「ちょっと寄ってくだろ?」


 僕は海津を誘った。


「ああ。おれもおまえに話したいことがあったんだ」


 僕は部屋に戻る途中、言い知れぬ違和感を覚えた。エレベーターに乗ったとき、ドアノブを握ったとき、部屋に一歩入ったとき、違和感が存在した。ただ、部屋に入ってしばらくすると、違和感は消えたのか、忘れてしまったのか、意識に上がらなくなった。


 戸棚から、切ってあるシュトレンを出して珈琲をいれた。十一月の陽は短い。下らない昔話に花を咲かせて、珈琲を三杯も飲めば、外はもうすっかりと夜であった。食い物と酒でも買いに行こうか、などと話していて思い出した。


「そういえば、おまえ、なにか話しがあるって言ってなかったか?」

「一杯やってからでもいいぜ」


 どうしよう。僕は逡巡した。


「飲んでからにするか」


 焦る必要はない。夜は長いし、僕の寿命は半年以上もある。二人で近所のスーパーへ行く。僕はワクチンパスポートを持っている。ワクチンの副反応により一年以内に死を迎える市民は食料品を含め日用品を無料で手に入れることが出来る。死ぬのが分かっているのだから、健康の名目は使えないはず。なのに、酒は未だに有料だ。だから、少し大食漢だと疑われるかもしれないけど、食料品は僕が一人で会計を済ませ、酒は海津が会計をして、後で割り勘。


 おにぎり、焼き鳥、ビールとワイン、チーズなどのツマミを買った。それぞれ、一つずつエコバックを手に提げてマンションに戻った。


 戻ったとき、さっきよりももっと強い違和感を覚える。エレベーターの中、ドアノブの感触、部屋の空気。明らかに何かが違っていた。

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