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アフター・ワクチン ――君打ちたもうことなかれ――  作者: 星香典
第四章 生きている妻
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第四章 生きている妻 04

 アパートに戻ると同時にこの時代の僕から電話がかかってきた。


「裕二今日はごめんな、急に店舗で問題が起きてさ」

「いいよ。忙しいのは分かってる。来週会えるの、楽しみにしているから」

「そう言ってもらえると助かるわ。理恵も喜んでた。おまえのこと褒めてたぜ、随分変わったって」

「僕も先輩に会えて嬉しかったよ。あ、兄貴、先輩泣かすようなことしたら、マジで許さないから。冗談抜きで」


 電話の向こうの僕は笑っていた。その笑いは本心からの笑いか、それとも、思い当たる節があるのでごまかすための笑いか、この僕ですら判断がつかなかった。


「そんなことしないように頑張るから。安心しろ。それより、時計ありがとう。高かったんじゃないか?」

「高かった。使ってくれると嬉しい」


 電話を切る雰囲気になってきたので、僕は慌てて、


「兄貴、ワクチン、予約とかしたの?」

「ああ。したよ。明後日打つ」


 お願いだからやめてくれ。


「先輩も一緒に打つの?」

「いや、仕事の都合とかあるから、別々に予約したよ」


 せめてもの救いだった。

 僕は平静を装って、


「でもさ、なんかワクチン効かないらしいじゃん。もうちょっと様子見てもいいんじゃない? 打っても感染してる人多いし」


 電話の向こうの僕はため息をついて、


「もう予約もしちゃったしな」

「そんなもん、取り消せばいいじゃない」

「ぶっちゃけ、僕が打とうが打つまいが、おまえには関係ない話だろ。それに、僕一人の問題じゃなくて、社会のためってのもあるしな」

「社会ってなんだよ」

「社会は社会だ。おれたちが生きているこの現実を護るためだよ。だから、おまえも打てよな」

「いやだ。打たない」


 アッシュの同調圧力実験ではないが、みんなが間違えた答えを選ぶことによって、次の人の選択肢が間違えた方向に引き寄せられる。そして、社会とやらは滅び行く。


「僕のためだと思って打ってくれよ」とこの時代の僕は妙なことを言い始めた。「たとえば、僕が感染したとする。それでおまえと会う。そのとき、ワクチンを打ってないおまえが僕から移って、重症化してしまう。ワクチンを打っていれば重症化しなかったのに。たぶん、おまえはそれでもいいと言うと思うけど、僕はおまえを重症化させたくないから、打っておいて欲しい。結局自分のためと言われたらそうかもしれない」

「じゃあ、僕がワクチンの副反応で重症化する分には構わないってこと?」

「そうは言ってない。だって、ワクチンで重症化する確率、コロナで重症化する確率よりも低いだろ?」

「そんなことない」僕はスリープになってるPCのキーボードを叩く。「新型コロナウィルス感染症、死亡者性・年齢階級構造、日本、2021年九月二十七日時点、二十代の死亡者数、二十六人だよ。出典は国立社会保障、人口問題研究所。この一年半で、たったの二十六人だよ。ワクチン後の死亡は全年代併せて千人超えてるわけで、厚労省の心筋炎の報告だって、ほんの四人しかいないのを、百万人あたり換算して八百人とか盛りに盛ってる」

「じゃ、仮におまえの言っているように、コロナよりもワクチンの方が危険だとして、なんで厚労省はそんなものを国民に打たせたがるんだ?」

 厚労省もマイザーもわかりにくくはしているが、ワクチンが危険であるデータは示している。だから、この時代の僕の問いへの回答は、

「僕たちが打ちたがってるからだよ」

「べつに打ちたがってるわけじゃない」

「なら、打たなきゃならないような空気が醸成されているからって言おうか?」

「これ以上おまえと話しても無駄だな。とにかく、結婚式で変なこと言うなよ。それだけは頼むわ」


 この時代の僕は電話を切った。


 ガルシアショックの後に様々な検証がなされた。なぜワクチンは打たれたのか。ガルシアは人口削減のため。製薬会社は売り上げのため。政治家は票のため。マスコミは視聴率のため。一般市民は自分のため、もしくは、社会のため、もしくは、空気のため。

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