第三章 ワクチンで死んだ少女 12
だってアンタ、裕二じゃないでしょ?
いつかは誰かにバレることは覚悟していたが、唐突に言われたので驚いた。
「なんでわかった?」
「は? バカ? 冗談に決まってんじゃん」
僕も冗談めかして笑って見せた。三杯目の生を飲み干して、お変わりを頼む。バレてないのはよかったが、信じられていないっていうのも、自分が認められていないようで複雑な心境だった。
「アンタはどこから見ても裕二。でも」と由奈は眉間を寄せて、「裕二は字が下手だった。社内イベントで、ほら、式次第みたいの書いて壁に貼ったでしょ。アンタ子どもの頃習字習ってたとかで、書かされてたけど、笑えるくらい下手だったじゃん」
裕二は僕と一緒に習字教室に通っていた。でも、裕二はすぐにやめてしまって、僕だけ大人になっても続けていた。
「あれは、わざと下手に書いた」
「ふーん。そうは見えなかったけど。アンタが最近変なことは確か。仕事も忘れちゃう。ワクチンも急に嫌いになって、前はさ、わたし、なんか避けられてたような感じだったけど、今はそんな気がしないし。デモなんか絶対に来ないと思ってたけどアンタは来た。お酒だって、そんなに好きじゃなかったよ、つきあいでは飲んでたけど」
そう言えば、裕二はいつも控えめで、僕が二杯飲むと一杯飲む、みたいな感じだった。ほんとは酒、好きなんだよ。と運ばれてきた四杯目も半分くらい一気に飲む。
「どっちだよ。僕は裕二か? それとも裕二じゃないのか?」
「アンタは裕二だよ。それは間違いない。ただ、コロナに罹った後性格が変わったのも間違いないと思う」
人間の中身が入れ替わりました、などという話、信じろという方が無理なのかも知れない。
「まぁ、この際、僕が誰であるかはひとまず置いといて、信じてもらいたいのは、僕が未来で見てきたこと。ワクチンパスポートは実用化され、来年には接種が義務化される。毎年二発ずつ打たれて、五年後にはみんな死ぬ体になってしまってる。だから、僕たちはこの災害を止めなければならない」
「昔のアンタは、ちょっと頼りない感じで、優柔不断で、世間の空気に流されまくる感じで、でも、すっごく優しいとことか、同期だったし、わたしの相談や悩みもよく聞いてくれたし、それで、ちょっと好きだった。付き合えたらいいかなぁ、なんて思ってた。でも、今のアンタにはそんな風には少しも感じない。アンタと恋愛しようなんて思えない」
「嫌われた、かな?」
「違うよ。今、アンタとわたしは、同士だ」
この日も由奈は普通に帰っていった。飲み過ぎた酒で、足元がちょっとおぼつかなかったが。月曜からの仕事の段取りはまかせて、と改札の向こうで手を振っていた。
部屋に戻って、ネットを開くと、YAHOOのトップに今日のデモが載っていた。これほど大きく取り上げられたら、過去の僕だって気がつかないはずがない。ひょっとしたら、僕が過去に来たことによって、歴史が変わったのかも知れない。
SNSでもデモ、暴動は大きく取り上げられていて、賛否は分かれていた。もう六割がワクチンを打っていて、ワクチン非接種組はどんどん少数に。でも、接種した人でさえ、ワクチンパスポートはおかしいと声を上げてくれている。
二回打ったが三回打つのは嫌だという人もいる。話が違うと言う人も。ワクチンの効き目が科学的に揺らいできている。というより、科学を騙った目眩ましにもだんだん目が慣れてきて、真実の輪郭が見え始めてきた。面白いコメントがあった。曰く、数字は嘘をつかないが、嘘つきは数字を使う。三回目、四回目を阻止しなくては。




