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アフター・ワクチン ――君打ちたもうことなかれ――  作者: 星香典
第六章 そして僕は殺され続け
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第六章 そして僕は殺され続け 05

 由奈といつものように、御徒町の屋台でビールを飲みなが食事をして、僕たちはアパートの前のドラッグストアに寄った。由奈があれでは嫌だというので、新しいコンドームを買う。


 店を一歩出たとき由奈が、


「あ、あれ買うの忘れた。先帰ってて」


 店の中に戻っていく。


 コンドームが入った袋を持って店の中をうろうろするのも嫌だったので、先にアパートに戻った。だが、階段を上がっている時から妙な違和感があった。


 扉の前に立つとその違和感はさらに大きくなる。鍵はちゃんと閉まっていた。僕は鍵を開けた。本能が、この扉を開けてはいけないと手を押しとどめるが、理性が、開けてはいけない理由がどこにあると反発して扉を開けてしまった。


 扉を開けて、部屋に一歩踏み込むと、匂いが違った。階段で感じた違和感の正体は匂いだったのかも知れない。


 電気を付ける前に、腹に重たい一撃を食らう。倒れたところを押さえつけられて、部屋の奥へと引きずり込まれる。体は瞬く間にナイロンバンドで縛り上げられ、声を出せないように口にテープを巻かれた。小さなマンションだ。暴れれば、他の住民が異変に気づいてくれるかも知れない。だが、がっちりと床に押さえつけられて、暴れることも出来ない。


 電気がついた。


 初老の女性が僕のベッドに腰掛けていた。見紛うことはない。ステファニー・ガルシアその人だった。目の前にガルシアがいることには驚いたが、僕はすぐに、未来から来たことがバレたのだと分かった。それ以外に、極東のしがない若者を、人類をワクチンによって滅ぼしたスーパースターが尋ねる道理はない。


 闖入者はガルシアを入れて三人である。僕を押さえつけている白人の男、もう一人はアジア系の男だった。二人とも仕立てのいいスーツを纏っている。


 ガルシアはテレビで見るのと同じように、白いブラウスの上に細身のジャケットを羽織っていた。七〇歳には見えない。若々しさに溢れている。


「あなたは、いったい誰ですか?」


 たどたどしい日本語で、ガルシアははっきりと言った。アジア系の男がゆっくり僕のテープを剥がした。白人の男は僕の頭に手を添える。もし、大声でも出そうものなら、すぐに首をへし折る、そう伝わってきた。


 僕は黙っていた。もし僕が達也だと分かってしまえば、この時代の達也が襲われてしまう。


 白人の男が顔面を殴りつけた。一瞬目の前が真っ暗になり、頭がくらくらする。激しい痛みに襲われる。口の中が切れて血の味が広がる。歯の根元がぐらぐらする。


 そんな僕を感情のない目で見下ろしながら、ガルシアは続ける。


「あなたが、誰であるかと言うことより、もっと大切なことがあります。あなたはいつから来たのですか? 未来はどうなっているのですか?」


 白人の男が突然ガルシアに静かにするように合図をした。そして、僕の口と鼻を完全に覆い。全く息が出来ないようにした。アジア系の男は音もなく扉の横に張りついた。僕は目を動かすことしか出来ない。酸素がなくなってきて目がチカチカしてきたとき、扉が開いた。扉が開くと同時に、アジア系の男は由奈の手を掴み室内に引きずり込んだ。由奈が声を出す間もなく、なにかをして由奈を沈黙させた。だらりとした由奈の体が僕のとなりに投げられて、横たわる。


「Not dead」


 男は短く言った。

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