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アフター・ワクチン ――君打ちたもうことなかれ――  作者: 星香典
終章 君打ちたもうことなかれ
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終章 君打ちたもうことなかれ 02

 透き通るように青い空が広がっている。秋日の午後。寺の山には色づいた葉がアクセントを刻んでいた。


 たまたま本堂から降りてきた住職と目が合った。僕は会釈し、


「すごい、混んでますね」

「ああ、内田さん。ご覧の通りの忙しさです。坊主、まるで儲からず」


 住職は戯けて言う。


「墓参りに来ました」

「どうぞ、ごゆっくりお参りなさっていってください」


 住職は呼ばれる声に引き寄せられるように、軽く会釈をすると、足早に去った。


 僕はその背中を見送る。


 傾斜を登って両親と弟、あと理恵が眠る墓を掃除する。水をやり、花を添えて、線香の煙をくゆらす。手を合わせ終えて、墓石に刻まれてた内田裕二の文字を眺めていた。


「なぁ、僕はなんだか裕二はどっかで生きているような気がするんだよな」


 なんとなく呟いた。そんなことがあり得ないことは十分に知っている。


「なんでそう思う?」

「べつに、そんな気がしただけ」


 僕たちがお参りを済ませて、山を下っていると、下から花と水を持った三十代くらいの華奢な女性が登ってきた。十年ぶりに姿を見たが、彼女が高橋由奈だとすぐに分かった。


 彼女の方も僕らに気がついたようで目を伏せた。


「どうして、あなたが来るんですか」


 黙ってすれ違おうとしたが、僕は思わず言葉を発していた。彼女が弟を殺したようなものだ。


 彼女は俯いたまま黙っていた。


「はっきり言って、あなたにお参りして欲しくはありません」

「やめろ。大人げない」


 海津が僕を小突く。


「すみませんでした」


 彼女はぼそりと呟くと、踵を返し山を下っていった。


 彼女を追い返したものの、僕の心のわだかまりは余計にねじれたような気がした。僕と海津はその場に立ち止まり、彼女が山を下りていくのを眺めていた。


「気持ちは分かるが、もう十年だぜ。許してやれよ。おまえだって、彼女だってもう長くないんだから」

「頭では分かってるんだけどさ」


 彼女さえいなければ、裕二は死ななかった。十年前、僕の結婚式の翌日、彼女と裕二は心中を図った。それは、彼女に請われたところが多い。少なくとも僕はそう思っている。なぜなら、前日の結婚式で遇ったとき、裕二が自殺するような気配は微塵も感じられなかったからだ。


 結婚式の翌日、彼らは勤務が終わると、そのまま樹海に向かった。二人で死ぬつもりだったと彼女は言った。なのに、先に裕二が死に、怖くなって彼女は逃げ帰った。彼女が埋めたということもあり、裕二の遺体は見つけることが出来なかった。警察は殺人で高橋由奈を逮捕した。しかし、有罪にはならなかった。令和の心中事件として、ワイドショーでも若干の話題となった。


 僕はモバイルを確認した。寿命はあと二百三日だった。


 十分に間隔を開けたのを確認して、僕たちも山を下る。


「頭では分かってるんだけど、彼女さえいなければ裕二は死なないですんだ。そう思うとやるせないよ」

「まぁ、そうだけどな。しかし、ワクチンさえ打たなければ七十億の人間が死なないですんだ」

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