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アフター・ワクチン ――君打ちたもうことなかれ――  作者: 星香典
第六章 そして僕は殺され続け
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第六章 そして僕は殺され続け 02

 ファンファーレが鳴り響く。灯りが落とされて、開場の入り口にスポットライトとが向けられる。ゆっくりと扉が開き、僕と理恵が腕を組んで入ってきた。僕は幸せそうな顔をしていた。自分の結婚式を生で見られるなんて、普通じゃ考えられないこと。いま裕二の体に入っている僕も、幸せな気分だった。


 理恵は綺麗だった。十年前の僕は理恵のウエディング姿をゆっくり眺められなかった。僕自身が当事者で、やらなければならないこと、気を遣わなければならないことが山積みだった。彼女の美しさに心打たれている余裕がなかった。今は、その姿を眺めることが出来る。あくまで、式を挙げているのはこの時代の僕だ。だから、十年後からやってきた僕は、ひょっとしたら父親のような気持ちでいるのかもしれない。彼らの幸福を祈る、年長者の一人として。


 僕には彼らの幸福を護る仕事がある。泣いてしまった。一回目の世界では、理恵は僕よりも先に、僕の見守る中死んだ。二回目は、まだ生きていたけれど、三年後に死ぬ。そんな世界から僕はやって来た。この時代の僕も理恵も、まだワクチンを打っていないはずだ。今ならまだ助けることが出来るはずだ。


 主賓の挨拶が終わり、乾杯となった。裕二にとっては知らない人ばかりだろうが、新郎側の席はみんな僕が招待した客だ。僕は一人一人に挨拶して回る。懐かしい顔ぶれ。もちろん、弟だということは忘れずに。


「海津先輩。今日はありがとうございます」

「おう、裕二。しばらく見ないうちに随分大人っぽくなったな」

「もう大人というよりおじさんですよ。先輩より十歳くらい年上かな」


 バカ言ってんじゃねぇよ、と笑う海津の耳元に、


「今日陽が西から昇った」


 と呟いた。


 海津の顔が一瞬で凍り付くのが分かった。そして、その奥から、歓喜のようなものがわき上がってくるのも。


 海津は席を立つと僕の肩を抱くようにして会場の外に連れ出した。出るや否や、我慢しきれないといった感じで、


「裕二、おまえは、誰だ?」

「おまえの実験は成功だ」

「ああ。そうみたいだ。信じられない。本当にそんなことが起こるなんて。とにかく、おまえは誰なんだ」


 僕は扉の向こうの高砂を指さして、


「あそこに落ち着かないで座ってるやつだ」

「達也か?」


 僕は頷く。


「僕は裕二じゃない、達也だ」

「達也、おまえ、いつから来た?」

「2031年」

「おれの薬は……、いや、やめよう。これ以上は聞かない。先入観こそ発明を駄目にしてしまう」

「だが、そんな呑気なことを言ってる場合じゃない。十年後の世界は文字通りデストピアだ。だからこそ、おまえの怪しい薬を僕は飲んだんだぜ」

「とにかく、詳しい話しは今度、ゆっくり聞かせてくれ」


 僕は名刺を海津に渡す。その名刺には会社のだけではなく、自分の住所も書いておいた。


 海津は席に戻る。このあと友人代表の挨拶が控えていた。僕は海津の挨拶を覚えていた。ウイットに富み、和ませてくれるもの、言っちゃいけないすれすれの話しをして笑わせてくれた……、はずだったのに、今回の挨拶はどこか上の空で、台詞を忘れたようにおどおどして、チラチラと僕の方を見て、早々に切り上げてしまった。


 いくら時空を超える実験が成功したからって、あんなおざなりの挨拶は、この時代の僕に対していささか失礼ではないだろうか。やっぱり、友人代表の挨拶が終わった後に話すべきだったと反省した。

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