第七章 解を求めて 08
「黙っていたけど、おれは2021年に、2031年から来たおまえと会ってるんだ」
海津は不思議なことを言う。僕はその言葉をどう受け止めたらいいか分からなかった。しかし、頭のどこかで、そのことを納得しているもう一人の自分がいた。もう一人の自分は、先ほど見た夢の自分、デジャブを感じた自分と通じるところがあるように思える。
「じゃ、さっき高橋さんが言っていたことは……」
「当たってるんだよ。高橋さんは裕二の体に入ったおまえと付き合っていた。でも、そのことを彼女は知るべきじゃない。だって、そんなの悲しいだけじゃないか」
もうなにがどうなっているのか分からない。高橋さんは僕と付き合っていた?
海津は続ける。
「だから、おれは裕二が死んだとき、あの場所にいた。おれは、裕二の体に入ったおまえに会いに行ったんだ」
「裕二の体に入った僕?」
「ああ。おまえの結婚式の日に、裕二はおれしか知らない合い言葉を言って、『自分は裕二じゃない、達也だ』とはっきり言った」
荒唐無稽。そもそも、ぼくがどうやって過去の裕二の体に入るのだというのだ。
「そんな戯れ言、誰が信じるかよ」
「今日陽が西から昇った」
海津が呟いた言葉は意味不明な言葉なのに、頭の奥へと響いてくる。
裕二は結婚式でその言葉を言ったという。海津は意識を転送する研究を行っていた。それは、未来から過去へ転送される可能性も秘めていた。だから、未来から過去へ転送されたことが分かるように、今日陽が西から昇った。という合い言葉を作った。この言葉は紙に書くこともなく、海津の頭の中にだけ存在する言葉だった。その言葉を2021年の裕二が海津に告げた。
説明を終え、
「まだ信じられないか?」
僕は激しい既視感を再び覚えた。まるで、現実の僕が宙に浮いているような、現実が虚構で既視感が現実であるような。
海津の言葉に説得力を持たせているのは、僕が手にしている裕二のノート。そこに、紛れもない僕の字が書かれていること。もちろん、こんなところに、こんなことを画いた覚えはない。
「海津、おまえはどうしてそんなことが分かるんだよ? 僕がどうやって過去の裕二の体に入ったか、知ってるのか?」
百パーセント知ってるわけではないが、と海津は断り、
「たぶんこれだ」
と小瓶をジャケットの内ポケットから取りだした。
小瓶を受け取る。小さなスクリューキャップがついている。中は液体が入っている。その瓶を受け取って僕は笑ってしまった。なぜ笑ってしまったのかは分からない。こんなもので、過去にいけるものか、と笑ったのか。それとも、ある種の懐かしさを感じて笑ったのか。
「飲めばいいんだよな?」
と僕は聞いた。この液体は飲まなければいけない、とリアルの自分が警告しているようだった。
「やっぱり、思い出したのか?」
「いや全然。でも、僕は今、今を生きているように思えないんだよ。もう一人の自分を、すごく身近に感じる」
「じゃ、彼女の願い、叶えてやれよ」
僕は由奈に未来を託された。
由奈……。高橋さんのことを由奈だと思ったのも初めてで、僕はまた笑ってしまった。




