第七章 解を求めて 02
僕と海津は喪服の集団に紛れて門をくぐる。僕たちは法要をするわけでもないので普段着であった。
たまたま本堂から降りてきた住職と目が合った。僕は会釈し、
「すごい、混んでますね」
「ああ、内田さん。ご覧の通りの忙しさです。坊主、まるで儲からず」
住職は戯けて言う。
「墓参りに来ました」
「確か昨日が命日でしたな。弟さんも喜ぶでしょう。わたしもあと半年の命です」
本当に忙しいらしく、住職の額にはうっすらと汗が浮かんでいた。
そう言えば、ほかの僧侶が見当たらない。昔はもっとたくさんお坊さんがいた。
「ひょっとして、もうご住職お一人?」
恥ずかしそうに頷いて、
「最後のご奉公です。命ある限り、わたしはこのつとめを果たします」
「みんないなくなってしまいますね。最初、義章さんがお亡くなりになったときはびっくりで」
「あの時はまだワクチン副反応が公になっていない頃、ガルシアショックの前でしたからな」
住職は檀家から呼ばれる。軽く会釈をすると、足早に去った。
僕はデジャブに襲われた。あまりにも、その偽りの記憶がなにか意味ありげに僕の精神をのぞき込んできて、しばらく動くことさえ出来なかった。
「おい、どうした? おまえ、今日なんか変だぞ」
海津の声にまたデジャブを感じた。デジャブのデジャブなんてあり得るのだろうか?
「ああ、大丈夫。なんていうんだっけ、こういうの、ええと、デジャブ?」
海津はなにも言わなかった。ただ歩いて、裕二の墓がある方へと向かった。
内田家の墓はいつもと同じようにそこにあった。秋の色のなかに、灰色の石は静かに鎮座していた。僕はなにかを確かめるように墓碑を読んだ。墓碑の前で跪いた。理恵の名前が刻まれていた。
「理恵は、死んだのか?」
僕はなにを言ってるんだろう。半年前に理恵はワクチンの副反応で死んだ。僕は彼女を看取った。そのことは記憶にはっきりとあるのに、その記憶が作り物のように感じ、記憶を疑ってしまう。
「おまえ、戻ってきたんだろ?」
呆然としている僕に向かって、海津が不思議な言葉を投げかけた。海津の言葉がなにを意味しているのか分からなかったが、なにか重大な意味があるようにその言葉は響いて、無視出来ない。
「戻ってきたって、どこから?」
「2021年から」
2021年から戻った。笑い飛ばしたいところだが、それが出来ない。出来ないし、その答えを脳の奥の方が受け入れている嫌いすらある。
「なんなんだよ。一体。わけ分かんないよ」
海津は落ち着いた口調で言う。
「おれは2021年に、裕二の体に入っていたおまえに会ったんだ」
「裕二の体に入った僕?」
「ああ。おまえの結婚式の日に、裕二はおれしか知らない合い言葉を言って、『自分は裕二じゃない、達也だ』とはっきり言った」
「ふざけるなよ、そんな戯れ言、誰が信じるかよ」
「今日陽が西から昇った」
海津が呟いた言葉は意味不明な言葉なのに、頭の奥へと響いてくる。
裕二は結婚式でその言葉を言ったという。海津は意識を転送する研究を行っていた。それは、未来から過去へ転送される可能性も秘めていた。だから、未来から過去へ転送されたことが分かるように、今日陽が西から昇った。という合い言葉を作った。この言葉は紙に書くこともなく、海津の頭の中にだけ存在する言葉だった。その言葉を2021年の裕二が海津に告げたという。
海津は説明を終え、
「まだ信じられないか?」
僕は頭を抱えて、その場へとうずくまる。




