第七章 解を求めて 05
―2031年―
車は高速道路を快調に走っていた。道路の継ぎ目の振動が、一定の間隔でシートから伝わってくる。
「目、覚めたか。随分ぐっすり眠ってたぜ」
海津は微笑みながら横目で僕を見る。
僕は車の助手席に乗っていた。単調な景色のせいか、いつの間にか眠ってしまって、嫌な夢を見た。
「妙な夢を見た。どんな夢だったかは覚えてないんだけど、その夢は前にも見たことがあるような夢でさ。なんていうの、夢のデジャブ?」
「夢のデジャブっていうのは珍しいな」
「おまえ、脳の研究してたんだから、デジャブとか夢とかのカラクリ、詳しいだろ?」
「脳の研究って随分大雑把にくくってくれるな。どんな夢見たんだ?」
海津は機嫌よさそうにハンドルを指で叩いてリズムを取っている。
「えーと……」
さっきまで、あれほどはっきり感じていた夢のはずなのに、思い出すスピードよりも速く、ぽろぽろと形が記憶の中から崩れ去っていく。
「夢ってさ、見てるときは覚えてるんだけど、目が覚めると思い出せないんだよな。でも、なんか裕二が出て来たような気がする」
車は大きな弧を描いてインターを降りた。一般道もがらがらだった。
「そりゃ、これから裕二の墓参りに行くから、どこか意識に残ってるんだろ」
裕二の墓参り。裕二は死んだ。そう、僕と海津は裕二の墓参りに向かっている。僕は突然役を振られた役者のように、目の前の現実が作り物のように感じた。
「裕二はコロナで死んだ。いや、トラックに撥ねられた、いや、火事でに遇って、違う。裕二は……」
「なに言ってんだおまえ?」
海津は運転しながら、ちらりちらりと怪訝な目を僕に向ける。
「裕二は殺された……」
「おい、本当に大丈夫か? ちゃんと思い出してみろ、裕二がどうして死んだか」
海津の声はなかば怒気が含まれていた。
僕は大きく息を吸って、ゆっくりと記憶をたどる。紛うことのない、確かな記憶を。僕は記憶を言葉にする。
「裕二は……、事件に巻き込まれた。直接の死因は焼死だったけれど、他殺の可能性が強かった。裕二は死ぬ直前に警察に通報していた。そのテープをなぜか警察は出したがらず、弁護士や議員の先生にも動いてもらってやっと出させた。テープは裕二の声と物音が入ってはいたが、裕二の声以外、人の声は聞こえなかった。何しろ、綺麗さっぱり燃えちゃってたから、争った形跡とかも見つけられず、警察の捜査はおざなりだった。特に、事件だって主張したのは海津、おまえだったよな」
海津は何度も頷いた。
「自殺の動機も不明。裕二がガソリンを購入した経緯も不明。自殺だとしたらなぜ警察に通報した? それに、録音に残されていた物音。明らかに自殺じゃない。警察はなにかを隠している」
僕もそれは思った。だが、警察は証拠がないの一点張りだった。
「あのとき、現場にいた彼女、あと、おまえも通報してくれたんだっけ?」
海津の顔が怪訝そうに歪んだ。
「ちょっとまて。なんでおれが通報するんだ?」
「ん? 通報してくれたんじゃ……、ってそんなわけないよな」
海津は無言になってしまった。
寺の駐車場は車で埋まっていたが、ちょうどよく、目の前の車が一台出た。
海津は車を止めた後も無言で、降りようとしない。
「おい、どうした?」
海津はためらいがちに僕の方を向いて、
「ずっと黙ってたけど、裕二が死んだあの日、おれはあの現場のそばにいたんだ」
それは、驚くべき告白のはずなのに、僕はなぜだか自然に受け止めていた。




