第七章 解を求めて 06
「なんで、おまえが裕二のところにいたんだよ?」
海津はエンジンを切った車の運転席に凭れるように座りながら、迷うような口調で、
「帰りにさ。おまえんち寄ってもいいか?」
いま話せないようなことなのだろうか。ただ、無理に聞くべきではないと思った。海津の提案を了承した。
「ありがとう」
と海津は言った。
「なに隠してんだよ?」
「なにも隠しちゃいない。だって、おまえの記憶のどこかに、あるはずだから」
そう言われても、思い当たる節はひとつもなかった。
僕たちは車を降りて寺の門をくぐる。秋の風が頬を引き締める。喪服姿の集団が、そちこちに屯して法要の順番を待っていた。
本堂の前を通るとき住職と目が合った。僕は会釈し、
「すごい、混んでますね」
「ああ、内田さん。ご覧の通りの忙しさです。坊――」
住職が言おうとする言葉の前に、
「坊主まるで儲からず」
と僕は口を注いでしまった。
「おっと、言われてしまいました」
柔和な瞳で、和尚は喪服の集団の方へ去った。
僕はこの光景を知っていた。それも、一度や二度ではないような気がする。
裕二の墓がある丘を登っていると、上から一人の女性が降りてきた。二十代後半、三十代くらいだろうか、小柄な女性だった。どこか見覚えがある。
海津が僕を小突き、
「おい、あれ、裕二の彼女じゃないか」
あの頃よりも、大人びていたが、言われてみれば間違いなく当時裕二と付き合っていた高橋由奈だった。裕二の死後、事件性を警察に認識してもらうため、彼女とはいろいろと動いた。
彼女も僕たちに気付いたようで、すれ違い様に立ち止まる。僕たちは二人で雁首並べているので分かりやすかったかも知れない。
「お久しぶりです」
会釈をして彼女は言った。
「お久しぶりです。弟の墓参りに来てくれたんですか?」
彼女は恥ずかしそうに頷いて、「はい」と答えた。
「ありがとうございます。弟も喜びますよ」
彼女は首を振る。
「でも、わたし初めてです。裕二の事件、犯人を捕まえるまでは来ないつもりでいました。犯人見つけて、裕二に報告しようって思ってたのに……」
「まだ僕は諦めてませんよ」
彼女は急に涙を流した。ぽつりぽつりと。
「わたしはもうだめ。タイムリミット」
彼女はモバイルを示す。寿命はあと二日だけだった。反ワクチンの彼女は最後まで抵抗したが、結局ワクチン接種義務違反で逮捕、強制接種となってしまった。
僕は近くのベンチに彼女を座らせる。
「犯人を捕まえるどころか、手がかり一つ見つけられませんでした」
悔しさを滲ませていた。
「仕方ないです。僕もいろいろ調べましたけど、全て燃えてしまったし」
彼女は首を振る。
「違うんです。わたしがもっとちゃんと、彼のことを信じていれば、彼は死ななかったかも知れない。未来は違っていたかも知れないんです」




