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アフター・ワクチン ――君打ちたもうことなかれ――  作者: 星香典
第七章 解を求めて 01
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第七章 解を求めて 03

 僕たちは木陰のベンチに腰掛けた。大分落ち着きを取り戻していた。モバイルを見ると、僕の寿命はあと五年もあった。あと五年ということは前から分かっていたはずなのに、妙な違和感が生じてくる。


「これ、見覚えないか?」


 海津が鞄から取りだしたのは中に液体が入った小瓶だった。


 僕はその小瓶を受け取る。透明の液体。スクリューキャップがついた小瓶。握るとひんやりしていた。


「まさか、この液体を飲むと過去に戻る、なんて言わないよな?」

「そのまさかだ。たぶん、2021年の裕二の体におまえの意識は移動する」

「じゃ、今ここにいる僕はどうなるんだ?」

「分からない。おれが見届けてやるよ」

「随分といい加減な」

「だって、世界で初めての試みだぜ」海津は目を輝かせ、「おれはこう考えている。おまえ、PCで小説とか書いたことあるか? つまり、世界っていうのは一つのファイルなんだ。たとえば、八十ページから百ページまで小説を書いたが、PCがフリーズ。ファイルをセーブしていないで書いた二十ページが消えてしまう。しかたがないから、また八十ページから書き直す。そのとき、前に書いたものと全く同じ文章は書けないはずだ。それどころか、話の筋を変えてしまってもいい。つまり、おまえが過去に戻った時点で、世界はまたそこから始まる。それまでの世界は存在しないことになる」


 俄には信じがたい。


「そんなことって、あり得るのかよ」

「それは分からないし、確認のしようがない。五分前仮説みたいな世界だ」


 世界があらゆる物質と記憶を備えて五分前に誕生したということをどう否定しようというのか。同じように、この時間軸が改変されたものではないということを、どう証明したらいいのだろうか。


「いいのかよ。僕がこれを飲んで2021年に戻ったら、今のおまえは消滅するかも知れないんだぜ」

「科学者はみんなマッドサイエンティスト。特におれは。ちなみに、おれはこれを飲んだがなにも起きなかった。だが、2021年、裕二はおまえだった。それも、おれが送り込んだおまえだ」

「海津、おまえひょっとして、裕二の死について――」

「ああ。知ってるよ。おれは裕二に話しがあって、あいつのアパートの前で待っていた。そしたら、怪しい連中が入ってきた。ピッキングで入ったんだ。その後すぐに裕二が帰ってきた。だから、おれは一応警察に通報した」

「じゃ、物音を聞いたからって言うのは?」

「物音なんか聞いてない。ただ、警察を動かすための方便だ」

「裕二と待ち合わせていたっていうのも?」

「おれが会いたくて勝手に行った。結婚式のときに名刺をもらったからな。通信は記録に残るから、接触したことが知られてしまう。だから、湯島まで久しぶりに切符を買ったぜ。まぁ、通報したから意味ないんだが」


 当時はまだ歩容認証システムもそれほど発達しておらず、マスクをして帽子を被ってしまえば監視カメラに写ったところで誰だか分からなかった。


「逆に、通報したことによって、あの連中もおれに手出しが出来なくなったのかもしれない」


 僕は小瓶のキャップを外す。


「とにかく、こいつを飲めば全て分かるってことでいいか?」

「正直どうなるか保証は出来ない。だが、やってみる価値はある」

「さすが、マッドサイエンティスト」

「科学者はみんな」


 僕は中の液体を一息で喉の奥に流し込んだ。

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