第七章 解を求めて 04
―2021年―
体がふわりと傾いて、僕は冷たい床の上に倒れていた。
ここは……。明るい店内。商品が陳列してある。ガルシア達に殺される直前に立ち寄ったドラッグストア。
由奈が駆け寄ってきた。
「裕二っ、大丈夫!?」
目を見開いて僕をのぞき込んでいる。
脳と体がリンクして、手足が動くようになる。僕はゆっくり立ち上がる。
「大丈夫。ちょっと躓いた」
「そういう倒れ方じゃなかったよ」
一気に頭の中に記憶が蘇ってくる。由奈は刺されて死ぬ。
「っていうか、由奈、ちょっと呑気にしてる場合じゃない。逃げろ、今すぐ」
「どうしたの? なに言ってるか分からない」
僕は買おうとして籠に入れていたコンドームなどを近くの棚に戻して、とりあえず、店の外に由奈を連れ出した。昼間と違って夜はひんやりとしている。僕がいた2031年の十一月を思い出させる。
由奈にどこから伝えたらいいのだろうか。ゆっくり考えている余裕もない。
「いま僕の部屋にはガルシアがいる。あのステファニー・ガルシアだ。そして、僕と君は殺される。殺された未来から、僕は今戻ってきた」
由奈は一瞬嫌そうな顔をしてから、
「なにそれ。部屋に別の女でも隠してる?」
「ばか、そんな暇はない」
「昨日もライン返してくれなかったし」
「なら、ここまで連れてくるわけないだろ。嘘だと思うなら、警察呼べ。違う、嘘だと思わなくても、今すぐ警察を呼べ。すぐに、君はここを離れろ」
僕の本気が伝わったのか、由奈は頷いた。僕に付いてくることはなかった。
逃げたところで、あいつらは追っかけてくる。交差点にトラックを突っ込ませたのもあいつらだ。なら、いまここで、ガルシアの陰謀を終わらせてやる。
この携帯はおそらく盗聴されている。僕が警察に電話をすれば、あいつらはなにか他の手を考えてくる。僕は自分のアパートの階段を上りながら警察に電話をかける。警察の電話は録音されている。ガルシアの声を、警察に聞かすことが出来れば、僕の死は無駄にはならないはず。
警察につながったことを確認して、僕は部屋の扉を開ける。男が隠れていて、僕に一撃を食らわせてくることは分かっていた。僕はその攻撃を鞄で受け止める。
「誰だおまえら、やめろ、なにしやがる!」
僕は叫んで、わざと壁にぶつかり、物音を立てる。
だが、もう一人の男にすぐに押さえつけられて、前回と同じように部屋の奥へと連れて行かれる。
電気がつくとガルシアがいる。
ガルシアはあごを使って、無言で男に指図をする。男は心得たもので、僕のポケットから携帯を取りだして、通話ボタンを切った。僕の叫びと物音は警察の記録に残ったはずだ。やっぱり、こいつらは僕の携帯を盗聴していた。
前回と違うところは、ガルシアが怪訝な表情を浮かべているところだった。そうだ。ガルシアを目にした僕は驚かなければならないのだ。僕はわざと驚いた振りをして見せたが、ガルシアには通用しなかったようだ。
「あなたにとって、これは何回目の出来事ですか?」
僕の目の奥をのぞき込んで、初老の女は言った。
「初めてだよ」
「なぜ警察に電話をかけましたか?」
「臭かったからさ。階段から匂ってた」
「なんど蘇ったところで、結果は変わりませんよ。あなたが余計なことをしなければ、わたしたちは十分にディスカッションが出来ました」
殺しておいていけしゃあしゃあとよく出任せを言ったもんだ。ワクチンが希望だと偽り世界中の人間を騙しただけのことはある。
その後は前と同じだった。僕はガソリンをかけられて、部屋ごと焼かれてしまった。




