第七章 解を求めて 07
「どういうことですか?」
と海津が口を挟んだ。
高橋さんは大事なことを伝えるように、しっかりとした口調で言う。
「わたしも最初は半信半疑でした。でも、未来は裕二が言ったとおりになった。あの日、裕二はなにが起きるか知っていた。知っていて、あの部屋に戻った。わたしが百パーセント彼を信じていたら、他に出来ることがあったのに、結局なにも出来なかった。達也さんも本当はご存じだったんじゃないですか?」
突然振られて、僕は混乱した。僕は一体なにを知っているというのだろうか。
「すみません、僕がなにを知っているんですか?」
「裕二は突然性格が変わりました。2021年の九月にコロナに罹って退院してきてから。それに、性格だけじゃない。筆跡も変わってた」
高橋さんはなにかを訴えかけるように僕をのぞき込む。僕は彼女に何かしたのだろうか。
裕二の性格が変わったとは特に思わなかった。急にワクチンを打つなとか言ったときは驚いたが。裕二とは食事会を予定していたが、急な仕事が入って行けなくなってしまった。結局裕二に会ったのは結婚式の時だけ。
彼女は続ける。
「退院して戻ってからの筆跡は、達也さん、あなたとそっくり。兄弟だから似ていてもおかしくないけど、裕二は本当に字が下手だった。でも、裕二の死を一緒に調べていたとき、あなたのメモは走り書きだったけど、調っていて、それは、性格が変わった後の裕二のものとすごく似ていて、わたしは、ひょっとしたらあなたが――」
「高橋さん、そんなこと、あるわけないじゃないですか」
海津が小馬鹿にしたように言う。
「分かってます。わたしがバカみたいなことを言っていること。でも、この世界も、世界中の人間にワクチンを打って、七十億人が死んでしまう。わたしもあと二日で死んでしまう。本当にバカみたいなことが起きてしまった。裕二はこの未来を知っていた。それを止めようとしていた。海津さん、あなたがワクチンを虚偽接種したのだって、世界がおかしいことを知っていたからでしょ?」
「それとこれとは別の問題だと思います」
高橋さんは寂しそうに頷いて、でも、決意に満ちた声で、
「未来を、あなたたちに託します」
一礼して門の方へ降りていく。
僕と海津は墓参りを済ませてマンションに戻る。海津は車を止めて一緒に降りる。寺の駐車場で話したいことがあると言っていた。海津の話も気になるが、それよりも僕は高橋さんの言葉が気になっていて、それを調べたかったから本当は帰ってもらいた。
海津をソファーに座らせて待たせる。高橋さんの言葉が頭に張りついて剥がれない。海津にお茶を出すこともなく、僕は裕二の遺品を保存してある紙袋を開ける。遺品と言っても、部屋のものは全て燃えてしまったから、残っていたのは会社に置いてあったもの程度だ。
「達也、なにやってるんだ?」
「裕二の筆跡を調べる」
「高橋さんが言っていたこと、本気にしてるのか」
「そういうわけじゃないけど、なんか気になっちゃってさ」
ノートや手帳が出て来た。ぱらぱらめくるが、そこにはいつもの裕二の字があった。問題は2021年の九月以降。
あった。会社のノート、仕事の段取り、打ち合わせ……。
「おいっ、見てみろ」
僕は思わず海津にノートを押しつけた。退院以降の文字は、明らかに別人の文字で、でも、その文字にはとても親しみがある、間違いない、僕の字だった。
海津が飛び上がって驚くと思ったのに、彼は至って冷静だった。それどころか、僕が予期せぬことを口にした。




