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アフター・ワクチン ――君打ちたもうことなかれ――  作者: 星香典
第六章 そして僕は殺され続け
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第六章 そして僕は殺され続け 06

 由奈は死んでいない、と男は言った。つまり、おまえの返答次第では殺す、という意味だ。ピクリとも動かない由奈は死んでいるのか生きているのか分からない。僕は由奈を巻き込んでしまったことを後悔した。過去に戻ったとき、もうすこし慎重に行動すべきだった。今となって反省しても遅い。


 男は由奈の首に手をかけて、力を入れる真似をする。由奈は目をつぶり、うっすらと口を開いている。この屈強な男にとって、由奈の細い首をへし折るなど造作ないだろう。


 ガルシアは僕を見据える。


「もう一度尋ねます。あなたはいつから来たのですか? 未来はどうなっているのですか?」


 同じ調子で繰り返した。有無を言わさぬ声音だった。今度は僕が答えを拒否出来ないと分かっている。今僕に出来ることはなんだろうか。最悪でも、由奈だけは助けたかった。僕は死んだところで、また未来に戻れる。


「由奈に手を出すな。彼女はなにも知らない」

「あなたが正直に話すなら、すぐに自由があたえられます」


 正直に喋ったところで、こいつらが僕たちを解放するとは考えられなかった。でも、喋らないという選択肢もなかった。僕に出来ることは時間を稼ぐことぐらいだった。


「未来はすごいぞ。おまえにも見せてやりたい。でも、おまえは未来を見ることができないんだ。どうしてだか知りたいか?」


 ガルシアは僕の言葉を遮るようにして、


「端的に答えなさい。もし意図的に時間を無駄に使うようなら、この女をすぐに殺します」


 僕の作戦は見抜かれている。


「意図的にね。そんなつもりはないけど。とにかく、おまえは未来を見ることはできない」


 ごきごき、と嫌な音が由奈の首から鳴る。男が体重を由奈にかける。


「やめろ、わかった、端的に教えてやる。おまえが思い描いたとおりだ。七十億人死ぬ」

「つまり、ワクチンは効いたということですか?」


 僕は頷いて見せた。氷のようなガルシアの瞳に、一瞬安堵のようなものが浮かんで消えた。


「おまえはなんのために人々にワクチンを打って殺した? おまえ自身も死ぬ。目的はなんだ? 答えろ」


 ガルシアが答えることはなかった。すでに僕に対する興味を失ったようだった。


 僕は再び口にテープを巻かれて言葉を封じられる。


 インターホンが鳴る。部屋の中では音を立てないように、ガルシア含め沈黙を守っている。インターホンは鳴り止まない。そのうちドアがノックされた。鉄製の扉はごんごんと音を響かせる。


「警察です。騒ぎがあったと通報がありました」


 男達が小さく舌打ちをして、眉間に皺を寄せる。男達のその後の行動は素早かった。あらかじめ手順は決められ、その動作を覚えているように、よどみなくことは進められる。


 アジア系の男はまず由奈を仰向けにすると、包丁を手にして由奈の鳩尾に深々と突き立てた。その包丁は僕の台所にあるものだった。じわじわと由奈の腹から血が滲み広がっていく。


 次にポリタンクを逆さにして、透明な液体を僕と由奈の服に染みこませた。ベッドの方にも撒く。僕の鼻腔にガソリンの匂いが駆け上がる。


 その間も、警官はドアを叩いていた。


 白人の男は僕の口のテープを剥がすと同時に火を放つ。さらに、それと同時にアジア系の男が扉を開ける。


「助けてくれ!」


 僕は服から燃え上がる。警官が駆け込んでくる。由奈も燃える。部屋が燃える。


 そこまでだった。炎に包まれた僕の意識はあっけなく消えてしまった。

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