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アフター・ワクチン ――君打ちたもうことなかれ――  作者: 星香典
第五章 寿命はあと十九日
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第五章 寿命はあと十九日 07

「意識と体を分離?」


 僕は首をかしげる。そんなこと、俄には信じられない。


 海津は念を押すように言葉を並べていく。


「意識や記憶を、体から分離させて飛ばすことが出来るんだ。理論的には。分かりやすく言うと、モバイルAからシムと記憶メモリーを取りだして、他のモバイルに移せば、移したモバイルは機種が違ってもモバイルAと呼ぶことが出来る。シムもメモリーもデータに過ぎないから、そのデータだけを移せばいい。人間の自我がシムで記憶がメモリー。だから、達也の自我と記憶を別の人間に移せば、その人間の中身は達也になる、ってこと」

「そりゃ、また開けたらダメな扉なんじゃないの?」

「科学者はみんなマッドサイエンティスト。特におれは。でも、まずはじめに自分で実験したんだから、すごく倫理的だろ?」


 そういうのを倫理的というのだろうか?


 僕は醒めてしまった酔いを戻そうと、グラスに残ったワインを飲み干してみたが、ワインの味がするだけで、酔いは戻ってこなかった。


「で、僕が被験者第二号ってわけ?」

「もちろん強制じゃない。自らの意志で飲んでもらう。同意なく飲ませることはしない」


 どこかで聞いたことがあるような言い回しを、海津は可笑しそうに言った。


「分離された自我と記憶は物質じゃないんだ。空間だけじゃなく、時間も自由に移動出来ると考えられる。ただ構造的に、意識のない個体に移ると思う。その方が干渉が少ないから。だから、有り体に言えば、脳死とか、気絶とか、意識を喪失している個体に移るのではないか、っておれは推測してるんだけど」

「理論的にはってこと?」

「そう。だから、おまえのデジャブの話しを聞いたとき、もしかしたら、と思った。おれがもしこの薬を誰かに飲ませるなら、もっとも仲がいいやつだろう、って。で、おまえはなんらかの事情があって、過去の記憶と現在の記憶が混在してしまっている」


 小瓶を手にとって眺めた。なんら変哲のない液体が入っている。これで、自我と記憶が分離されるなんて、俄には信じられない。


「もし仮に、上手くいって、僕が誰かの体の中に入ったとする。そうすると、その体のもとの持ち主はどうなる?」

「動物実験はした。健康被害はそれほどないと思う。ただ、動物だとその自我と記憶がどこに飛んだか確認出来ない。まだ第Ⅰ相すらクリアしてない治験中の薬品だよ」

「副反応はなんだっけ?」

「一晩苦しむ。事例は一つだけだけ」


 どうせあと九日で死ぬ。違う。モバイルで確認すると、あと八日で死ぬと表示されていた。


 僕は台所に下がってワイングラスを洗って戻った。


「どうせなら、グラスで飲むよ」


 海津はグラスに、まるで酌でもするように薬品を注いでくれた。


「もし意識が別の誰かの体に入ったら、おれに会ってこう伝えてくれ。『今日陽が西から昇った』って。おれしか知らない合い言葉だ」


 今日陽が西から昇った。呟き頷いて見せた。


 乾杯でもするかのようにグラスを掲げて、僕は一息でその液体を飲み干した。

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