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アフター・ワクチン ――君打ちたもうことなかれ――  作者: 星香典
第五章 寿命はあと十九日
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第五章 寿命はあと十九日 03

 ケーキも食べ終え、珈琲を飲みながら、僕は何の気なしに、


「僕が死んだら、理恵はまだ三年以上あるわけだし、僕に気兼ねなく好きなことしたらいいからね」

「なにそれ?」彼女は俄に表情が固まり、「そっか。もし達也よりわたしの方が先に死んだら、達也は好きなことして生きるの? わたしと一緒じゃ好きなこと出来なかったっていうこと?」


 そんなことはひとことも言っていないし、思ってもみなかった。


「もし、君が先に死んだら、僕も死ぬ。……いや、そういう意味じゃない」


 慌てて取り繕う。僕はなにを言っているんだろうか。僕ではない、もう一人の僕が話しているかのように、自分の声が聞こえてくる。


「僕は、ただ理恵に、僕がいなくなった後も幸せになってもらいたい。それだけ。それ以上でもなければ、それ以下でも――」


 理恵は僕の前に両手を押し出して、僕の言葉を遮った。


「やめようよ。未来の話しは。まだあと十日もあるんだよ。この十日間、二人で過ごして、たくさん楽しいことして、美味しいもの食べて、欲しいもの買って、行きたいとこ行って、観たい映画見て、読みたい本読んで――」


 今度は僕が理恵の言葉を遮る。


「十日じゃ到底出来そうにないよ。あと十日、一緒にいて欲しい。それで十分」

「もちろんだよ。休みも取ったし、会社の電話にもでない。達也と一緒にいる」


 僕は彼女が好きだった。結婚してよかった。そう言ってもらえるだけで、幸せを感じることができた。そんな感動的な夫婦の会話を邪魔するように、僕のモバイルが震えた。知らない番号からだった。ここ数日、行政や医療機関や保険屋などから電話がかかってくることが多く、知らない番号はなれていた。でも、今はもう二十一時を回っている。訝しがりつつ出てみると、


「あぁ、もしもし、達也か?」

「まさか、おまえ」

「おう。そのまさかだ」


 電話の向こうでおかしそうに笑っている。


 海津だった。


「今日結婚記念日だろ? おめでとう」

「ありがとう」


 海津には結婚式で友人代表を務めてもらった。


「結婚記念日邪魔しちゃ悪いから、手短に要件を言うが」

「もう邪魔してくれたよ。最高にいい雰囲気だったのに」

「それは済まない」


 全然済まなさそうに聞こえない。


「おまえ、五年ぶりだろ。これまで、なにしてたんだよ」

「その話しも含め久々に会いたいなって。急で悪いが明日行っていいか?」


 台所に食器を下げている理恵に、明日海津が来るけどいいか聞いてみた。


 明日は裕二君のお墓参りだから夜ならいいんじゃない? とのことだ。


「夜でいいか?」

「ああ。そのつもりだった」

「晩飯でも一緒に喰おう」

「オーケー。楽しみにしてる」


 ということで、急遽、明日海津が来ることになった。


 僕と理恵は顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。


「どうする? どっか食べに行くか?」

「でも、ここの方が落ち着いて話せるんじゃない? わたし久しぶりに料理作るよ」

「僕も手伝うよ」


 夜、彼女を抱いた。十年たってますます綺麗になった。若い女性とは違う。急に若い女性との情事が頭に浮かんだ。そんな光景は一瞬で消えたのだけれども、なんか浮気をしたような気がして、慌てて僕は彼女の唇を塞いだ。

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